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5. 蘇生(1)

 翌朝、朝日が昇り始める頃三人は出発した。

 次はトーレスから南東にあるセレンゲという港町を目指すらしい。


「もしかして船に乗るの?」

 今日もユキは馬上でアルスの背中にしがみついていた。


「もしかして船にも乗ったことが無いのか?」


『馬には乗ったことがある』と言ったのに、船に『も』とは聞き捨てならない。


「船にも乗ったことあるわ。おじいちゃんの家が離島だからフェリーなら何度も乗ってる」


「ふぇりー……」


「大型船よ」



 ピィィィィィ



 頭上からサイの鳴き声がした。馬上から先の方を見ていると、土煙が舞っているのが見えた。


「キャラバンか?」とアルスが呟いた。


 キャラバンなら何となくユキにも想像がつく。

「隊商」という事よね

 実際に見た事はないけれど、物語なんかにはよく出てくる。


 遠くに見えていた土煙には、すぐに追いつく事ができた。

 キャラバン隊は20人くらいの集団で、馬車を何台も引き連れていた。

 それぞれの馬車の後部には、幼い子どもたちがちょこんと腰かけているのが見える。女性や老人の姿も見えた。

 

 いろんな人がいるのね――――

 ぼんやりとその姿を眺めた。

 

 アルスとモリの馬が近づくと、馬車の後ろの子どもたちが手を振ってきた。馬にも慣れてきたユキはニコリと笑って手を振り返す。


「あの人たちもセレンゲに向かっているのかな?」


「たぶんそうだろうが、きっとこの先のヨデル湖で一緒になるだろ」

 

 今日の日暮れにはセレンゲの町に着くと誤解していたけれど、トーレスからの道のりは遠いらしい。


「ヨデル湖って……湖の側に村とか町があるの?」


「何もないが水だけはあるな。セレンゲに行くならヨデル湖で一晩過ごす者が多いだろう」


 ユキは何となく嫌な予感がした。


 何もない湖……

 まさか野宿じゃないよね……?


 

 赤土の荒野は次第に青々とした草が生い茂り、ポツリポツリと背の低い樹木が連なりだした。

 トーレスからの道のりは立て札があったり、草の茂る道もしっかりと踏み固められていて、馬車もすれ違う事ができるような街道になっている。

 

 ヨデル湖が近づくと、道端には黄色い小さな花がびっしりと咲き誇っている。この時期が見ごろの『レト』という花だそうだ。

 

 レトの咲く道を抜けるとヨデル湖が見えてきた。

 大きな湖で遠くには水鳥達がたくさん見える。

 湖の手前側には草原が広がっていて、多くの馬車や馬が止まっていた。その合間を白っぽい布がはためいている。

 いくつか露店も並んでいて、まるで人気のキャンプ場のようにユキには見えた。


 手ごろな場所を見つけると、アルスとモリは馬から荷を下し、積んでいた白い幕を張り始めた。

 眺めていたユキだが、そっとモリに近づきアルスには聞こえないように尋ねた。


「もしかして、ここで野宿するの?」


「天幕を張るので大丈夫ですよ」

 モリは朗らかに、そっと答えてくれた。

 

「…………そっか」

 ユキの嫌な予感は的中していた。

 

 いくら天幕を張るといっても、それは簡単な作りのもので、ユキの思い描くようなポリエステルのテントとは比べものにならない。


 ……やっぱり野宿に近いなあ

 

 天幕を張り終えると、モリは荷物から鍋や器を取り出し、昨日トーレスで仕入れていた食材を刻み始めた。


「私も手伝うわ。バイトでやってるから、切るのは得意よ」

 

「ありがとうございます。でもお疲れでしょうし、ゆっくりしていて下さい」

 モリはにこやかに答える。

 つられてユキもにっこりと返す。


 手持無沙汰ではあったけれど、その場に座って、手際の良いモリを見つめているとアルスに声をかけられた。


「薪を集めに行くぞ」


 アルスの後ろを付いて雑木林の方へ向かった。

 アルスが太い枝を集め、ユキは小枝を集めながら歩いた。

 



 しばらく林の中を歩いていると、湖の方から何やら騒がしい声がしてきた。

 誰かが酔っぱらって騒いでいるのか大勢の声がする。


「何だかお祭りみたいだね」


 声を掛けると、アルスが立ち止り湖の方をうかがった。


「…………違う……叫び声だ!!」

 

 拾い集めた薪を放り出し、アルスは一目散に湖に向かって走り出した。


「そこにいろ!!」


 聞こえたが、ユキはアルスの言葉を無視して後ろを付いて走った。

 

 湖の岸には大勢の人が集まって声を上げている。

 

 人々の視線の集まる湖の中ほどを見てみると人の頭が見えた。

 人影は三人くらいだろうか。

 ユキの近くで泣き叫ぶ女の人がいる。


『……子ども……』という言葉が聞こえた。

 

 子ども? 

 子どもが溺れているの!? 

 

 ユキは人垣の中にアルスを探したがどこにも見えない。

 湖の方をもう一度眺めると、アルスが人影に向かって泳いで行くのが見えた。  


「アルス様!!!」


 モリの叫ぶ声がした。人を掻き分け血相を変えたモリも湖の中へ入っていく。


「モリさん!」

 名前を呼んだがモリには届かない。


 大丈夫かな……


 心配で大勢の人と湖の中を見守った。

 

 ユキの側の女性は隣の人に抱えられながら泣き叫んでいる。

 

 お母さんかな……

 

 一番に湖に飛び込んでいた大柄の男性が、小さな男の子を抱えて戻ってきた。

 男の子は泣きじゃくりながら母親に抱きしめられた。

 抱きしめながら、女の人はまだ悲痛な顔をして湖の方を眺めた。


 男の子は、「お姉ちゃん。お姉ちゃん」とまだ泣きじゃくっている。

 

 ……もう一人いるの!? 

 

 ユキはまだ戻らないアルスとモリの方を見た。

 

 アルスに抱えられた、もう一人の小さい影が見える。

 こちらに向かって泳いでくる。

 

 ユキは心臓がドキン、ドキンと動いているのを感じた。

 


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