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前編

少女の腕の中。

息も絶え絶えな小柄な少年が問いかける。

『君は、特別なんかじゃない』

少女はじっと少年を見つめる。

『一緒に、』

少年の掌が少女の顔に近付く。

少年の手は自らの血で汚れている。

血にまみれた手が少女の顔を汚す。

少女は無表情に、手を重ねる。


『ありがとう』


少年は笑っていたのかもしれない。


 西暦2×××年


人類は多大な衰退を見せていた。

自然を破壊し、水を汚し、オゾン層は破壊された。

いや、人間がすべてを破壊し尽くしてしまっていた。

地上に住めなくなった人々は宇宙に出る事を考え、火星や月への移住計画が発表され、別の惑星へと一歩を踏み出そうとしていた。


だが全宇宙から人間は癌、悪と判断されてしまったようだ。

地球から脱出しようとする人類を悉く抹殺する敵が現れた。

彼等によりほとんどの人間は駆逐され、残された人間は朽ち行く地球と運命を共にするしかないと嘆いていた。

地上に残る事も宇宙に出る事も出来ない人類は滅ぶしか無いのか。


僅かに残された人類は地下に潜り、敵と戦う事を誓う。

彼等を迎撃し、地球から脱出する為に。


彼等は『空』からやってくる。


これはそんな彼等と人類が戦い始めて十数年経った頃のある少女の話である。


 [1]パイロットは全てバイオロイドである。


「夢でも見ているのでしょうか」

真っ白い部屋にいくつものモニターが映し出される。

ここは地下に作られたモニタールーム。

モニターの一つに注視した男性職員が直ぐ横に立っている白衣の女性に問いかける。

「そうだな、記録をしておけ。それと分析班に連絡を」

「了解」

言うと同時に男性職員は目の前のモニターに手をかざし、すいすいと動かしていく。

「この記録から考えられる全ての事象を報告しろ。全てだ」

「全て、ですか?」

無表情で白衣の女性に問いかける

「そうだ。今後起こりうる事象、今起こっているであろう事象を全て。0.1%でも可能性があるのならそれを報告するんだ」

「了解」

男性職員はまたすぐモニターに向き直り、何やら指示を出し始めた。

それと同時に別の職員が見ていたモニターが点滅し始める。

「視神経、覚醒レベル20」

その声を皮切りに一気に部屋の中が慌ただしくなる。

「交感神経、15…20…30突破」

「外部出力オン、心音上昇、背景脳波α確認」

各職員による各部報告がなされる。

ちらりと横目に先ほどのモニターを確認し白衣の女性は頷く。

「呼吸水パープルブロン排水開始、覚醒を全面バックアップ」

モニタ越しに見える、ちょうど人一人分のカプセルのようなものから薄い血のような液体が流れ出てくる。

「おはよう、気分はどう?」

モニタールーム中央のマイクより白衣の女性がカプセルに問う。

少しの静寂の後、カプセルが開かれた。

『いつも通りです』

モニタールームに響くその声は少女の抑揚の無いものだった。


 [2]バイオロイドはヒトと同じ物質で出来ている。


〈食堂〉


昼時を少し過ぎた頃だというのに、食堂にはちらちら人がいた。

談笑したり、コーヒーを飲みながら本を読んだり。

休憩を満喫する者がほとんどだった。


そんな中で一人、食事を食べている少女。

黙々と食事を口に運ぶ姿は食事をしているというよりは車にガソリンを入れてる、そんな事務的でマニュアル的で無感動なものに近いようだ。


ガチャンッ

ドカッ


少女の隣に乱暴にトレイが叩き付けられ、背の高い男が少女の隣にさも当然に陣取った。

どうやら少女と同じくこれから食事をとるようだ。

彼はシン大尉。ここの施設の戦闘機乗りだ。

「よう」

「…どうも」

短い挨拶を終えると、男は少女の食べている食事トレイに視線を落とす。

「〜〜っかぁー!いいねぇ、優先生は。特別食かよ!ちょっと寄越せ」

