訪問、時として談笑
蒼司に連れられてきた家は広く、商人の家だと斎藤は踏んだ。
中から出てきたのは斎藤より少し若いであろう女。
蒼司はお母さんと呼び斎藤のことを語る。
新撰組だと聞くと顔を上げて斎藤を見た。
そして
「どうぞ」
と、優しく笑い斎藤を客間へと通した。
蒼司は着替えてくるように母に言われ部屋から出て行った。
さぁ、何から話そうか。
斎藤は迷った。
相手が何を思っているのかが分からない。
はかりかねた。
「あの子は総司さんに似てますか?」
女は唐突に聞いた。
斎藤は素直に頷いた。
「私もそう思います。
ただ私は総司さんの一面しか知らなかったから。」
寂しげに笑った。
「近藤先生に別れさせられたのは貴女だったんですね。」
斎藤が言えば女は目を伏せた。
肯定ということだろう。
「正直驚いた。
まさか子供がいたなんて。」
斎藤は沖田は女遊びをしないことで有名だったこと。
その沖田に女が出来たというから皆が気になっていたという事を伝えると
「総司さんの相手はどこにでもいる町娘だったんですよ。」
時々夢ではないかと思ってしまうと女は言う。
「沖田さんは知っていましたか…
子供のことは。」
斎藤が聞けば女は頭を振った。
嫁いでから暫くして気付いたから伝えようがなかったのだ。
子供好きな沖田のことだから、きっと可愛がったんだろうにと斎藤は思わずにはいられなかった。
皮肉なものだ。
子供が出来ていることを知れば、近藤も無理には引き離さなかっただろうに…。
女はそれからゆっくりと話し出した。
沖田総司の子であっても自分の子供同様に世話をしたいと言った商人。
その言葉を信じ女は蒼司を産んだ。
三人で何だかんだ幸せな生活をしていたという。
しかし蒼司は養父を父と呼ぶことは養父自身によって許されず、養父も蒼司を呼び捨てにせず敬称をつけ呼んでいたらしい。
沖田に対する敬意かもしれない。
商人は少なからず新撰組が贔屓にしていたことは確かだ。
そんな商人も去年他界した。
今は商人の遺産で細々と暮らしている。
女は話し終わると咳込んだ。
風邪であろうか。
斎藤が聞けば曖昧に笑ってみせた。
「私は新撰組の沖田総司さんについて知りません。
しかしあの子はいつも新撰組の彼を求めています。
もしお時間があれば暇なときに話してやって下さい。」
頭を深々とさげた。
途中から蒼司も交じり談話した。
蒼司は無邪気な笑顔で明日の約束を斎藤に取り付けた。
斎藤も興味があったらしく快く引き受けた。
明日は剣道の稽古試合があるのだ。
それを見に来いと蒼司は斎藤にせがんだ。
生憎明日母親は予定があるらしい。
斎藤は引き受けその日は屋敷を出て宿へ帰った。
京の夜はいよいよ昔を香らせる。
斎藤の足取りは軽く闇を闊歩していく。