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蒼い狼  作者: 三条 楓
6/7

類似、ではなく酷似

朝、斎藤は蒼司に言われた通りに寺へと向かう。

太鼓が聞こえたためか足速に境内に入る。

掃き掃除をする坊主の向こうに道場が見えた。


多くの子供が防具をつけていた。



蒼司はと言うと。


ぐるりと見渡せば向かいの上がり口近くで竹刀を天に掲げ斎藤を呼んでいた。


試合はこれからのようだ。



「この次なんです。」


蒼司は面をつけながら言う。

そして続けた。


「可笑しくても笑わないで下さいね。」


何が可笑しいのか。

斎藤には分からなかった。



「これから曲芸する訳ではないんだろ?」


「違いますよ。」


斎藤の質問に、蒼司は面をつけながら答える。



大負けするということだろうかと思案巡らせる。

斎藤は負けると初めから言う奴が嫌いだった。



「負けるのか?」


眉間に皺を寄せて聞いた。

斎藤の声は自然と低くなる。


しかしそれに負けず劣らず、眉間に皺をよせ声を低めた蒼司。



「は?勝ちますよ。」


喧嘩売ってるんですか、とでも続きそうな勢いである。



さて、何が可笑しいのか。

考えても思いつかない。

斎藤はその時を待った。



鉦がなり試合の終わりを告げる。



「行ってきます。」


蒼司はゆっくりと腰を浮かせた。


面の隙間から覗いた目に斎藤は驚く。


明らかに目つきが違うのだ。

へらりと笑っていた顔が今は何故だろう。

眼光鋭く、纏う雰囲気も近寄り難い。



太鼓により始まった。


そして斎藤はやっと分かった。

笑うなと言った意味。



周りで何人かが笑う。

蒼司が先生だと言った男も頭を抱えた。



蒼司の構えに問題があったのだ。


斎藤も目を見張り、その後笑った。



蒼司の父、沖田総司には特徴的な構えがあった。


左肩を引いて右を前に半身を開くが、総司はこの開きが極端で剣先が右寄りになる特徴があった。

この構えのまま斬り込んでくる相手の力を利用して斜め下から擦り上げて面を打つ。


蒼司はそっくりそのままをやってのけた。



斎藤は総司を見ている錯覚に陥る。


終わりをしらせる太鼓が鳴り響く中、始まりを知らせる鉦の中に聞こえた笑い声は今は聞こえなかった。



勝ち抜きで蒼司は次の試合を始めた。


他に総司の剣には小刻みな三本突きがあった。

手応えなくても素早く引き戻し間髪入れずに、また突く。

掛け声と足拍子三つが一つに聞こえたのを斎藤は思い出す。



そして動いた。



蒼司は相手を突きに出た。


「やっやっやぁっ!!!」


短く気合いを三つ。

けたたましい足拍子を三つ。

そして電光のような突きを三つ。



決まった。



鉦で試合は終了した。


勝ったのは無論、またも蒼司である。


誰も蒼司を止められなかった。


「笑いましたよね?」


面をとればいつもの蒼司。

拗ねているように頬を膨らませた。



「お前の父親そっくりだ。」


構え方から切り方、突き方までが同じであることを斎藤が言えば蒼司は真剣に聞いていた。



過ぎ行く時を二人、遡り昔を語る。




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