おかずに手を伸ばすと、少女は無言でトレイを男から遠ざけた。

「…お前…」

黙々と食事に戻る少女。

「…はぁ。ま、いいや」

ため息を一つ着くと、シンはごそごそと自分のポケットを探り始めた。

「お前さ、この前の実装訓練でメイン機体破損したろ?いや、させたのか」

「破損?」

食事の手を止め、不思議そうな顔をする少女

「あ?何、覚えてねーの?エンジントラブルで制御不能になって不時着すら出来ずに緊急脱出したって聞いたけど?」

「トラブル…」

考え込んでしまう少女。

どうやら本当に覚えていないような様子だ。


まじで覚えてねーのか。事故の衝撃か?精神的なアレか?

ま、どうでもいいか…


「で、だ。代替機、出来たってよ」

少女の目の前にスクエア型の細長いキーを出す。

キーを見た少女の表情は心なしか輝いているようだった。


 [3]優秀なパイロットを育成するのもバイオロイドである。


〈機体収容所第2ゲージ・1番ゲート〉


目の前に広がる鮮やかなブルー。機体全体に一本のメタリックライン。

翼は胴体から垂直に後方へと広がるそのラインがまるで空を裂いて進むような形状。

「感想は?」

少女の傍らから、作業着を着た女性が資料片手に問いかける。

この機体の制作者、ユーマだ。

「すごい、キレイ」

ただそこにあるだけなのに、まるで自分が空にいるようなそんな感覚。

不思議だが、不快でない。

むしろ心地いい。

「カラーリングは仮塗装だけど、希望があれば変えられるわよ。それと、これがエンジン系譜図と機体シュミレーション経過表。一応こっちで勝手にあんたのデータから予測したモノなんだけど、どっか修正する?」

バサバサと少女に大きさの異なる資料を渡す。

渡された資料を食い入るように読み始める少女。

「後で、制作前データがとこれの本ちゃんのデータが欲しい。この子、もう飛んだ?」

資料を見つめたまま少女は問う

「ん?あぁ、空には出てないけど陸地走行なら。シン中尉がテストで」

「じゃあ、コックピットだけ新品に代えてくれればいい。あとはこのまま…あ、もう少しこの数値より速く飛べる?」

「うーん、可能でしょうけど多分オーバーGで機体損傷するんじゃないかしら?まだテスト飛行してないし、シュミレーションだとこの数値が限界値よ。重量的にもギリギリなところね」

「そう、なら塗装なしで機体強度上げられる?」

「考えたわよ、こっちも。これがほぼ完成系。ミサイル2、3個外せばイケルかもね」

ま、そんな事出来ないけど、そういってユーマは腕に巻かれたバングルから映像を出す。

「前の機体はアフターバーナー頼りで操縦してたみたいだけど、コレは無しでスーパークルーズするわ。ステルス性も高い」

次々と数値が繰り出される。

「つまり、ドックファイト向きじゃない…」

数値をみながら少女が呟く。

「正確に言えばドックファイトになる可能性が低いってことね。隠密性が高すぎる上に騒音も従来の三分の1以下よ」

映像を消す。

「テスト、明日までにはしたいのだけど、行けるかしら?」

ユーマは少女の目を見てにっこり微笑む。

「コックピットの交換後ならいけます」

少女はユーマの目をまっすぐ見て言った。


 [4]バイオロイドに人権は無い。


〈自室〉

ベットに寝転び、両手を見つめる少女。

あの後コックピット交換はすぐに行われ、テスト飛行を行った。

結果だけみればシュミレーションした数値より高い水準で彼女は飛んでいた。

前の機体はバリバリの対空戦闘機。

近距離戦闘を得意とし、自由に空を駆け回った。

一方、新しい機体は…空を支配するような感覚だった。

その感覚は今後の少女の行く末を示唆しているようだった。

「昇進…かな」

おそらく今までの戦闘要員から外れ、小隊あるいは中大部隊の指揮官クラスになるのだろう。

現在の少女の位は大尉である。


敵を倒す為には上に従うしかない。

敵とは何なのだろう?


