7:ジリアンに連れられて
申しわけありませんが、長文になります。
ご了承ください。
ジリアンが私を連れてきたのは王宮の一部屋。象牙色に上品な植物の模様が書かれた壁、窓には淡い青色のカーテン、つやつやに磨かれたこげ茶色の重厚な家具。壁に1枚の風景画が飾ってあるだけだが控えめだけど選び抜いたものだけがこの部屋の住人になっている。
ジリアンが王宮護衛の騎士に何事か告げると通されたのがここだ。王宮に勤務している女官の方がお茶を持ってきてくれた。
「ジリアン、ここって」
「ん?ブラッドリー様の王宮内にある私室」
「ふーんブラッドリーさんって趣味がいいんだね…じゃなくてさ」
「だってトリクシー様からの指定なんだもん」
「は?!なんでトリクシー様がここに出てくるのよ」
「お待たせしてごめんなさい」
トリクシー様が入ってきて私とジリアンの会話は中断された。
「…これはひどいわね」
ジリアンに言われた持参した紙を見てトリクシー様は眉をひそめた。
「でしょう?アメリアったら私やトリクシー様に黙って一人で我慢しようとしたんですよ。ひどいですよね」
「まあ!アメリアったら、私たち友達なのにひどいですわ」
「い、いやあのですね。しばらく待ってればおさまるかなーなんて思ってた…」
「「どこがおさまったの?」」
「……すいません、全然おさまってないです。でも私、そんなに気にしてない…」
「アメリア。私だけじゃなくて室長もあなたの様子が変だなーって思ってるんだけど?隠せてないわよ」
「うっ」
「ま、今回の騒動がおさまったら我が家に招待するからじっくり聞かせてもらいましょう?私、アメリアにいろいろ聞きたいことがあるんですの。ジリアンもよね?」
「ええ、私もアメリアに聞きたいことが山のようにあるんです」
「な、何を聞きたいの」
「「秘密」」
ああ、2人の笑顔が怖い。
「まずはここに書かれている“あの方”が誰かってことが気になるわよね。この文面だと男性の可能性が高いわね」
トリクシー様が紙をピンと指で弾く。
「私が接した方たちの範囲で“あの方”なんて呼ばれる男性はユーグさんかブラッドリーさんだと思われます」
「ユーグ様とブラッドリーね…。アメリアは騎士団詰め所に行ったときにスハイツとも会ったと聞いたけど。彼のこととは思わないのかしら?」
なぜそんなことまで知っている、トリクシー様。いったいどんな情報網をお持ちなんだ。しかもブラッドリーって呼び捨てだし。
「トリクシー様、アメリアがいろいろ戸惑っています。まずはブラッドリー様との間柄を説明したらどうです?」
するとなぜかトリクシー様がものすごいため息をついた。
「私とブラッドリーは、ゼクレス公爵夫人のほうが年上なんだけど母親同士が親友なの。非常に気に入らないけど彼は私の歳の離れた幼なじみですわ」
ああ、それでトリクシー様はこの部屋でものすごくくつろいだ様子なのか。
「スハイツさんとは騎士団詰め所に行ったときが初対面なので、親しいと誤解される覚えがないです」
「そういうことなら、あくまでも私の推測なんだけど、きっと紙の主がいう“あの方”ってブラッドリーじゃないかと思うの。なぜかといえば、あの腹黒は普段無愛想で冷淡なくせに必要なときには愛想をふりまくっていうふざけた男なのよ!!」
「トリクシー様、言葉遣い!!ブラッドリー様って確かに人気ありますもんね」
ジリアンに言われてトリクシー様は肩で息をして呼吸を整えた。
「…あの腹黒がわざと振りまいた愛想にやられた社交界のご令嬢たちがなぜか私に嫌がらせをしてくるのよ。もう何度そういうことがあったことか!!」
トリクシー様って気が強くて大人びていらっしゃるけど見た目は“おとなしくて儚げなご令嬢”に見えなくもないもんな~。まして15歳という若さだし。
「おやおや。そういうご令嬢方には10倍返しをしているくせに。やられたお嬢様方はトリクシーを見ると顔を真っ青にして隠れていると私は聞いていますよ。まったく、あなたは」
いつの間に戻ってきたのだろう、ブラッドリーさんがわざとらしくため息をついて肩をすくめた。
「ふん、私の年齢と外見でなめて攻撃してくるのを返り討ちにしたまでですわ。それよりブラッドリー、ノックをして入ってくるのが礼儀じゃなくて?」
「なめてなんて、どこでそんな言葉を覚えたんです。伯爵がまた胃を傷めますよ」
「お父様には言わないでよね。また目の前でこれみよがしに胃薬を飲まれてしまうわ」
「はいはい、内緒にしておいてあげます。あと、ここは私の部屋ですから仕事が一段落したら戻るに決まってるでしょう。私だって休憩くらいするんですよ」
「ブラッドリーが休憩ですって?いつも陛下が“ブラッドリーには命令しないと休憩をとらない”とおっしゃっているのに。珍しいこともあるものね」
「まあ今回は部屋が荒らされてないか心配ですし」
「ちょっと!いつ私が部屋を荒らしたことがあって」
「今のところはありませんね、今後もこの調子でお願いしますよ。ところでアメリア」
「は、はいっ」
いきなり私に話をふられて思わず背筋を伸ばす。そんな私を見てちょっと笑ったブラッドリーさんはテーブルの上にあった紙を手に取った。
「私からも助言を。こういうのはあなたが反応しないことで暴走するでしょう。まだ初歩の段階ですからここで釘をさすべきですね。今からユーグを呼びますから、彼に相談してみませんか?」
「は、はいいっ?!い、いいえ、ユーグさんって副団長ですよね。こんなことで煩わせるわけには」
「騎士団はこの国の犯罪を取り締まり、治安を守るのが仕事です。それに、たまにはユーグを煩わせてあげてください」
「えっ?!」
「男というのは女性から頼られることは嬉しいんですよ。覚えておいてくださいね」
「あらブラッドリーもたまにはいいこと言うのね」
「ブラッドリー様の言うことわかるかも。そうしなよ、アメリア」
「えっ。え~~っ?!」
私があたふたしている間に、3人は話をすすめてブラッドリーさんはユーグさんを呼び出してしまった。




