8:対策のまえに
ブラッドリーさんに呼ばれて部屋にきたユーグさんは、まず私を見て口を開きかけトリクシー様とジリアンをみて口を閉じ、ついでのようにブラッドリーさんを見た。
「まあ…ユーグ様って意外とあからさまですのね」
「そうですね、こういう方だとは思わなかったです」
「おふたりとも。ユーグは仕事以外では分かりやすいんですよ?」
3人の視線に気づいたユーグさんが、なぜか慌てた様子で咳払いをした。
「そ、それでブラッドリー、急ぎの用件とはなんだ?」
「実はですね……」
ブラッドリーさんも先ほどのからかうような口調から一転、私が持ってきた紙をユーグさんにわたした。
ユーグさんはわたされた紙を見ると、眉間にしわをよせた。
「なんだこの内容は。それに“あの方”とは誰のことだ?アメリア、心当たりはあるのか?」
「ユーグ様、その尋問するような言い方はいけませんわ。アメリアは加害者ではありません」
「そうですよ。もっと優しく話しなさい」
「うっ…そ、そんなつもりは…すまない」
「いいえ、私は大丈夫です。それと心当たりはありません」
でも“あの方”がブラッドリーさんかユーグさんじゃないかって思っているということを言うべきかどうか私は迷っていた。
「ユーグ様、私とジリアンの推測ですが聴いていただけます?」
私の様子を見て取ったのか、ジリアンとトリクシー様がうなずきあってトリクシー様が口を開いた。
「聴きましょう、モーズレイ伯爵令嬢」
「私、“あの方”というのはユーグ様かブラッドリーだと思いますの。アメリアが最近親しくしてる男性のなかで特に目立つのはあなたたちですわ」
「なるほど。確かに私はアメリアと親しくしているが…なぜブラッドリーが」
「私も陛下の図書室でいろいろな話をしましたからね。ヨルクも一緒ですが昼食も一緒に食べましたし」
「じゃあ昼食はヨルクと一緒だったのか」
「ええ、そうですよ。言ってませんでしたか?」
「ブラッドリー…おまえってやつは」
「ユーグ様、ブラッドリーはこういう男ですわよ。まあ腹黒いったら。やっぱり私、”あの方”ってブラッドリーの気がしてきましたわ。その推測を話してもよろしいかしら」
「ああ、かまわない」
「それでは。大変失礼ですけれど、ユーグ様は普段あまり女性に接しませんわよね。陛下の護衛として常に側にいらっしゃるし、仕事も騎士団ということであまり女性とは縁がございません。
でもブラッドリーは違います。必要な場合は率先して女性に愛想よくふるまっておりますもの。ブラッドリーの外面にだまされた女性たちのなかに紙片の犯人がいるのでは、と私は思うのです」
「ずいぶんな言われようですね。それも仕事の一環なのですから仕方ないでしょう」
「そんなのブラッドリーの都合でしょう。相手の中にはあなたの本性を知らずに本気で好きになった人もいるかもしれないわ。まったく怖いわね」
「人を外面だけがいいみたいに……失礼ですねえ」
ブラッドリーさんは言葉とは裏腹に、トリクシー様とのやりとりを心から楽しんでいるように見えるのは気のせいかなあ。
いつの間にか時間が思ったよりたっていたらしい。
「伯爵令嬢、その話は大変参考になった。感謝する。それとブラッドリー、じゃれあいは帰り道にでもしてくれ。どうせ帰りは送っていくのだろう?」
「ええ当然です。ジリアンも一緒にどうです?」
「いいえ、私はアメリアと一緒に歩いてかえ…」
「すまないジリアン。私はそろそろ騎士団に戻らねばならない。でもアメリアから事情を聴いたうえで対策も考えなくては何もできない。アメリアは私が送る」
「あ、それもそうですね。じゃあブラッドリー様に送ってもらいます」
「え?!ちょっとジリアン?」
思わず驚いてジリアンのそでをひっぱると、親友はうふふと微笑んだ。
「確かに被害者本人から事情を聴きたい気持ちは分かるもの。アメリア、ちゃんと事情を話すのよ」
言うことはわかるけど…なんか、落ち着かないんだよ…でもユーグさんが忙しい時間を割いてくれたのに私の一存で断れない。
「うん大丈夫。ユーグさん、よろしくお願いします」
「じゃあ、とりあえずここは解散。アメリアは私と一緒に詰め所に行こう」
その場は解散になり私とユーグさんが詰め所に行こうとしたら、ジリアンが追いかけてきた。
「ユーグ様、何か分かったらアメリアだけじゃなく私たちにも教えてくれますか?」
ジリアンがユーグ様を見据える。
「わかった。必ず教える」
ユーグさんの言葉にジリアンは安心したようでお辞儀をすると、トリクシー様とブラッドリーさんのいる場所に戻って行った。
「じゃあ行こうか」
そう言ってユーグさんが当たり前のようにすっと腕を曲げた。