少女は少し前、皆が敵と称する『宇宙人』と一戦交えた事がある。

訓練中に敵機が演習空域に現れた。


その時の教官兼隊長はイーグルというコードネームの中佐だった。

まだ訓練生だった少女は敵から逃げるので精一杯で、他の訓練生や上官、隊長がどうなっているのか、把握する事は出来なかった。

気がついた時には少女を除きその空域にいた敵味方全てが撃墜されていた。

後から聞いた話ではどうやら少女は少なくとも3機以上の敵機を撃墜していたらしい。


訓練生ながら敵機撃墜、及び激戦区からの生存という戦績が彼女を大尉の地位に決定させたのは言うまでもない。

通常、航空訓練学校卒業後は尉官、少尉からスタートするのが一般的という事を付け加えさせてもらおう。

元々訓練結果も優秀だった為、中尉以上の位に着く事は想像出来たが、所謂2階級特進が卒業と同時に与えられた形だ。

その後も彼女は華々しい戦果を上げ、現在では基地内ナンバー1の実力者として知られている。


「前の機体は墜落したんだっけ。どこに落ちたんだろう…せめて何か残ってればいいのに」

訓練中のエンジントラブル。


まったく記憶にない。

いつの訓練のことだろう。


恐らく訓練記録などを探せば分かるのだろうが、彼女にその権限は無い。パイロットである彼女達に知らされるのは現在の戦力と敵の予想戦力、そして戦況のみ。

過去の訓練結果などは口頭で伝えられるのみ。

それで十分だからだ。

戦いに、過去など必要ない。

分析結果と予測があれば戦える。


 [5]バイオロイドはヒトの命令なくして行動してはいけない。


〈機体収容所第2ゲージ・入り口付近〉


「えー、先ほど隣の基地でスクランブルが発生しました。で、空域的にはこっちは関係ないが、一応見回りって事で飛んでくれって命令がきてます」

小太りで眼の青い男性がパイロット達を前に何ともやる気のない声で淡々と上層部からの指示を伝えている。

彼は恐らく人間だ。

だが、パイロットにはどうでもいい事だ。

命令さえくれるのであれば人間だろうが機械だろうが犬だろうが構わない。

命令さえあれば彼等は飛ぶのだから。

「で、新しい編成と機体の性能を見るという意味で、ゼロ大尉がこの小隊の指揮をとるように、以上。あ、離陸は1時間後で」

伝令に来た男性は伝える事だけ伝えてさっさとその場を離れてしまった。

残されたパイロットは4人。

小隊のリーダーをまかされた少女ゼロ大尉。

食堂で新機体のキーをゼロ大尉に渡したシン大尉。

ゼロ大尉より背が低くつり目な黒髪の少女アニス中尉。

先日訓練学校を卒業した小柄な少年ビット少尉。

「ん〜っと!とりあえず自己紹介しときます?」

ニコニコと口火を切ったのはビットである。

パイロットヘルメットを小脇に抱え、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように3人の周りを回っている。

