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「君がオレなんかで良ければの話なんだが」
先に沈黙を破ったのは霧島さんだった。
なんとなく気まずくて下を向いていた私は霧島さんの言葉を聞き顔を上げた。
「そんなっ・・私の方こそ、霧島さんさえ良ければ・・・」
彼の自分を劣等するような言動に驚き慌てて否定した。
「「プッ」」
どちらがというわけでもなく私たちは吹き出し笑い始めた。
「私、今日一日近くを観光する予定です。」
ニッコリ微笑み言った。
「オレは、午前中は打ち合せで午後からは現地を見て回る。」
彼も私につられてか優しく微笑んでくれた。
「終わったら連絡するよ。食べたいものを考えてくれ」
そう言って彼は席を立った。
「霧島さん、苦手なものありますか?」
席を立った彼の背中に向かって周りに迷惑にならない程度に叫んだ。
「とくにないが・・・あえて言えば生ものはあまり好きではないな。」
そう言い残し彼は会場を後にした。
去っていく彼の背中を見つめ、私は無意識に口元を綻ばしていた。
この旅行を思いついた時、私は自分できっと虚しい思いをするんだろうな。そう、たかをくくっていた。
でも、旅先で久しぶりで元上司に会った。
なんでこんなに心が和んでいるのだろう。
「何にする?」
目の前にメニューに視線を落とす霧島さん
ついついその姿に目をとめて見とれてしまっていた。
霧島さんの声にパッと視線をメニューに移し食べるものを慌てて選んだ。
「・・・霧島さんは決めました?」
なかなか決められずに視線を上げるとすでにメニューから視線を外してこっちを見ていた霧島さんと目が合った。