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魔王の城にて

○魔王の城にて


 しゅうううううう。

 目の前が暗くなった。直後、また明るくなった。かがり火とかび臭い部屋が目に飛び込んでくる。

「わっはっっはっは」

 正面の玉座に座っている牛のようにデカイ魔物が、たからかに笑い転げていた。

「いいぞ、いいぞ! 絶好の退屈しのぎがやってきたわい! たっぷりいじめてやるから、覚悟するんだな!」

 ロカカは、さっと身構えた。水鉄砲を取り出し、しっかりとそいつに銃口を向ける。

 そのとたん。

 水鉄砲が、ぶーん、とうなりだした。びっくりして、ロカカがその鉄砲を見つめている。アイリが見やると、魔物は眉根を、こんもりともりあげていた。

「それはなんだ―――」

 言って、魔物は近づこうとした。アイリは、はっと身を震わせた。

「だめ、伏せて!」

 身体ごとぶつかると、ギャオスとシルヴァンシャーがぐうっとうなった。

 間一髪、水鉄砲の先に集まってきた光の筋が、突風のように吹き抜けてゆく。それとともに、牛のような魔物に、その光が直撃した。

「ふん! こんなもの!」

 かがり火にてらてらと光る鱗が、はじけて飛んだ。水鉄砲の威力はまったく通じていない。むしろ、魔物に力を与えているようだ。

「われのなかのフォックスが、こいつの力を中和しておる!」

 魔物は、舌なめずりして低くうなった。

「あいつを喰ったのは、正解じゃった……」

「フォックスを、食べた?!」

 アイリは、身震いしてしまった。ロカカは眉をひそめている。ひとりシルヴァンシャーだけは、「やっぱりねー。やられキャラってあるのよ~」と、訳の分からないことを言っている。

「水鉄砲の威力は、魔物には効くが、人間には効かぬ。じゃによって、フォックスをたきつけ、自分から魔王であるわれを倒しに来るようにしむけたのじゃ。もはや水鉄砲などおそるるに足らず! これからは、われの天下じゃ!」

愕然として、ロカカは胃がズシンと落ち込むのを感じた。なんという悪辣なヤツだろう! たしかにフォックスは、ちょっとばかり、鼻につく性格だったが、だからといって喰われていいとは思えない。

 ロカカは、じっくりと魔物を観察した。顔のところは、フォックスに似ていなくもない。身体全体は鱗に覆われ、鈍い青銀いろに光っている。玉座から身を乗り出してそっくりかえっているところをみると、油断しまくってるように見えるが、ロカカには、隙が見つからなかった。 魔王は、指先を水鉄砲に向けた。ロカカは、がたがたと手の中で水鉄砲が暴れるのを感じた。まるで暴れ馬のように水鉄砲が手の中で震えている。

「くくく……。フォックスの力は強いぞ……。抵抗は無意味だ……」

 魔王は、すっかり楽しんでいるようである。

 ロカカは、床に手を押しつけて、水鉄砲を奪われまいとした。そして、絶望的にアイリを見上げた。アイリは、なにかいい呪文はないかと魔法書をひろげているところだ。シルヴァンシャーはキャーキャー言って叫んでいる。この女神は、なにか役に立っているのだろうかとロカカはあやぶんだ。

「魔王さま! あなたは、人間の力を取り込まれた。わたくしめの力も、取り込んでいただけないでしょうか!」

 突然、ギャオスが叫んだ。驚きで一瞬手が緩み、水鉄砲は軽々と魔王のところへ飛び込んでいった。魔王はそれをもてあそびながら、

「おぬしを取り込んで、なにが得なのじゃ?」

 と、問い返した。

「―――魔王さま、人間を喰ったからといって、人間を支配できるわけではありません。わたしめは、人間と一緒に旅をして、人間のなんたるかを知っています。その知識を取り込むために、わたしめを喰ってください!」

 ギャオスは、ひざまずいて言った。

 アイリは、恐怖の面持ちでギャオスを見つめている。

「なにを言い出すの! あなたは旅の大切な仲間よ!」

「わたしが魔王と合体する瞬間に、水鉄砲を取り戻してください。そして、喰った直後に水鉄砲で魔王を倒すんです。魔物を取り込んだ魔王は、人間の部分を減らしている。そこに勝機があるんです」

 ギャオスはロカカとアイリにささやいた。

「だめだ……」

「だめよ!」

 二人が止めようとしたが、ギャオスはそれを振り切って、魔王の前にひざまずいた。

「さあ、喰ってください!」

「面白いヤツ。われに知識を与えようというその忠誠心は見上げたモノだ。よかろう、お望み通り喰ってやる!」

 突然、魔王の後頭部が大きく開いた。みるみるうちにそれは大きな肉食の鳥のクチバシのようになった。クチバシとちがうのは、そこにずらりと大きな犬歯がならんでいることだった。

「だめ!」

 アイリは、魔法書を放り出した。しかし、クチバシはギャオスめがけて突っ込んでくる。ロカカは短剣を取り出して、魔王の手の水鉄砲を叩き落とした。と同時に、クチバシは、ギャオスを飲み込んだ。

「ああ、ああ、ああ!」

 悲鳴があがった。ロカカは唇を噛みしめた。ギャオスの犠牲を無にするわけにはいかない。

「くらえ、化物!」

 ロカカは、水鉄砲を発射した。

 大きなうわばみのような光が、水鉄砲から発射された。そのまま光は、クチバシに直撃した。「うぬ?」

 魔王は、一瞬たじろぐ。そして、慌ててギャオスをはき出そうとするが、喉が詰まっているらしく、うまくいかない。

 光は魔王を取り囲み始めた。どこからか歌が流れてきた。見やると、シルヴァンシャーが歌っているのであった。その歌は、魔王を打ちのめし、どろどろに溶かし、そしてただの泥水に変えてしまった。

「―――ギャオス!」

 アイリは、床の泥水にかがみ込んだ。ロカカもそれにならう。

「ギャオス!」

 魔王は、死んだ。

「ギャオス……! 死ぬな! 頼む!」

 ロカカは、涙を浮かべていた。

 ひとのよい魔物。

 いじめられ続けていたというギャオス。

 それが、こんな結末なんて。


「え? 死んでませんよ?」

 おなじみの声が、背後で聞こえた。

 振り返ると、五体満足のギャオスが立っていた。

「あのねー、聖なる魔物には、一回だけ復活の呪文が使えるんだよー。どうよ、わたしも役に立つでしょう!」

 シルヴァンシャーは、胸を張った。

 ロカカとアイリは、ギャオスに駆け寄り、抱きしめて言った。

「生きていてよかった!」

「ばか、心配したんだぞ!」

 そんな会話を聞きながら、シルヴァンシャーはいじいじと、

「だれも感謝してくれない……」

 とボヤくのであった。


 ○終わりに


 こうして魔王は退治された。

 世界は再び平和になり、シルヴァンシャーは神界に戻ることになった。

 ギャオスはロカカたちの村に戻り、いまでは神殿の神官になっている。

 ロカカとアイリは結婚しなかった。

 その代わり、いまでも時々出てくる森の野獣狩りに、一緒に出動する。

 二人は会うたびに口論し、仲がいいのにとみんな不思議がっていた。

 この話は、これで終わり。 

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