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9:3人にして迷うことなし

「ユーグさん、詰め所は2度目なので大丈夫ですよ?」

「ああ、そうだったな」

 だから腕はもう組まなくてもいいですって組むために取られた手を解こうとするけれど、騎士団副団長の押さえ込みに図書室司書が敵うわけはなかった。

「やあアメリア、相変わらずユーグと仲良しさんだねえ」

 そこにやってきのはスハイツさんだった。私の隣でユーグさんがため息をついた。

 なんとなく3人で以前に通された部屋に行くことになり、私を間に挟んで2人は会話を始めた。

「スハイツ、なぜお前がここにいる。魔道士長のくせにさぼりか」

「うわー、おっかねえ。で、アメリアは本当にユーグに会いにきたのかな?」

「い、いいえっ。ちょっと相談ごとがありまして」

「そうだ、私とアメリアはこれから応接間で相談することがあるんだ。お前の相手をしている暇はない」

「じゃあ俺もまざってやる。3人にして迷うことなしっていう昔の言葉があるしな。俺は役に立つと思うぜ?」

「あ、あのスハイツさんにまで迷惑をかけるわけにはっ」

「アメリアは遠慮深いなあ、気にすることはないって。さあ、相談内容を聞こうじゃないか」

「お前なあ……アメリア、こうなったらスハイツは頑固だから巻き込むほうが得策だ。悪いな」

「い、いいえ。こちらこそ申し訳ないです」

 ユーグさんが私に頭を下げてくるので焦ってしまい、私も頭を下げる。

「応接間の前で、なに2人で頭下げあってんのさ」

 スハイツさんがユーグさんに向かってにやついた。


なぜか私はユーグさんの隣に座るように言われてしまい、ものすごく緊張している。

「ふーん、アメリアも変なものもらっちゃったねえ」

 スハイツさんが手渡された紙をしげしげと見ている。紙の質をたしかめるようにさわったあと、こんどは手のひらを文面にかざしている。

「呪いは感じなかったぞ。俺だってそれくらいは分かる」

「一応念のためだよ。俺が確認したほうがさらに確実だろ?紙はけっこういいものを使ってるよね。文字に呪いもこめられてない。よかったねアメリア、もし呪いがかかっている紙をあけたら今頃きみの心身いずれかに異常がでていたはずだよ」

「え。そ、そうですね」

 もし呪いがかかっていたら、私どうなっていたんだろう…考えてると背筋が寒くなってくる。そのとき私の肩に温かい手がおかれた。

「アメリア、大丈夫だ」

 ユーグさんに“大丈夫”と言われたら、どうしてこんなに安心できるんだろう。

「あのさ、俺もいるんですけどー。もう2人だけの世界をつくっちゃって嫌だねえ」

「な、なにを言ってるんだ。私たちは別に」

「そ、そうですっ!」

「ふふん、じゃあそういうことにしといてあげるよ。なあユーグ、これに書かれてる“あの方”ってお前じゃなくてうちの兄上じゃないのか?お前、とにかく無愛想だしパーティでても陛下の護衛してるからダンスもしないだろ?その点うちの兄上はその場限りで愛想よくできるし、仕事と割り切ってお世辞の一つもさらりという人間だし」

 スハイツさんもトリクシー様と同じことを言う。しかしブラッドリーさん、結構な言われようだ。いいんだろうか。

「アメリア、気にするな。こういう言い方をしていてもスハイツとブラッドリーは仲のいい兄弟だ」

 私とマーゴでは国王様とユーグさん、ブラッドリーさんとスハイツさんのような関係は望めない。互いに嫌いじゃないのに埋められないものがある。今まで気にしていなかったのに、最近寂しく思う。


「で、ユーグ。まずはどういう対策をとるんだ?」

「まずは蓋の裏側に魔法石をつけてカゴを開けた人間を記録しようと思う」

「ま、初歩としてはそれが無難だな。じゃ俺が魔法石を提供してやるよ」

 そういうとスハイツさんは腰につけている巾着から白い石を取り出し左手に乗せた。そして右手の人差し指で石をたたく。すると石から赤い煙がしゅうしゅうと出てきた。

「えっ!な、なんですかっ?!」

「アメリア落ち着いて。スハイツ、そんな無駄な演出をするんじゃない」

「えー、こうして出したほうが効果抜群じゃないか。さあできた」

 そう言ってひろげた手のひらには透き通った石に赤色がマーブル状に混ざっているきれいな平べったい石。

「きれいな石…」

「魔道士長スハイツの魔力山盛りの特製魔法石だよ。これを蓋の裏側につけておくといい。蓋を開けた人間の顔を全員記録してくれるからね」

「は、はいっ。ありがとうございます。あの何かお礼を」

「どうってことないよ。あ、でもそうだな~。ユーグとうまくいったら俺にも教えてね」

「はっ?!」

「ス~ハ~イ~ツ~!!」

「お、副団長が怒った。じゃあ俺消えるから」

 ボンっという音と煙を残してスハイツさんは消えてしまった。



 数日後、紙を入れた犯人はあっさり特定された。寮で働くメイドの一人だった。

 ただ、騎士団の尋問に対し彼女は“紙を入れたのは私です”としか言わず、その理由には口をつぐんだままだった。

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