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3:図書室の新しい本

 この数日、ユーグさんは図書室に来ていない。


「ここのところユーグさん来ないわね。アメリア、気になる?」

「ジリアン、手がお留守になってる。午前中に片付けないと室長がにこやかに怒るわよ」

「ジリアン、アメリアに質問したいことがあるのは分かるけれど、まずはラベル貼りを優先してほしいな」

 ジリアンがびくっと振り返ると室長がにっこりと立っていた。“仕事、してね”そう言うと、本を抱えて立ち去った。

「ちょっとアメリア、室長がいるなら言ってよお」

「…私も今気がついたんだってば」

「…そっか。さすが国王陛下の元護衛…あなどれないな、室長」

 さすがにジリアンは王宮と付き合いが長い老舗書店の跡取りだけあって、いろんな事情を知っている。私なんて室長が元護衛だったなんて、本人から聞くまで全然知らなかったもの。

 私とジリアンは本日入荷した本のラベル貼りをしている。裏にのりがぬられていて、ラベル貼り替えのときも本の背表紙を傷つけることがない加工がされている。でも一度貼ると簡単に剥がせず、図書室内にある特殊な液体を少しだけつけなくてはだめなのだ。そのため間違えると面倒なので、作業は慎重かつ迅速にしなければならない。


 新しい本はインクのにおいがする。このにおいが消える頃にはその本は何人もの人に読まれ、この場所に馴染んでいる。こんなこと思ってるの自分だけだろうな。

 ラベルを貼っていく途中で、ふと1冊の本に目がとまった。この本の作者はユーグさんが好んで読んでいる方。

 初めて出会ったときに読んでいた本が知りたくて、ある日聞いてみたことがあった。そしたらこの方の名前が出てきたんだ。

“簡潔なのに情感豊かな文章を書く作家なんだ。目の前に情景が浮かんできて世界が広がっていく感じがする”と言ってたっけ。新しい本が入荷したことをお知らせしてあげたいなあ…でも、好きな作家ならご自分で買うわよね…でも、この本を一番最初にユーグさんに取ってもらえたら…。

「ちょっとアメリア。なにぼーっと本のタイトル見てるのよ」

「ご、ごめんっ。この本、ユーグさんが好きな作家の方だな~って思って」

 するとジリアンの怪訝そうな顔が一転、にやにやした表情に変わる。

「あら、そうなの。ほほーそうなのね~。なるほどなるほど。アメリア、その本のラベル貼り終わってるよね。じゃあちょっと借りるわよ」

 ジリアンはそう言うと、その本を手にとって席を立ってどこかに行ってしまった。ラベル貼りは残りわずかで、変に思いつつも私は作業を優先させることにした。

 数分後、戻ってきたジリアンは手に何も持っていなかった。本をどうしたのかと聞いても、えへへへと笑ってごまかされてしまった。


 2日後、私は室長室に呼ばれた。前にこの部屋に呼ばれたときは室長の意外な過去を知った。今度はいったいなんだろう。

「この作家の作品はユーグが好んで読んでいるのは知っているよね。新刊が入ったら真っ先に読みたいと言われていたし、あいつはいつも期日までに返却できないからと借りていかないけど、たまには後輩をいたわってあげようと思って。だから、これよろしくね」

 そう言ってアルマンド室長が私に手渡したのは、さっきラベルを貼ってジリアンがどこかへ持って言った本……ジリアン、いったい室長に何を言った!?

「え。私が騎士団詰め所に持っていくのですか?」

「もちろんそうだよ。貸し出し期間の2週間はきちんと守ってもらわないといけないから、アメリアには2週間後にまたユーグのところに行ってもらうかもしれないけど」

「ええっ、普通はこんなことしませんよね?いったいジリアンとどんな取引を?!」

「ジリアンと取引?私がそんなことするわけ…ああ、メイヒュー書店の隠居が稀有本1冊譲ってくれるって言ってたっけ」

 稀有本で私に本を持っていかせることを了解したんですね、所長。隠居って、なぜジリアンのおじいちゃんが絡んでくるんだ。

「あの、なぜジリアンのおじいさまが?」

「ん?まあそこは気にしないで。今日のユーグは1日詰め所にいるし、彼の補佐をしている騎士には伝えてあるから。はい私の用事はこれで終わり。アメリア、さっそく行ってくれるね?」

「は、はい」

 私は本を持って騎士団詰め所に行くことになっていた。

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