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幕間:おじいちゃんたちの午後

ヨルクさん視点です

「……おまえって根っからの正直者なんだな」

「うるさいぞヨルク。わしだってまさか本当にぎっくり腰になるとはおもってなかったぞ…いててて」

 ここはメイヒュー書店の裏にある経営者家族の住居。目の前で痛みに顔をゆがめているのは、書店の前店主で現在はほぼ隠居生活をしているわしの友人だ。

「ま、いいじゃないか。可愛い孫娘にうそをつかなくてすんだんだから」

「まーな。ジリアンは怒ると怖いんだ。間違いなくばあさん似だな、あれは。それよりさっさと治療してくれよ」

「あのなあ。わしは治療術士じゃないぞ」

「ふんヨルク。おまえさん、腐っても元魔道士長だろうが。情けないことをいうな」

 そういうおまえは元騎士だろうが。しかも、かなり将来有望だったのに、ここの娘(友人のいう“ばあさん”)と恋に落ちて本屋になるからとあっさり騎士を辞めたくせに。

「元騎士がぎっくり腰のほうが情けないわ。さっさと腰をだせ」

「おう。ほ~、こりゃぽかぽかしてくるなあ」

 治癒魔法を患部にかけると、そこの部分は体温が上がるからぽかぽかしてくるのだ。


「それにしても、陛下は相変わらず突飛なことを思いつくよなあ。おまえ、どういう教育をしたんだよ」

「あれは陛下の地だ。わしの教育の結果ではない」

「それにしても陛下の縁結び計画は突飛と言うか強引だよな。いきなり“5日ほど風邪かぎっくり腰になって孫娘を図書室から引き離してくれ”と言われたときには驚いたぞ……それにしても温かいもんだな~」

 陛下はこいつにも同じようなことを言ったのか。ちなみにわしには“ヨルク、5日ばかり病気になってくれないか。深刻な病でなくていいんだ。たとえば風邪とかぎっくり腰とか”だった。

「わしも似たようなことを陛下に言われたよ。ユーグ様とアメリアはうまくいくかな」

「ヨルクは奥方が亡くなってから清い生活一直線だからなー、男女の機微は魔法じゃわかんねえだろ~。わしにはわかる。ユーグ様とアメリアはうまくいくよ」

 ちっちっちと人差し指をふる友人。

「ほー、おまえはそんなに女性たちと遊んできたのか。奥方に一言伝えておいてやろう」

「ばっ、ばか!ばあさんに会う前の話に決まってるだろうが!!うう、腰の痛みがぶり返してきたじゃないか」

 施術中に腰をひねるからだ、馬鹿者。そこにノックの音がして、わしたちは口をつぐんだ。

「いらっしゃいませ、ヨルクさん。おじいちゃん、具合はどう?」

 お茶と菓子を持って顔を出したのは友人が目に入れても痛くないほど可愛がっている孫娘のジリアンだった。


「お~、ジリアン。腰があったかくて気持ちいいぞ~」

「それはよかったけど、ヨルクさんごめんなさい。おじいちゃんがわがまま言って」

「おい、わしはわがままなんて言ってない」

「ジリアンは気にしなくていいぞ。わしも腰の痛みがひいたから少々体を動かそうと思っていたんでな」

「それならいいんですけど、おじいちゃんったら治癒魔法を受けなくちゃいけないならヨルクさん以外は絶対に嫌だ、なんて言いだすものだから」

「まあ、年寄りってそういうものさ」

「ふん、ヨルクだって同じ年齢だろうが」

「おじいちゃん!ヨルクさんだって病み上がりなんだからね。あ、そうだ。おばあちゃんにぎっくり腰のこと連絡しておいたわよ」

「え!なんでそんなことするんじゃ…いててて」

「だから施術中に腰をひねるな。馬鹿者」

 腰をぺしっとはたくとおとなしくなる。ジリアンはそんなわしたちの様子が面白いらしく、笑いをこらえている。

「だって周囲の皆がとめたのに“わしは元騎士だ、これっくらい平気だ。年寄り扱いするな”って重い図鑑を10冊も一気に持ってぎっくり腰になったから、おばあちゃんに叱ってもらおうと思って。

 旅行から帰ってくるのが楽しみね。じゃ、私そろそろ店に戻るから。ヨルクさん、ゆっくりしていってね」

 ジリアンはとびきりの笑顔を向けて部屋を出て行った。


「……おまえさ、あんまり無理するなよ?」

「ふん、ちょっと持ち方を間違えただけだ。それより、なんで陛下はご自分の図書室を縁結びの場所に選んだのだろう。もっとふさわしい場所はあるだろうに」

「あんまり人目につく場所だとアメリアが嫌がらせされたりするからじゃないのか?あの子は少々内気だから」

「あー、なるほど。それなら納得だ」

 納得している友人を見て、わしはちょっと後ろめたくなる。実は陛下が図書室を縁結び場所にした本当の理由を知っていた。

“お前を休ませている間アメリアに私の図書室の管理をしてもらい、ついでに私やブラッドリーにも馴染んでもらえば、ユーグに対しても変な気構えはしなくなると思うんだよね”


 ついで?いいや違う。今回の目的は間違いなく縁結びと陛下や宰相に馴染んでもらうためだ。陛下から聞くところでは、ほどほどに気軽な会話をするようになったらしい。

 陛下が策士なのは、わしの教育の結果ではない……はずである。

次回更新分から第2章です。

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