学校にて
会話という名の説明会
前話の翌日、月曜日
「で、親御さんとの話し合いはどうだったのよ?」
昼休み、学食で大盛り月見うどんを啜る俺に話しかけてきたのは、保育園の時からの付き合いで級友でもある道畑兆治。奴はボリューム重視で卵とじのかつ丼を選んだようだ。
「おぅ、問題ない。俺も唯子も開始前には全部揃えられそうだ」
事実、夕食時の家族会議では問題もなく唯子の入学祝いとしてのVR機器購入は認められ、ゲームもいいが勉強も疎かにしないようにとの定番の忠告を頂いた程度。両親もMOAに期待してるので、どんなプレイが出来るのか、どんなプレイをしてみたいのかにすぐに話題が移行していったし。
「それはなにより、なら始まったら唯子ちゃん交えて狩りに行ったりしようぜ」
こいつはMOAのβテストの募集に受かったテスターなのだ。俺達兄妹を誘い興味を持たせたのもこいつである。
「コンビでやるつもりだから唯子とは大体一緒かな。でも兆治の方もテスター時の付き合いとかあるんじゃないのか?」
再びうどんを啜る。温かい麺が喉を通るのは、この冷える季節にはたまらないと思う。
「んー、時間がきっちり合う奴らばかりでもないからな、割と大丈夫たと思うぞ。あとテスター仲間は男ばかりなので可愛い唯子ちゃんと一緒にやりたいじゃん」
「うちの妹が可愛らしいのは認めるが、そういう言い方されると組みたくなくなるな」
む、実際は唯子と兆治は顔なじみで仲も良いから、何の問題もないのは解ってるつもりなのだが、つい言葉を荒げてしまった。
「この兄バカめ」
くそ、ニヤリと笑われた。兄馬鹿の自覚はあるがどうにもならん、ほっといてくれ。とりあえず話題を戻そうとしてみる。
「まぁ、そこは置いとくとして、出来ることが確定したんでβテスター様ににMOAついてレクチャーを願いたいのだが?」
「公式サイトの方は見てたんだろ?俺はあれで十分かと思うのだが?」
「そこはそれ百聞は一見にしかずとは言うけど、実際体験したテスターの談は是非聞きたい」
と言うことで兆治先生お願いします、と促してみた。
「ふむ、じゃあ適当に知ってる事を話すので聞いとけ。MOAは所謂スキル制のゲームだ。スキルのレベルを上げることで各種パラメーターが伸びる様になっている、βテストの時は作成時に8個まで持てる。そのうちの一つは宝具で決まる初期スキル。作成時に取らなかったスキルも所持してるスキルレベルが上がればSPというスキルを取得するためのポイントが手に入り、新たなスキルを持ったり出来るようになっている。とは言え所持スキル数が10を越えると、控えと呼ばれるスキルを使用してもレベルが上がらないところにスキルが配置されるから、控えのスキルを上げようと思ったら組み換えとかが必要になってくる」
「宝具と初期スキルが決まってから残りのスキルを取る、でいいのか?」
「その通りだ。折角の宝具にスキルが噛み合わないなんて事がないようにって事だと思う」
「なるほど、スキルにはどんなものが?」
「剣や斧、鎧みたいな武器や防具のスキル、料理や調合といった生産スキル、腕力や耐久力といった特定のパラメーターを伸ばすベーススキルに夜目や発見といった感覚スキル、勿論魔法スキルもあるし、○○知識みたいな知識系や楽器演奏とかの趣味的なスキルもあるぞ」
「なるほど、スキルによってのパラメーターの伸びは調べればわかる?」
「いや、MOAはパラメーターはあるが数値化では見せてもらえないんだ、だから割りと個人の感覚頼りだな。ただ検証好きが調べた結果、ベーススキルの伸びは特化した分大きいみたいだ」
「パラメーターの種類の数は?」
「筋力、耐久力、知力、魔力、精神力、器用さ、敏捷性、それとHP、MP、EP」
「HPとMPはなんとなくわかる、EPは?」
ヒットポイント、マジックポイント、Eは何だろう?エネルギーかエクストラ?
「エネルギー。長く走り続けたり戦闘でアーツ使ったりする時に使うやつだな」
「アーツってのはスキル上げると出来るようになる技って事か」
「だな。二段突きとかスラッシュとか。動作のアシストにその時の攻撃の威力の上昇って感じだ」
兆治がシュッと突きを繰り出すような動作をしてみせる。
「アシストって勝手に動かされるのか、気持ち悪くね?」
「そこは慣れかな。使った後に大なり小なり硬直なんかもあるけど、決め技用に使ったりすれば大丈夫。βだと上手い奴は硬直少ないアーツの組み合わせでコンボ決めてくるのもいたし、逆に硬直嫌ってアーツ使用しないスタイルの人も割りといたな。まぁ実際使ってみて判断してくれ」
兆治は特に嫌な顔はしていないし、言葉の感じからすると決め技でのアーツ使用派らしいな。これは実際試さないと判断できないか。
「他に聞きたい事は?」
「一応各パラメーターの説明を全部してもらえるか?」
「OK、まぁ、大体は言葉通りだが。
筋力は武器攻撃の威力や装備可能重量に関係する。高ければ重いものも持てるし、殴りが痛い。
耐久力は物理ダメージの減少や気絶や毒等の肉体的な状態異常の抵抗力に関係する。高ければ硬いし踏ん張りが聞く。
知力は鑑定能力や探索能力に関係する。高ければ色々解るし、目端が利く。
精神力は魔法ダメージの減少や睡眠や魅了等の精神的な状態異常の抵抗力に関係する。高ければ我慢強い。
魔力は魔法に関すること全般に関係する。高いと魔法が凄い。
器用さは精密動作に関係する。高ければより思い通りに体が動く。
敏捷性は移動速度や反応の速さに関係する。高い方がより早く動ける。
HPは生命力だな。敵の攻撃とかで0になったら死に戻りだ。
MPは魔力容量になるか。0になっても倒れたりしないが、一度完全に回復し切るまで魔法は使えなくなる。
EPはさっきも言ったがエネルギー、持久力といったところか。0になると疲労困憊で暫くの間かなり動き難くなる。」
「数値化はされないのにHP、MP、EPは0になるのが解るのか」
「こう、視界の端の方に3つステータスバーがあるんで、その3つは大まかにだが解るようになってんだわ」
指で四角く区切り右上の辺りを示し3回線を引いた。兆治の側から見たら左上に表示されるらしい。
「HP、MP、EPの増やし方は?」
「検証ではHPが筋力と持久力、MPが知力と魔力、EPは精神力と器用さが高いと多いって言われてる、他のパラメーターも影響はするかもだけど、そこは不確定」
「なるほど。ところでだ」
「何だ?」
「食べないのか、かつ丼」
兆治の前にある全く減っていない丼を示してやる。喋ってるうちに結構冷めてしまったのか、丼からも付け合せの味噌汁の椀からも湯気が消えている。
時計を見れば昼休みは残り10分。
「うぉっ、喋りすぎた!わかってたなら言ってくれよ!」
慌てて掻き込みだす兆治を見つつ、既に麺を食べ終えた俺はこの月見うどんのメインとも言える生卵をつるりと口に含み潰しながら味わっていった。




