ある冬の日曜日
なんとなく勢いで書いてみて初投稿。
「兄にゃー」
我が家の2階にあるこの俺、街城京也の部屋のドアを開け声と共に頭部に感じる重み、そしてやわらかな感触。
「ん、唯。首尾はどうだった?あと寒いしドアぐらい閉めれ」
家の中でこんな事をしてくるのは妹の唯子だけなので、頭で押し返しながら声を投げる。春は近くなってるとはいえまだ2月、この辺りは雪も割と降るので開けっ放しは寒いのだ。
第一唯子も4月から高校生となるのだし、いい加減恥じらいの一つも持って貰いたいと思うが、持ったら持ったで寂しくなるんだろうな。
「多少予想外があったけど、概ね問題なしだと思うー」
唯子はベッドに腰掛けそんなことを言ってきた。
「予想外?」
「ん、父さん達もやるみたい」
「達ってことは母さんもか」
まぁ、父さんも母さんも昔ゲーマーだったと聞いてるし、今でも家ではボードゲームで遊ぶことも多いからなんとなくわかる。
とはいえアナログゲーム中心でVRMMOみたいな新しい物にはあまり興味がないと思ってたので意外といえば意外だ。
「時間加速に興味あるみたいだねー」
そんなことを言いながら頭の上でゆらゆら揺れる唯子から話を聞きつつ、目の前のPCに移るサイト改めて見る。
『Mastre of Artifact Online』
これが唯子の高校入学を機に二人で始めようと思ったVRMMOの名前だ。
VRMMOはここ数年でVR技術と共に大きく発達してきたジャンルで、今ではもう現実と変わらないと言われてる、らしい。
『Mastre of Artifact Online』(通称MOAとかMOAOとか宝具使いと呼ばれてる)はそんなVRMMMO業界でも大手と言われてる会社が出した今春の最新作。
「各種五感の再現」「ゲーム内の時間加速」「宝具というユニーク装備の全プレイヤ-配布」「センターと呼ばれるアミューズメント施設との連動」というモノを売りに出して4月から開始予定だ。
五感の再現はその名の通り、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の全てをリアルのように感じられるとの事。痛覚まで再現したら駄目じゃないかと思うがそこはゲーム、軽減やカットも設定で出来るらしい。
時間加速はゲーム内の時間が現実よりも早く流れるということで去年辺りから実用化されてきてる技術だ。
家庭用のMOAではおよそ3.5倍、2時間が7時間になる計算だ。技術的にはもっと伸ばせるらしいけど、家庭用の機器で行う分に安全で、かつ同じ時間にしかゲーム出来ない人でも昼夜を感じられるようにとした結果らしい。
アーティファクト配布はキャラクター登録時に全員が必ず一つもらえるユニーク装備で、武器や防具、魔法の発動具など多岐にわたるらしい。
貰うアーティファクトで初期スキルが決まるし、強化することでずっと使い続けられるゲーム内での相棒とも言えるものだそうだ。
ユニーク装備の名の通り同じものは一つとして無いらしく、例えば「炎の剣」というカテゴリのアイテムでも
・刀身に炎を纏って炎属性の追加ダメージ
・刀身自体が炎で出来ていて攻撃自体が炎属性に
・刀身が赤熱化して攻撃力と切断能力向上。
・向けた切先から炎が噴き出て一定距離の敵を纏めて燃やす
・振ると火球が飛んでいって範囲に爆発を引き起こす
等と一部剣じゃなくてもいいと思うけど色々分かれるらしいし、名前もそれぞれ違うものが付けられてるとの事。
厨二病的な感覚を刺激されるのがいいし、最初から全員に行き渡るので良いアイテムを持ったからチートだ何だと個人優遇みたいな風潮も仕様という事で抑える目的らしい、なにせ全員自分だけのアーティファクトを持つのだ。
最後のセンターとの連動というのは国内のいくつかのアミューズメント施設をゲーム運営会社が買収、専用の機器を設置する事でMAOを遊ぶことが出来るというもので、家庭用よりも加速する時間が速くなんと約72倍。大体1時間でゲーム内で3日分が出来るとの事。
家庭用とはサーバーもマップも違うらしいけれど、家庭用で作ったキャラをセンターに持ち込む事も、またその逆も可能。
普段家庭用で遊びつつ偶にセンターでがっつりとスキルの集中強化とか、センターでお試しで始めて気に入ったら家庭用の購入なんかも視野に入れてるらしい。
お値段は月額課金制で家庭用はVR機器の準備等、事前準備には結構かかるけど、月額自体は参加人数の見込める大手の強みか今時の学生の小遣いでも十分に払える程度というのも嬉しい所。
発表のあった秋から二人でせっせと貯めた小遣いとお年玉と短期アルバイトの収入で1台を、そしてもう1台を唯子の高校進学祝いで用意しようという魂胆で、つい先程見事唯子は両親との交渉に成功したのである。
「父さん達もするとなると、普段から夜通しの廃人プレイはさすがに無理か」
まぁ、そんな事は早々する気はないのだけど。
「仕方ないねー。まぁ、その辺の事も合わせて夕食に軽く家族会議だってー」
「ん、わかった。今日の夕飯はなんだって?」
「今日はミートソースー♪」
唯子は好物であるパスタということもあって上機嫌だ。
「じゃあ降りるか」
「うんー」
さて、どんなどんな会議になるのやら。