1:自立への道
我が家が豊かな土地に恵まれているはずなのに少しばかり貧乏なのは、継母と異母妹・マーゴの浪費が原因というのは領主である父親以外の皆が知っていることだ。
だからと言って父は愚かではない。ただちょっと目が曇っているだけである。継母と妹だって決して意地悪ではない。ただちょっと私とは価値観に相違があるだけ。
「アメリア、もう一度言ってくれないか?」
父は信じられないといった顔をして私を見た。継母と妹も珍獣を見るような目つきで私を見ている。
「ええ、何度だって言うわ。私は王宮で仕事をするために家を出ます」
「王宮で仕事とは、アメリアは何をするんだい?」
「司書として図書室で働きます。本好きが高じて、学校で取った資格を生かせるなんてとても幸せです」
「おまえはうちの跡取り娘じゃないか!」
「それはマーゴに譲ります。私よりはるかに美人だからいいお婿さんが来るわよ。いいわよね、お継母様」
私が継母に話をふると、彼女は一瞬顔を輝かせたもののすぐにそれを消した。彼女が昔から前妻の娘よりも自分が産んだマーゴに家を継いでほしかったことは知っていた。
一方のマーゴはすみれ色の瞳を見開き信じられないという顔でこっちを見ている。それが喜びから来るのか衝撃からくるのかは分からないけど、継母の希望を潰すことはしないだろう。
「そんな勝手なことは許さん!!」
「許さんって言われても困ります。あとは私が行くだけですもの。お父様、私がこんな姿してるのを変だな~って思わなかったのですか」
どうやら、この家族は誰も変に思わなかったらしい。私の現在の姿はコートに帽子そして脇には小さなトランクという、どこから見ても出かけるスタイル。ここ最近、何度か筆記試験と面接試験を受けるために王都に出かけていたんだけど、誰も気にしてなかったってことか・・・わかっていたけど。
父たちが愕然としているタイミングで、執事のロイドが王都行きの馬車が迎えに来ていると告げた。
「それじゃあお父様、お継母様、マーゴ。もうあまり会うこともないでしょうけど元気でね」
「「「……」」」
何も言えずにいる3人に私は思いっきり微笑んで部屋を出た。
玄関口にはロイドと、家政婦のアデラ(ロイドの奥さん)が立っていた。
「ロイド、アデラ。あなたたちも元気でね」
「アメリアお嬢様、本当に行ってしまうのですか。寂しくなります」
そういうとアデラがハンカチで目を押さえた。
「アデラ、泣かないでよ。私の門出を祝福して?」
「それはおめでたいことです。でもお嬢様、私たちを忘れないでくださいね」
「忘れるわけない。お母様が亡くなった後、この家で私を心から気遣ってくれたのはあなたたちだけだもの。手紙書くから」
「きっとですよ」
私は泣きそうになるのをこらえて、アデラをぎゅっと抱きしめた。
「じゃあね、そろそろ行かないと」
「お嬢様、くれぐれもお身体と殿方には気をつけてくださいませ」
馬車のなかで、思わずアデラの最後の言葉に苦笑してしまう。
殿方に気をつけろって、まったく心配性なんだから。美人のマーゴならともかく、家で家事と勉強ばかりの私に近寄るような物好きな男性は誰もいなかった。
私は馬車のなかで王宮から届いた予定表に目を通した。まずは寮で待機。研修は2日後からで10日間。そのあとは本格的に図書室で勤務。
何しろ王宮の図書室の蔵書量は国一番(王宮付属だから当たり前か)。国内で出版された本は全てあるという噂。本好きにとってはまさに聖地といっても過言ではない。
私はこれから始まる日々に少しの不安と多くの希望を抱いていた。




