興味、いわゆる初恋
沖田総司と恋仲であった町の娘は可愛らしい女子であった。
愛嬌があり気転がきき面倒見がいい。
総司はそんなところに惹かれた。
娘は総司の子供好きで子供うけのいい明るく素直な性格に惹かれたのだった。
総司にとっても娘にとっても初めての恋である。
初々しかった。
馴れ初めは総司が壬生寺の境内等で子供と遊んでいたところらしい。
娘は弟達に手をひかれ遊びに来たのだった。
いつも屯所から抜け出して総司は来る。
その日も相変わらず。
境内に入り総司を見つけると、いよいよ弟達は駆け出す。
手をひかれ娘も総司の前へと来た。
総司は昔から人見知りする質だった。
特に女子は姉しか関わりがなかった。
どう接していいか分からない。
お互い軽く会釈をして総司は子供達の輪に交じって行った。
娘は階段へと腰掛け様子を見る。
弟達と同じように笑う総司が次第に気になりはじめた。
総司も総司で遊びながらも視線は気付けば娘を追っていた。
どうしていいか分からず目が合えば逸らした。
感じ悪いな、総司は自分をそう思う。
京都の童歌を教えてもらっている最中に巡回中の土方に見つかった。
巡回がてらにサボり癖のある総司を探していたのだから当然ではある。
土方は総司に二、三話して先に境内の入口へと向かった。
娘は腰を上げ頭を下げた。
すると土方は娘の前で足をとめた。
「いつもうちの総司が世話になっている。」
土方は苦笑混じりに言った。
娘は自分が初めて総司に会ったこと、いつも弟達だけで境内に遊びに来ていたこと、総司には逆によく面倒をみてもらい助かっているという旨を早口で伝えた。
娘は男にも、ましてや武士と言う身分にも慣れていないらしく前で握った手はきつく結ばれ顔は赤くなっていた。
話しかけたのが逆に悪かったかと土方は内心苦笑した。
「そんなに緊張しなくていい。」
土方が笑えば頭を下げ娘も少し笑った。
子供達と別れの挨拶を交わした総司は娘のもとへと来た。
「新撰組の方だったんですね。」
娘は土方を見ながら言う。
娘が新撰組をどう思っているのか知らない。
だから出来れば総司は自分が新撰組だと知られたくなかった。
嫌われたくなかったのである。
いつまでも隠し通せる訳ではないが可能な限り隠すつもりだった。
黙っておくつもりだったのに。
しかし思いもよらぬ土方の出現により、それも不可能となった。
「新撰組の方達はきつくて怖い方ばかりだと思っていましたが…
少し意外です。」
娘は笑った。
総司も笑った。
「もう行かなくちゃ。」
総司は土方を指差す。
そして続けて
「行きたくないや。」
子供のように頬を膨らませた。
「お仕事頑張ってください。」
娘は頭を下げた。
総司は頷く。
「また来ますか?」
娘が聞けば総司は満面の笑みで答えた。
「明日も抜け出して来るよ。」
二人で笑った。
新撰組隊士は可哀相に巡回に行く者が日替わりで総司を探す羽目となる。
しかしそれは半ば巡回の仕事の一つと既になっていたのだが。
短く別れを言い総司はゆっくりと土方に向かって歩いた。
背中に感じる視線は誰のものであったか。
総司は名残惜しくも、又、心地好かった。