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9:朝のお知らせ

 ある朝、仕事前に職員全員が集められた。全員がそろったのを確認すると室長が話を始めた。

「全員そろったね。皆に集まってもらったのは王宮から図書室に依頼があったからなんだ。国王陛下専用の図書室のことは皆知っているかと思うけれど、あそこの管理をしているヨルクさんが風邪をひいたうえにぎっくり腰になってしまってね。

 彼が自宅で静養している間、図書室のほうで陛下の図書室も管理することになった。治癒魔法を使って5日ほどおとなしくしてれば治るそうだから、期限は5日だね」

 ヨルクさんは元王宮魔道士で、いつも陽気なおじいちゃんだ。白髪の短髪にきらきらした緑色の瞳で、無類の本好き。よくこちらの図書室にも顔を出し私たちと最近読んだ本の話をしたり、在りし日の有名作家の逸話などを教えてくれる。

 ぎっくり腰かあ……以前、父がなったことあるけどあれは辛そうだった。おまけに風邪なんて、父よりずっと年上のヨルクさんだとさぞかし大変だろう。

「そこで、1日交代で陛下の図書室に職員が行くことに決まったよ。勤続年数が長い者が陛下の図書室の管理をしたほうがいいのだろうけど、陛下が入ったばかりの者に貴重な資料を扱う機会を与えたい、とおっしゃったのでベテランの者は図書室での勤務に専念してほしい。

 こちらからはジリアンとアメリアに行ってもらおうと思うんだ。2人とも頑張ってね」

 室長に名前を呼ばれ私と隣にいたジリアンは顔を見合わせる。そして室長に視線を移すと、にこにこと微笑んでいた。まあ、ジリアンと2人で交代だからなんとかなるか、と思っていたのに。


「ほんとうにごめん、アメリア」

「何言ってるの、実家の都合じゃ仕方ないって」

「でもさあ、なにもこういうときに祖父がぎっくり腰って。父は稀少本の買い付け、祖母と母が王国書店奥様会の旅行で不在って!!偶然が重なりすぎでしょうよ~」

 ジリアンはなぜだああ~と頭を抱えた。

「婚約者さんと店員さんだけでは大変だもの。お店のほうを手伝ったほうがいいよ」

「それはそうなんだけどさ、アメリア一人に仕事を押し付けたみたいで嫌だよ」

「そんなことないって。私、貴重な本なんてさわったことないからちょっと楽しみにしてるんだ」

「ほんと?」

「ほんとにほんとよ」

 私が心からそう言ったのが分かったのか、ジリアンはようやく笑顔を見せたのだった。それにしても、偶然ってあるんだなあ。

 ジリアンにはちょっと見栄を張ってしまった。でも心配性な一面のある親友にこれ以上心配事を増やしたらいけないと思った。それに、楽しみだと言ったのも本心だ……でもやっぱり緊張する。


 次の日、私は図書室を通り過ぎて王宮の中に入った。

 ここに入ることなんて一生ないと思っていたのに、私は王宮内にある「国王陛下専用図書室」のドアの前に立っている。ここまで案内してくれた人はとっくに立ち去ってしまい、私はひたすら緊張していた。

 室長から借りてきた鍵で凝ったデザインを施した重量感のあるドアを開けると、そこには図書室よりは狭いけど蔵書はたっぷりの空間が私を待っていた。

「失礼します……わあ、すごい」

 どこから始めるにしろ、この仕事は私にとって貴重な機会なのは間違いない。ということは緊張している場合じゃない。私は自分の頬を両手でぱちんと軽くたたくと一歩を踏み出した。

 主な仕事はヨルクさんの手順に従った目録作りの続きと、本の整理だ。どうやらヨルクさんは、本の整理にはこだわりがあるけど目録を作るのは面倒くさかったらしく半分くらいで挫折したようだ。

 そういえば“わしと陛下はあの図書室にはどこになにがあるか、みーんな分かるからな。目録なんていらん”って豪語してたもんなあ。

 

「ヨルクさんの作った目録って見やすいなあ」

「ヨルクは私とユーグの元教育係だからね。彼はおちゃめなところがあるが根は真面目なのだよ」

 誰もいないはずなのに、声がして私は思わず見ていた目録を床に落としてしまった。

 ユーグ様を呼び捨てにしていて室長の声とも違う……ということは、まさか。

 緊張しながらドアのほうを見ると、そこには国王様が立っていた。

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