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12:対峙 

ユーグ視点です。11に続いて長文になっております。

 会議の報告を終えた次の日、離島に到着すると出迎えてくれたのは兄の忠実な部下で弟の岳父でもある島の管理者だ。

 弟である元第三王子は彼の娘と結婚すると同時に王族から外れた。今までさんざん甘やかされてきたからどうかと思ったのだが、根は素直なのが幸いし堅苦しい行事もなく土地の管理を彼に教わりながらの生活は彼にぴったりだったようだ。

「弟はこちらに馴染んだようだが、父上たちは相変わらずか?」

 俺の質問に彼が苦笑したのを答えだと解釈する。

 兄上は弟が隣国でおこなった狼藉を持ち出し、父の口から自分に王位を譲ることを言わせて、根回し済みの家臣達がさっさと手続きを進めてしまった。

 さらに、“第三王子の恋を兄として応援してあげたいのですよ。でも、そのためには王族から外れなければなりません。だいたい狼藉を働いたものを王族に置いておくのは国民に示しがつかない。ここは運命の恋に落ちて王族をやめた王子様、ということにしておきましょう。私はこれが最善だと思います”と、ここぞとばかりに離島の管理者の娘と弟の関係をちらつかせて父を黙らせ、弟を王族から外した。

 そして最後に“仲のいい親子を引き離すなんて私にはできませんから、最愛の息子とご一緒にどうぞ”と王都に残る気だった父と側室殿を離島に移住させてしまった。

 兄上は優しくて頼りがいがあって政治的手腕もたいしたものだ。ただ……いささか腹が黒い。


 父と側室殿が住む離宮は、装飾過多で息苦しい。でも人の好みに口は出さないのが一番だ。

「お久しぶりです、父上」

「何しに来た」

 事前に連絡が行っているはずなのに。まあこの人が素直に耳を傾けるのは側室殿と第三王子のおねだりだけだったからな。

「今日は国王陛下の名代として書状を届けに参りました」

 書状は側に仕えていた使用人を通して父に渡され(ちなみに離島の使用人は皆、兄上と管理者の息がかかった者ばかりである)、父はしぶしぶと書状をうけとりその場で広げた。

 “あの書状でおとなしくなってもらわないと、こちらも別の手段を考えなければ”そう言った兄上の顔がまさに「別の手段」を考えているように見えたのは、俺の気のせいだったに違いない。

 書状を読んでいた父の顔は、だんだん憤りの表情に変わり最後はなぜか青ざめた顔になったあと、一気に老け込んだようにみえた。

 書状を持つ手は震えているが、それはどんな感情を表しているんだろう…。いったい兄上は何を書状に書いたのか。

「……お前は、この書状に何が書かれているのか知っているか」

「それは陛下が父上へ書き上げたもの。臣下の私が読むわけがありません」

「ふん、おまえは飼い主には忠実な番犬だったな」

 挑発するだけの気力はまだ残っているようだが、これに乗るほど俺は愚かではない。


 黙ったままの俺にいらだちをぶつけたいのか父が口を開いた。

「……エルネストは、私が側室あれに与えた屋敷を公園にしたそうだな」

 そういえばあの装飾過多な屋敷は側室殿が父から与えられたものだったな。まあ国のものだから陛下が使い道を考えるのは当然だ。

「ええ。陛下が欲しい人間がいればと希望者を募ったのですが誰もいなくて。人が出入りしない建物は荒れますし、父上と側室殿はもう王都では暮らさないのですから公園として開放しました。皆喜んでおります」

「……私は王都から出たくはなかった。エルネストが勝手に進めたことだ!」

「父上、弟のしたことは取り消せませんよ。王族から外れるだけですんでよかったと思うべきでは」

「あいつは……あいつは、ここでおとなしく過ごせないのなら、私と側室あれだけ離島から北の離宮に行っていただくことになる、と言ってきおったわ!!」

 そう言って父は手に持っていた紙を投げ捨てた。拾って中身をみると見慣れた兄の文字で父が言ったことが書かれていた。北の離宮とはかつて問題を起こした王族や側室が幽閉された場所だ。狂った数代前の側室が幽閉後に死んでいらい使われておらず、最低限の整備しかしていない。

 でも俺は兄上の書状の内容をみても、父に同情はできない。物心ついたときから父に会うのは公式行事のときだけで私的に会うことなど一度もなかった。冷酷かもしれないが、血がつながっているだけの存在で何の感慨もないのだ。

「父上。北の離宮に行きたくなければ、陛下の命令に従うことです。ここで生涯おとなしく過ごしたほうがよろしいかと」

 俺はそう言うと父が投げ捨てた兄の書状をきちんとたたみ、父の手に押し付けるようにわたした。

「……いったい、私が何をしたというのだ」

 父がつぶやく。でも俺は聞こえないふりをしてその場を立ち去った。



 王都に戻った俺は真っ先に図書室に向かおうとしたのに……。

「どうして、こんなに書類がたまってるんだ」

「陛下の執務室から“戻りしだい急いで処理をするように”とわたされました」

 俺のぼやきに部下の一人がおそるおそると言った感じで口を開く。急ぎの書類なんて、王都から離れる前一言もなかった。不在中にいったい何があったというんだ。

 机の上で仕事をしながら、ふと思い出す。

 会議の報告に行ったときの兄上の顔……なんであんなににやついていたのだろうか。そういえばブラッドリーもなんだか変だった。

「ユーグ、父上と側室殿によろしくな。書状の中身をよく読んで理解するようにと伝えてくれ」

「ユーグ様、気が重いかと思いますがよろしくお願いしますね」

「はい。なんだかお二人とも機嫌がよさそうですが何かいいことでも?」

「何を言ってるんだユーグ。私はいつも上機嫌じゃないか。ブラッドリーだってこれが普通だよなあ」

「ええ。そうですよ」

 兄上の顔は何かを企んでいる顔で、ブラッドリーの顔はそれを許しているように見えたのは気のせいだろうか。

 ……やめよう、これについて考えている時間はない。この仕事を終わらせて、早く図書室に行ってアメリアと話をしたい。

 俺は意識を書類に集中した。


 丸一日かかって仕事を終えた頃、兄から明日の朝に執務室へ来るように、と伝言が届いた。いったい何の用事だ。

 見当がつかなくて俺は首をひねった。

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