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9. かわいくないひと(1)

 明確な目的ができると、ユキの心も何かしっかりとした地盤を与えられたようで、ユラユラ揺れ動くことは無くなった。

 ただどうしても「女神」と言われる事には抵抗があった。


 自分は偶然この世界に落下してきたような気がしていた。

 手に図書館で借りた本を握り締めて。

 自分の考えの及ばない力が働いているとしても、それ自体はユキの力ではない。その力に流された普通の人間だ。


 ここがどこかはわからない。

 日本がどこにあるのかもわからない。

 けれど、大きな力がこの世界にあるとするならば、この本を完成させた時、ユキはこの世界から解放されるのではないかと思ったのだ。

 

 元居た場所へ――――あの教室へと帰れるのではないだろうか?

 

 

 そんな考えを巡らせていると、ユキの部屋に大量の荷物を持ったヘレムとサラナが入ってきた。抱えた荷物で二人の顔は見えない。


「どうしたの? 何これ?」

 驚いて二人の手から、積み上がった荷物を下した。


「エレノワ様からです」

 荷物の包みを開いてみると、色とりどりのドレスと、装飾品。靴やヴェールなどが大量に出てきた。


「どうして?」

 驚いたユキは更に2人に問いかけた。


「今日の夜は皆さまの歓迎の宴が催されるのです。こちらにいらしてすぐ、ユキ様が寝込まれていたでしょう。落ち着かれてから、ゆっくりと開く事になっていたのですよ」


 ヘレムが言うと、サラナがそれに続いた。

「それでエレノワ様が若い頃お召しになっていたこちらを、ユキ様に着てもらいたいと仰って、運んできたのです」


 二人は荷物の中のドレスを広げて、キャッキャと黄色い声を上げている。

「エレノワ様はとってもおしゃれなんです。このドレスも、首飾りも本当に素敵ですよ」

 サラナに合わせてもらったけれど、ユキは全く気乗りしなかった。


 洋服は好きだし、おしゃれも好きだ。こんな見た事の無い豪華なドレスに心も弾む……はずだけれどユキには嫌な思い出があった。

 

 あの知事宅での宴だ。

 飲みすぎるは、アルスとケンカするはで、散々だった。


「ねえ。それって欠席アリ?」



 ユキの言葉は戯言ざれごととして処理され、二人には湯殿まで付いて来られてしまった。

 待っていたのは服を引っぺがされての、入念なマッサージだ。


 気持ちは良かったが、素っ裸で恥ずかしい。一人で入るとあれだけ主張したのに二人はユキの意見を見事にスルーしてきた。


 湯殿から出ると、絹のビスチェにピンクのカーテルを巻かれ、肩からは短めのシフォンのヴェールをかけられた。金の豪華なイヤリングと首飾りを付けられ、髪は上半分を結われ、赤い宝石の付いた髪飾りがつけられた。

 化粧も念入りにクリームを塗られ、目にはアイライナーをしっかりと入れられた。鏡では確認できなかったが、その筆の扱いで濃い化粧がされている事はユキにもわかった。



「……できましたよ。ユキ様ものすごくお綺麗です」

 ヘレムとサラナの歓喜の声があがる。


 ようやく解放されぐったりとしながら、全身を映せる鏡の前に立った。

 そこには今まで見たこと無い、煌めくようなドレス姿の女が立っていた。

 髪は艶やかに光っていて、目元には水色のシャドウが入っている。くっきりと入ったアイラインで目は自前の物より2倍くらい大きく見える。口紅も濃い紅がさされていた。

 

 ユキはこの顔をどこかで見たような気がしていた。

 

 ……そうだ! 七五三の写真だ!

 

 幼い自分が母の真っ赤な口紅をされて、唇だけが白い頬に浮いているのだ。アイラインのおかげでなんとか収まっているものの、顔を洗えば「誰?」と言われてしまいそうなくらい顔立ちが違う。


「…………私、浮いてない?」

 

『お綺麗です』

 制作者の2人は息もピッタリだ。


 これはもう宴にはこっそり入って、下座のできるだけ目立たない所でやり過ごそうとユキは考えた。


「……ところで宴はいつ始まるの?」

「もうとっくに始まっておりますよ」

「えっ? それじゃもう出なくていいってこと?」

 ユキは一瞬期待したが、その期待は一秒もかからずサラナに叩きつぶされた。


「ユキ様のご登場が今日の宴のメインイベントですわ」



 ユキは絶対宴には出ないと言い張った。しかし二人ともか細いくせに力が強い。ズルズルと引きずられるようにして、ユキは大広間へと歩いた。


「エレノワ様がお待ちですよ。ユキ様のドレス姿を楽しみにされていたのですから。怒るとエレノワ様はとっても怖いですからね」

 

 確かにエレノワ様は怒るとめちゃくちゃ怖そうだ。ユキは牛歩戦術をあきらめ2人に従うことにした。


 二階にある広間の前の大きな両開きの扉の前に来た。中からは大人数の話し声や笑い声が聞こえてくる。

 

 ……まさかこの扉から入るの? 絶対無理!


「ねえ、2人とも。せめて裏口からこっそり入らせて。ね? お願い!」

 必死に訴えるも2人はウンとは言ってくれない。

 そうこうしているうちに扉がギギッと両側に開かれた。


 ユキは結婚式はしないと決めていた。


 何度か親戚の結婚式に参列したが、あのみんなに注目されるカンジが苦手だった。入場の度に拍手とフラッシュの嵐。ドレスへの憧れはあったけれど、みんなに注目されてニコニコ手を振るなんて恥ずかしすぎて絶対にやりたくないと思っていたのだ。

 

 ……そのお鉢がまさかこんな形で回ってくるなんて

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