1:昼下がりの王宮食堂
2章、はじまりです。
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本来なら私は社交を学びダンスを学び、ドレスや宝石の流行を追い、誰かに見初められるのを待っていればよしと親から言われていた娘だ。
でも、ある舞踏会で出会って好きになってしまった。あの方は私の家など名前を少し聞いたことがある程度だろう。でも、あの方の恋人そして妻に私はなりたい…どうすればいい?
考えたすえ、私は自分の素性を少しだけ変えた。
これからだって思っていたのに、うかつだった。目を惹く美貌でもなく、性格だって内気で才気煥発というわけでもない。どの角度からみても私のほうが勝っている。なのに、私よりも先にあの方と親しくなるなんて。
とりあえず今後の彼女の動向にも注意をはらおう。
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ジリアンは王宮職員だからともかく、なぜ伯爵令嬢のトリクシー様が王宮食堂にいるのだろうか。
「で、アメリア。ユーグさんとどこかに行ったりしたの」
「私もそれを聞きたいわ。どうなの、アメリア」
親友・ジリアンとトリクシー様の組み合わせに驚いた私に、ジリアンが“モーズレイ伯爵家はメイヒュー書店のお得意様だもの”と教えてくれた。
トリクシー様も“ジリアンは私の小さい頃に遊び相手になってくれたのよ”と言った。なるほど、そういうことか。
「どこかに行ったりとかって?いつも図書室で顔を合わせてるじゃないの」
「はあ?じゃあ、相変わらず図書室で話してるだけなの?」
「ジリアン、声が大きいですわ。アメリアが萎縮してしまうじゃないの」
「すいません。なんで2人で出かけたりしないのよ?」
トリクシー様にたしなめられたジリアンが今度は声をひそめた。昼休みの一番混雑する時間帯ではないけれど、周囲には遅い昼食を取る人たちがいる。私たちもその一員で、お昼を食べに外に出たところで、なぜかトリクシー様につかまった。
でも、つかまったと思っていたのは私だけだったみたいでジリアンはどうやらここでトリクシー様と会う約束をしていたらしい。要するに、話を聞く体勢は整っていたわけだ。
「で、出かけるって、ユーグさんと2人でってこと?」
「当たり前じゃないの。アメリアに他の恋人がいるならともかく」
ジリアンの言葉にお茶を噴出しそうになる。恋人?!
「あの、ジリアン。私の恋人って誰のこと?」
「「…………」」
今度はジリアンとトリクシー様が固まっていた。そしてなぜか顔を見合わせて、今度はトリクシー様が口を開いた。
「ねえ、アメリア。あなたとユーグ様って互いに謝罪しあってお付き合いを始めたのではないの?」
「えっ!!誤解です!!確かに互いに謝罪をしましたが、お、お付き合いなんて…わ、私ごときがそんなことあるわけないですよ」
「え。謝罪だけなの?」
そ、そりゃ手を握りあったりとか抱きしめられたりとかしたけど……恋愛関係なんて、とんでもない話だ。元王子の公爵様と貧乏地方領主の娘なんて、私がものすごい美貌の持ち主だったら可能性がありそうだけど、違うもの。
「そ、そうですよ。ユーグさんとまた図書室で一緒に話そうって言われただけです」
すると、トリクシー様はものすごいためいきをついてジリアンを見た。
「ねえ、ジリアン。ユーグ様っていわゆる“へたれ”というものかしら」
「トリクシー様、どこでそんな言葉を覚えたんですか。伯爵様が聞いたらまた胃を痛めますよ」
「あら、この間陛下と宰相様が“ユーグもようやくへたれを脱却したんだな~”って話をしているのを聞いてしまいましたの。で、側にいた侍女に意味を聞いただけですわ。最初は教えてもらえなかったんですけど、うふふ粘り勝ちですわね」
そこで私とジリアンは顔を見合わせた。思ったことは一緒だ。トリクシー様、好奇心が旺盛だから…。
「そ、それはともかく!じゃあアメリアはユーグさんとお付き合いはしてないと」
「してないわよ。だいたい私が相手なんてユーグさんに失礼よ」
私の返事に今度はジリアンとトリクシー様が残念そうな顔をした。どうして、そんなに私とユーグさんを恋人同士にしたがるんだろう?
確かにユーグさんは以前よりも頻繁に図書室に来て、私と話をすることが多い。それを目撃した図書室長がユーグさんをからかうこともある。ユーグさんはちょっと顔を赤らめたりするけど嫌がったりはしてない。恋人同士とはちょっと違う気がするんだけど…だめだ、未知の領域のことは分からない。




