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10:緊張の初日

「ごめんね。仕事の邪魔をするつもりはなかったんだ。はい、これ」

 国王様はそういうと私に近寄り、かがんで落とした目録を拾ってくれた。

「あ、あああありがとうございます」

 ここは国王様専用の図書室だから、国王様がいても何の問題もない。でも突然遭遇するとどう対処していいか分からない。そんな私のあわあわした様子が楽しいのか、国王様が私を見てくすっと笑った。

 美形のくすっと笑い……ものすごくいいものを見たと同時にものすごく居たたまれない。

「確かここでヨルクの代わりをするのは2人だよね。初日は2人で働いて、次の日からは交代と聞いていたのだけど、もう一人は奥にでもいるのかな?」

「実は一緒に仕事をする予定の同僚が、事情があって家業を手伝わなくてはなりまして5日間私が一人でこちらの仕事をすることになりました。申し訳ございません」

「なるほど、それでは私もあまり君に迷惑をかけないようにしなくてはね」

「め、迷惑だなんて、そんなこと思っておりませんっ!!」

 国王様に対して迷惑なんて思ったらそれこそ私は解雇?下手したら投獄??まさかの国外追放???もう全部避けたいものばっかり!!

「ぷっ……君は面白いね」

「面白いなんて、言われたことありません」

 国王様が私をみて楽しげに笑う。なんかこのパターンは先日の室長の対話に似ている気がする。

「そうか私だけか。ふうん……それも楽しいね」

 私の何が国王様に楽しいと思われたのか、全く分からない。でも国王様は本当に楽しいみたいで、なにやらニヤニヤしている。普通なら気持ち悪いって思うところなのに、美形だと得した気分になるのはなぜ。

 国王様とユーグ様はご兄弟だから似ている部分もあるけれど、笑うと雰囲気が違う。ユーグさんの笑顔は優しくて朝の光のようだけど、国王様の笑顔って真夜中のこっそりとした雰囲気がする。


 どう返事していいか分からずに黙っていると、国王様が忘れていたと言わんばかりにポンとこぶしを叩いた。

「ああそうだ。大事なことを聞かなくてはね。ところで君の名前は?」

「……アメリア・ミルワードと申します。国王様」

「よろしく、アメリア。私のことはエルネストと呼んでくれると嬉しいな」

 そういうと私の目の前に右手を差し出す国王様。

 その右手はなんだろう、と思わず“へ?”とした顔で国王様を見ると、ちょっと苦笑いをした。

「アメリア、私はきみと握手がしたいのだけど?」

「あああああ握手なんて、と、とんでもないことでございましゅ」

 思わず慌てて舌をかんでしまい、語尾が舌足らずになってしまいとんでもなく恥ずかしい。

「もしかして手の甲にキスをご希望なのかな?」

「そ、そんなことはぜんっぜん望んでおりません。そ、それでは……あ、握手でお願いします」

 私がおずおずと右手を出すと、その手をぎゅっと握られてしまった。大きくて、すべすべして温かい手。ふとユーグさんの手を思い出す。

 ユーグさんの手はもっとごつごつしてて小さい傷跡とかもあるので、すべすべではなさそう…私ったら何を思い出してるんだ。

 それにしても握手ってこんなに長いもの?でも私から手を離してくれなんて言えるわけないし。ど、どうしよう。


「―ここで何をやっているんですか、陛下」

「げっ…もう見つかったのか」

 いつの間にか部屋に入ってきていたのは宰相様だ。はっ!私、国王様と握手したまんまだ。なにかの間違いで私が国王様をたぶらかしてるなんて誤解されたら…いや、それはないと信じたい。

「エルネスト、いい加減彼女の手を離せ。顔が真っ青ですよ、大丈夫ですか?」

 宰相様は国王様に対し背筋も凍るような冷たい声で言ったあと、一転ものすごく優しい口調で私の心配をしてくれる。

 国王様が手を離してくれたので、私は少しだけ距離を取る。その様子に国王様はちょっと微妙な顔をして宰相様は楽しそうな顔をした。

「陛下、こちらの女性は?」

「ぎっくり腰と風邪のヨルクに代わって、ここの管理に来たアメリア・ミルワードだ」

「あなたが…。ヨルク殿の代わりは大変でしょうけれど、頑張ってくださいね」

「はいっ。頑張ります」

「ふふ、いい返事ですね。それでは陛下、執務をさぼった言い訳は執務室で聞いてあげますから行きましょうか」

「ブラッドリー、アメリアに見せる優しさを少しでも私に示そうかな~と思わないのか」

「さぼる人間に情けはかけませんよ。よっぽど書類を貯めるのがお好きなんですね、陛下は」


 宰相様に連れられて(引っ張られて)、国王様は図書室から出て行った。なんだろう……仕事してないのに、すごく疲れた。私、ジリアンには見栄を張ってしまったけどここでちゃんと仕事できるだろうか……。

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