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11. シャシン(1)

 一週間が経った――――

 

 その日は朝からヘレムとサラナに捕まり、また念入りに湯殿からのフルコースをユキは味わっていた。

「何もドレスまで着る必要は無いんじゃない?」

「いいえ。外でお仕事をがんばっていらした男性をお迎えし、癒やして差し上げるのも、宮で待つ女の勤めです」

 ヘレムの鼻息は荒い。

「……ドレスで癒やされないと思うけど」

「癒やされます!」

「……それでは、違う方法で癒やして差し上げますか?」とサラナ。

「肩もみとか……?」

「まさか!」

 サラナが笑みを浮かべてユキの耳元でささやいた。

 

 ユキが赤面する。

「あのさ! なんかアルスと私をまとめようとするけどさ。違うから。そんなんじゃ無いんだから!」

「では、どんなご関係で……?」


 ――――ご関係……


「ト……トモダチ……?」


「友達!?」2人がそれを聞いて笑う。

「笑わないでよ! でも本当にそういうんじゃ無いんだって」

「わかりました、わかりました」

「とりあえず次は背中をいたしますから、はい、寝そべって下さいね」


 笑われてユキはむくれていたが、渋々とヘレムの指示に従う。


 私とアルスの関係って……何なんだろう……?

「友達」という言葉もしっくりとこない気がしていた。


 

 8の鐘(15時頃)が鳴る頃皇子一行が着くという知らせをもらい、宮殿の入り口で待つことになった。

 

 皇子達が到着すると、コルトから下りるアルスにユキはお辞儀をして、「お帰りなさい」と声をかけた。

 久しぶりに会うと妙に照れくさい。

 アルスもユキを見つめて、「ただいま」と返事をする。

 

 そこにググンの騒がしい声が割って入った。

「ユキ様、お久しぶりでございます。今日は一段とお綺麗で神々しいですね! ところで、『女神の書』はいかほどお進みになりましたか?」

 ググンがペラペラとしゃべりかけるので、その応答にユキは四苦八苦していた。


 その間にアルスが、ヒシグ率いる居残り組の文官に囲まれると、宮殿へと入って行ってしまった。相変わらず多忙な様だ。



 出迎えを終えると、後ろにいたヘレムとサラナが、

「ホントに図々しい」とか「うるさくて、配慮が無い」とググンの事を散々言っている。


 その言い様があまりにひどくて笑っていると、今度はユキがとばっちりを受けた。

「笑っている場合ですか!?」とヘレムがため息をつく。


「ただ『お帰りなさーい』だけなんて……。『さみしかったわ』とか『帰ってきてくれてうれしい』とかいろいろあるじゃありませんか」


「そんな事言いません」

 

 今度はサラナも一緒にため息をつく。ため息の二重奏だ。

 


 

 アルスは夕食にも出てこられず、結局ユキは1人で食事を済ませた。

 お風呂に入りたいと訴えたのに、もうしばらくそのままの姿でいるように2人して言うのだ。

 業を煮やしたユキは、2人には頼らずに湯殿へ行き、髪に絡まった簪を取ると、ドレスをポイポイ脱ぎ捨てた。


 お風呂から上がると、ゆったりとした、絹のワンピースに着替え、部屋のソファでぐったりと寝そべった。

 書庫で今日できなかった仕事でもしようかと思っていたのに、お風呂に入ると、もう今日の一日は終了したような気分になってしまう。

 

 湯殿で片づけ物を終えたサラナが部屋に戻ってきた。

「そういえば今日はセレーネの月ですわ」

 夏の終わりの時期の満月の日の事を言い、その夜は月を愛でる習慣があるのだそうだ。


 時間もある事だし少し窓から夜空を眺めていると、ヘレムが翡翠宮の屋上にあるテラスで見てはどうかと言ってくれた。

「お酒もお持ちします」という甘い言葉にユキは喜んで提案を受け入れた。




 屋上は夜風が通り涼しかった。

 ヘレムが持ってきてくれたお酒はあの「アガナ」とは違い、少し甘い黄色いお酒だった。

 女性向けのお酒の様でとても飲みやすかったが、一杯だけで止めようとユキは思った。


「ねえ、ヘレムもサラナも一緒に飲もうよ」

「そうしたい所なんですが、実はまだ急ぎの仕事が残っているんですよ」

「いいじゃん」

「そうしたいんですけどねえ……次は必ず準備しておくので、その時は3人で飲みましょう」

「そっか。ざーんねん」

 付きあわせるのも悪いので、しばらく一人になりたいからと、ユキはヘレムとサラナに部屋に戻るよう言った。

 

 

 空にはまん丸の月が浮かんでいる。

 明かりも何も無い真っ暗になった大地を静かに照らし出している――――


 月を見ていると、ユキはなぜだか日本を思い出す。

 日本にいる時には毎日せかせかと忙しくて、下ばかり見て生きてきたように思う。

 月だって、ビルの合間にあるものや家々の屋根の上にぽっかりと浮かんでいる物と、たまに目が合う程度だった。

 

 それでもこの世界にある他の何よりも、日本を感じることができた。形も光も何も変わらずにそこにあるからだ。

 

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