「うるさい、自己紹介なんてしなくても資料貰ってるでしょ」

ビットに睨みを利かせビシッと紙を見せるアニス。

「んじゃ、タックネーム!今回のミッションだけのタックネーム考えましょうよ!」

アニスの睨みもビットには通用しないようだ。

「俺はハットだ」

アニスとビットの間にシンが入る。

「シン中尉はハットっスか!いいっすね!オレは何にしようかな〜。

ってシン中尉!変わってないじゃないですか!」

ノリ突っ込みを披露するビット。シンはこいつなかなかやるなという顔をしている。

「っていうか、タックネーム申請して添削してもらう時間なんかないでしょーが」

飽きれるように肩をすくめるアニス。

「いい〜じゃないっスか!オレまだ出撃3回目なんスよ!変なタック付けられて凹んでるんですよ」

凹んでる、という割にはとても楽しそうな表情のビット。

「アニスの言う通りだと思う。それぞれのタックネームで今回は出撃します」

3人のやりとりを傍らで静かに聞いていたゼロが口を挟む。

「リーダーがそう言ってるからね、決定」

右手をひらひらさせながら、自分の機体に向かうアニス。

その後ろ姿に不満を漏らしながらも渋々「了解っス」と言って自分の機体へと向かうビット。

二人を見送りながら、ゼロも機体へと向かおうと足を出す。

「ゼロ」

不意に呼び止められ、方向を変えるゼロ。シンをまっすぐに見つめ「何?」と問う。

シンだけではない。いつ誰に呼ばれてもゼロは寸分違わず同じ反応をする。その反応に少したじろぐシン。

「あ、いや、あいつビットのタックネームって何?」

ゼロは視線をずらさず瞬き一つせずに答える。

「ポップスター。アニスはツリー。私は」

「ナンバー」

知っているなら聞くな、と言いそうなゼロを尻目にシンは少し困惑しているようだった。

「あ〜…お前さ、新しい機体のコックピット交換したの?」

「した」

即答。

その答えに少し不満そうに頭をかきながら、あっそう、と独り言のように呟く。

そんなシンの様子に一瞥くべて、方向転換するゼロ。

自分への用事は終わったと判断したのだ。

「ちょ、待てって!」

再度呼び止められ足を止め、方向を変える。シンをまっすぐに見つめ「何?」と問う。

先ほどと寸分違わない行動。

連続で2度目ともなるとたじろぎもせずに見つめ返すシン。

「何があっても飛んでよーぜ」

お互い見つめ合ったままゼロは小さく頷いた。

〈航空経路B1コース〉

『管制塔、こちらラプラー1、A地点通過。異常なし』

『了解。ラプラー1、このまま予定通りコースを回ってくれ』

『了解』

管制塔との定期連絡を終え、ため息をひとつ。

目の前に広がる空はやけの青く、この辺一帯はまだオゾン層が残っている事を表している。

ここよりほんの数キロ離れた場所では赤い空が拡散している。

正確にこの地球にどれだけの空気が残っていて、オゾン層が無事なのかは分からない。

ただ、こうしてマスクを付けて地上に出て空に居るとそう長くは無い事が分かる。

赤い空のもと、人間が外に出てしまうと数時間で死んでしまう。

協力な紫外線に皮膚が耐えられず、焼かれてしまう。

じわりじわりと内部も焼かれて行くらしい。

らしい、というのはそう聞いているだけで実際に体験した事が無いから。

だが、青い空も赤い空も黒い空も変わらず美しいと感じてしまうのはやはり死に憧れがあるからなのだろうか。

『…ンバー、ナンバー、応答せよ。こちらツリー』

少し深く思考が働いていたらしい。

通信が入っている事にすぐに気付かないなんて。

『何?』

地下基地と変わらない対応。

『よかった。何かあったのかと思った。そろそろ〈赤い空〉に入る。編成はこのまま?』

『このままで。〈赤い空〉突入後、速度加速。保護シールド展開忘れずに』

『了解』

現在の編成では中心部2機がナンバー、ツリー。ナンバーの逆隣にポップスター。ツリー隣にハット、の編成で飛んでいる。

