月の環境問題
100年前から地球温暖化と言われ続けて来たのにかかわらず、各国のエゴにより先送りを続けてきた「つけ」が今回ってきたのだ。2015年に開催されたフランスでのCOP21以降、先進国と開発途上国の非難合戦は、20××年の最後のCOP会議でもなんら変わることなく終焉を迎えた。
今さら、何らかの結論がでたとしてもすでに地球は回復不可能な状況を迎えており、あと数年で人類は地球上に住むことは出来なくなることは明らかとなっていた。アメリカの衰退により、数年前から世界のリーダーとなっていた中国は、最大の環境破壊物質の拡散国でありながらも世界各国へ驚くべき提案を提示した。
それは、月への人類移住計画だった。当初、そんな無謀な、まず、地球の環境良化をすべきであるとの各国の主張はアメリカが受け入れたことで、月への移住に大きく舵が切られた。日本はあくまでも、自らの技術力で地球の環境は元に戻せると強く主張したが、中国の裏工作によりあえなく日本に同調する国も、移住計画に賛成することになってしまった。
移住計画は当初から困難を極めた。月の国境の問題で各国の主張が相容れず、また、どの国から移住を始めるのかは、国境問題以上に決めることができなかった。しかしながら、各国は月の現状調査隊を送ることについては一致し、早急に各国から専門家の代表を送ることに合意した。調査隊のメンバー3人が決まり月への出発に備えることになった。
3人を乗せたロケットは月が一番近づくスーパームーンの日に打ち上げられた。最新の環境調査用機器が積み込まれたロケットは、地球を回る軌道に乗り、それから、月に向かう双曲線軌道に乗り、月を目指した。数日後、無事ロケットは月の表面に着陸した。
月に到着した3人は無事に月に到着したこと、これから行う調査の成功を願ってささやかな、パーティーを開催した。それぞれ、ロケットの打ち上げ前に示し会わせていたように、ひとりはビンに入った紹興酒、ひとりは缶に入ったバドワイザービール、最後のひとりはブラスチック容器に入ったカスピ海のキャビアを持ち出してきた。短い時間であったが、パーティーは終わり3人はこれから始める環境調査の準備に入った。
ひとりが調査準備を終えた時、問題が起こっていることに気がついた。3人が月に持ち込んだ食べ物が許可を得ていないことだった。中身はお腹に入っており見えることはないが、如何せんビン、缶、プラスチックは食べることはできない。地球の管制本部に許可を申し出て、謝りさえすればよかったのだが、3人が3人ともよからぬ考えで一致した。
3人はそれぞれ持ち込んだ、ビン、缶、プラスチックを宇宙船のハッチの前に集め、宇宙服を装着した。顔を見合わせた3人は、ニヤリと笑いハッチを半分ほど開けた。1、2、の3とばかり、それぞれが持ち込んだものを思いっきり蹴り飛ばした。地球の重力の6分の1ほどの月で、ビン、缶、ブラスチックはロケットから放物線を描いて遠くの彼方へ消えていった。
3人の環境専門家は、何事もなかったようにこれからの地球環境のため、自分たちの担う責任を感じながら、環境調査の準備に取りかかった。
20××年×月、ここに、月の環境問題が始まった。
終わり。