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3:ベアトリス・モーズレイ伯爵令嬢

「ごきげんようアメリア。今から図書室?」

 朝、図書室に向かって歩いている私に声をかけてきたのは、常連の一人であるベアトリス・モーズレイ伯爵令嬢だ。薄紫色の長い髪の毛を後ろでゆるやかにリボンで束ね、すみれ色の瞳を持つ強気で大人びているこの方は15歳。本人いわく私のことを、好きな作家が同じということで「同好の士」と認識しているそうだ。

 すみれ色の瞳は異母妹のマーゴと同じ色だけど、トリクシー様の瞳には意志の強さが宿っている点が違う。

「おはようございます、トリクシー様。今日も早いですね」

 本来なら愛称で呼ぶのはどうかと思うんだけど、“わたくしのことはトリクシーと呼びなさい”と以前に言われてしまったので、トリクシー様、と呼んでいる。

 トリクシー様が図書室にくるのは平日の午前中が多い。しかも、だいたい朝一にやってくる。

「混雑しているなかで本を選ぶのが嫌いなのよ。ゆっくり選べないじゃない」

「確かに平日の午前中はすいていますよね」

「今日はね、エルネスト陛下が15歳の頃に読んだという本を探しにきたの。アメリア、探してもらえるかしら」

 メモを受け取って私は思わず目を見開いてトリクシー様を見てしまう。


「いいですよ。これはまた難しそうな本ですね。あの、トリクシー様……」

「言わないで。私も眠くなりそうだとは思っているの。でも、これを読んだということを陛下にお話したいのよ」

 トリクシー様、国王様に絶賛片思い中で告白連敗更新中なんだけど全然諦めてないんだよね。その不屈の精神は見習いたいよなあ。

 そんな国王様は現在31歳。絵姿は褐色の瞳に淡い黄緑色の片目が隠れた髪型のたいそうな美形だ。

 トリクシー様は15歳だから歳の差16歳かあ……以前に歳の差のことを言ったら“愛に年齢差なんて関係ないわ”と一蹴されてしまった。恐るべし、愛

「国王様ってすごいですね。15歳でこんな題名からして難解そうな本を読むなんて」

「さすがエルネスト陛下よね。お亡くなりになった先代王妃様が俊才として有名な方だったから、その血を引いてるだけあるわよね」

「……あのトリクシー様。大変申し訳ないのですが、私はそろそろ行かないと」

「そうだったわね。アメリア、引きとめてしまってごめんなさい」

 私はトリクシー様にお辞儀をすると、小走りで図書室に向かった。トリクシー様の“愛しのエルネスト陛下”談義は結構長いので、非常に申し訳ないけれど私はいつもキリのいいところで終わらせる。

 まあ、全部聞く日がくるかどうかは怪しい。


 図書室に到着し、業務を開始する時間になると私はトリクシー様に頼まれた本を探しに一番奥の棚までやってきた。

 いつもユーグさんが座っている椅子は誰もいない。彼は午後に来ることが多いのは知っているんだけど、朝からトリクシー様のエルネスト陛下談義を聞いたあとのせいか、なんか顔が見たいなあ……と思っていると耳障りのいい声がした。

「おはよう、アメリア」

「おはようございます、ユーグさん。き、今日は早いですね」

「その代わり、午後が忙しいんだ」

「そうなんですか。じゃあ今だけはのんびり過ごしてください」

 私は話ながらもお目当ての本を見つけ、手に取る。「魔法学と政治の関連および制約について」……魔力のない私には縁のないものだ。

「その本を借りる人間がいるとは驚きだな。私が知っている限りそれを読んでいたのは1人だけだ」

 ユーグさんが、私が持った本を見てちょっと驚いている。

「まあ、そうなんですか。この本は国王様が読んだ本だと聞いたのですが、もしかしてユーグさんは国王様をご存知なのですか?」

 そういえば、ユーグさんって国王様となんか似てるような。

「い、いや、国王陛下もお読みだったのか。それは知らなかったな。それではその本を読んでいたのは2人か。うん、2人で間違いない」

「そういえばユーグさんって国王様と何となく似てますね。お名前も第二王子様と同じ……」

「他人の空似だよ。アメリア、私と陛下が似てるなんてそんなおそれおおい。それにユーグなんて名前はあちこちにいるぞ」

 いつも冷静さを崩さないユーグさんが、なぜか焦った口調になっている。


 ユーグさんってただの裕福な本好きじゃないのかな……私はユーグさんが遠い人のように少しだけ感じてしまった。

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