これを基本編成としたのは単に2組になる場合の戦力を均等にしたから。

ちなみにラプラー隊Aグループ ナンバー、ポップスター。

Bグループ ハット、ツリー、の2組に別れる。

『オレ〈赤い空〉初めてなんスよ!』

わざわざ全機通信で割り込んで来たのはポップスター。

『初めてか!そりゃいいな。今日は赤飯か?』

ケタケタと馬鹿にしたようにハットがポップスターを挑発する。

『笑う事ないでしょーが!ハットにも初めての時があったんスよねぇ?』

『忘れたな』

戯れの通信を聞いているツリーとナンバーは少し呆れたような顔をした。

『通信機は玩具じゃない!そんな通信なら切るわよ!』

しびれを切らせたのかツリーが怒鳴る。

その瞬間警報が全機に響いた。

『北方向35地点に敵機確認!』

緊張が走る。

『ラプラー、帰還せよ。担当空域ではない。繰り返すラプラー帰還せよ』

管制塔より緊急通信が入る。

『はぁ?意味ワカンねーっス!北35ってオレらの見回り空域じゃないっスか!』

『バカ!管制塔から帰還指示出てるのよ!従いなさい!』

4機の編隊が進路を変更。それぞれ帰還態勢に入るが、ポップスターのみ納得いってない様子だった。

情報が欲しい。ナンバーは管制塔との通信を開始。

『敵機の数は?』

『詳細は不明。少なくとも3機以上は確認済み』

『現在、イーグル2、4、5と交戦中。イーグル1、3は空域を離脱!』

ガガっ

『応援要請、応援要請、繰り返す、現在敵機と交戦中。応援を頼む!』

『!?混線か』

管制塔との通信中にイーグル2からの通信が入る。

その様子は緊迫しているようだった。

『コレ、イーグルからですよね!ヤバいって事じゃないっスか!』

ポップスターの機体が反転する。

編成を離脱し始める。

『何してんの!ポップスター!戻りなさい!』

『バカはやめろ!戻れポップスター!!』

ツリー、ハットから緊急停止要請が出される。

ポップスターはそれを振り切り、交戦地点へと発進する。

『こちらラプラー4!イーグル応援要請を受けて、ラプラー編成離脱!これより目的地北35地点へ向かう!到着まで10分!』

管制塔からの返事を待たずにポップスターは高速で飛んでいく。

『バッカ野郎が!オイ、ナンバー、オレも行く!』

ハットの機体が離脱しようとする前にすでにナンバーの機体がポップスターを追う態勢に入っていた。

『管制塔、こちらラプラー1。イーグル2より応援要請があった。こちらから1、4の2機応援に行く。ラプラー2、3は帰還させる』

『ふざけんな!管制塔!こちらラプラー2、本機もこれより応援に向かう!』

『了解した。ラプラー2、3は帰還せよ、繰り返すラプラー2、3は帰還せよ』

『帰還しろ、命令だ』

その通信を最後にナンバーは新機体の性能をフル展開させ音速飛行に入り、一瞬で見えなくなってしまった。

『…クソが』

ラプラー2、3は帰還態勢に戻り、管制塔へと飛ぶ。

すでに空は赤く染まり始めていた。


〈北35地点付近〉


先ほどの赤みがかった青空とは違いここは真っ青な空が広がっている。

レーダーを頼りに旋回しているが敵も味方も見当たらない。

 おかしい、誰もいない。

空は静まりきっている。戦闘後も何も無い。自身の機体の音のみが鳴り響いている。

『管制塔、こちらラプラー1。敵機確認出来ず。現状の確認をしたい。管制塔、応答せよ』

……

管制塔からの返答は無い。

 何だ?この空域…

 レーダー反応がない?さっきまであったのに…

別方向の雲目がけ旋回をしようと方向転換した所、警告音が鳴り響く。

『ッ!』

声を出すより早く、戦闘態勢に入る。

旋回方向を右側雲の切れ目に変更し、急上昇。

ラプラー1下側に敵機確認。

灰色の機体。

『管制塔!ラプラー1、敵機確認した!戦闘に入る!』

フラップを効かせ、敵機斜め後方へ回ろうとする。

だが、それより速く敵機が反応し、弾幕を張り出した。

 クソっ!速い!

