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6. 二人の時は(5)

 甲板まで連れて行かれて、そこでユキはアルスに抗議した。

「何なのよ? せっかくみんなと楽しくおしゃべりしていたのに」


「それは悪かったな。仕事が片付いたから顔を出してみれば、お前はどこにもいないじゃないか。心配するだろ」


 アルスは私の保護者か?


 激しくツッコミたかったが、ユキは堪えた。


「とにかくもうすぐ夕食だろうし、おとなしくしてろよ」

 

「そっか。じゃあ、また厨房を手伝うわ」

 アルスをよけて今上ってきた階段に向かおうとすると、アルスが腕でその進路を塞いだ。


「どいてよ」言ってもアルスは腕をどかしてくれない。


「厨房は今から火を使うんだぞ。船の上は揺れるし危険なんだ」


「大丈夫だよ。洗い物だけやるから」


 アルスが眉を上げる。

「お前は『客人』って事になってるんだよ。客が仕事場に混ざったら皆に気を遣わせるだろ? 邪魔になるんだよ」


 アルスにズバリと言われユキは想像した。


 確かに……バイト先にオーナーの知人が出張ってきたら――――

 そりゃ邪魔だよね


 自分の立場にようやく気づいたユキは少し肩を落とした。

 

 甲板の手すりにもたれかかると、無言のまま刺してくる夕日に目を細くした。

 黄金色のそれは少し藍色にそまりつつある。



「……まあ、皆楽しそうだったし。別にそんなに邪魔だったわけでは無いと思うけど……」

 アルスがそんなユキを見て、苦し紛れのフォローを入れる。


「別にへこんでないよ。きれいな夕日だなあって見てただけだから」

 夕日を眺めたままでユキは呟いた。


 

 空と夕日と海との境目は極彩色の幻のようで、その先に自分の故郷があるようには思えない。

 みるみるうちに藍色が濃くなり、風は夜をはらんでいく。


「このままガシュインには行かずに、世界一周でもしてみるか?」

 アルスも遠くを見つめながらユキに話し掛けた。

 ユキは夕日から目を逸らし、隣に立つアルスの顔を見上げた。


「……そうだね。見つかるかもしんないよね」


 きょとんとした顔で、今度はアルスが水平線から目を離しユキの顔を見返してきた。


「……何がだ?」


「何?って……。日本が見つかるんじゃないかって話。島国だって言ったじゃない」

 口をへの字に曲げてユキは言った。


「……そう……だったな」


「もしかして、私が一緒に船に乗ってる理由忘れてたんじゃない?」

 ユキが思わず笑ってアルスの顔を下から覗き込んだ。


「……ここ最近バタバタしてたんだよ。別に忘れていたわけじゃないからな」

 

 ユキがまだニヤニヤしながら顔を見てくる。


「本当だよ!」

 アルスがユキの視線から逃れるように、ふいと顔をそむけた。



 そうか…………

 ユキは故郷へ帰るんだな


 

 船が進む水平の先にぼんやりと陰影が浮かびあがる。

 近づくにつれそれはくっきりと姿を現す。

 見た事の無い島は緑の茂る島で、大きな港に接岸すると、ユキは喜んで飛び跳ねるように船から降りて行く。

 

 そうしてこの船を見上げて手を振るのだろう。


 その時ユキは笑うのだろうか?

 それとも少しは自分達との別れを惜しみ涙を見せるのだろうか?

 

 それから再び自分はこの船でサインシャンドを目指すのだ。

 

 今度こそ本当に

 自分の置かれている世界に


 静まり返った船に揺られて…………



「……じ? 皇子? 聞いていらっしゃいますか?」

 

 突然ヒシグの声に現実に引き戻された。

 ユキと甲板で話をしていた所、ヒシグに見つかり再度仕事の続きに追われていた。


「ああ、すまない。次の資料に進もう」


 ヒシグがアルスの言葉を受けても、資料をめくろうとはしない。

「皇子、あと急ぎの案件はお一つです。半時ほどで終わると思います。それから後の時間はユキ様とゆっくりお過ごしになれると思いますよ」


 ヒシグはにっこりとほほ笑んだ。


 アルスが目を丸くする。

「お前何か勘違いしてないか? 別に俺とユキは……」


「……これは失礼いたしました。てっきり皇子はユキ様の事を考えていらっしゃるのだと思いましたので……」

 

 アルスはこのヒシグの言葉には答えなかった。

 確かにユキの事を考えていたのは図星だったのだが、別にそういう事では無い。


「いいから、次だ」

 アルスは次の資料をめくった。


 

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