思うより速く、上昇降下を繰り返し、船体を左右に振り、背面飛行しながら敵機左側へ回る。

相手の反応より速く近距離対空ミサイルを打ち込む。

『一機、撃ついッ!』

言い終わる前にもう一機、目の前に現れた。

レーダーには相変わらず反応はない。

特攻のように現れた敵機を寸でで躱し、迎撃態勢に入る。

サイドから敵機を確認したところ、船尾に2発の被弾後があった。

 やられてる…やっぱり此処で交戦してたのか!

敵機横っ腹にミサイルをコレでもか、と打ち込む。

制御を失った敵機が水平を保てなくなり崩れて落ちて行く。

その間も敵機を探す。

スローモーションで映る景色を楽しむ余裕など無く、見つけてしまった。

敵機が崩れるその先に、ブルー発色の機体にイエローポイント。

ラプラー4、ポップスター機だった。

『ポップスター!無事か!』

通信を試みるが、無惨にもラプラー4の船体がゆっくり傾いて行く。

『ラプラー4!応答しろ!ラプラー4!ポップスタァー!』

返答のないままラプラー4は地上へ落ちて行く。

さっきよりも遅くその光景がナンバーの目に映る。

最後まで確認する事もなく、敵機を発見し交戦に入る。


ナンバーが確認した限り、5機の敵機がこの空域にはいた。

2機は撃墜しているので残り3機。

3機を相手にするラプラー1、ナンバー機はまるでダンスするように空を満喫していた。


 [6]必要とあらば、人間はバイオロイドを抹消する事ができる。


〈管制塔・室長室〉


「失礼します」

パイロットスーツのまま敬礼する。

先ほどまで3機と文字通りの死闘を繰り広げていたとは思えない程、落ち着きはらっていた。

「ご苦労だったようね。敵は5機?」

やたらデカイ椅子に浅く座り、机に肩肘着いたまま、室長である白衣の女性がゼロに目もくれず手元の資料や別の資料などを見ながら問いかける。

「はい。すべて撃墜しました」

「流石ね。落ちた戦闘機のことは?」

相変わらずゼロだけには視線を合わせず、他の資料に忙しく目を通していた。

「交戦空域に到着した時点で既にイーグル隊は全滅していたと思われます。もっとも、レーダーが原因不明の不具合を起こしていたようでしたので黙視で確認出来なかっただけですが」

まっすぐに室長を見つめていた視線を少し下げた、がすぐに元に戻す。

「それと、ラプラー4。ビット少尉が本機ラプラー1交戦空域到着後間もなく本機目の前で墜落しました」

バサッ

見ていた資料が机に乱雑にほおられた。

じっとゼロを見つめ始める室長。様子を伺うような怪しむような目つきだったが、何故か口元は笑っていた。

「そう、レーダーの不具合は早急に解明するわ。ビット少尉については残念ね。とても惜しい人材を亡くしたわ」

その言葉には似つかわしく無い笑顔で心にもない言葉をさらさらと言う。

 この人はこういうヒトだ

無表情のまま室長の建前を聞く。

「ま、とりあえず今はいいわ。後で新機体の性能とかも含めて報告書、出しといてね」

何かの報告書と思しき紙をひらひらとゼロに見せつけながら、にっこりと笑顔でバイバイと手を振る。

「はい、早急に」

では、と敬礼し重く大きな扉へ歩みを進めるゼロ。

その様子を満足げな微笑みで見送る室長。

「あ、そうだ。ビット少尉のね最期、どう思った?」

ピタッと歩みを止めるゼロ。

いつもならすぐに問いかけられた相手の顔をまっすぐに見つめるゼロだが、視線は扉に向けられたまま室長に分からないようにヘルメット抱える拳を軽く握った。

「…いつも通りです」

そう答えるとツカツカと扉へ向かい、一礼し部屋を出て行った。

「…いつも通り、ね」

静寂した部屋の中で室長は静かに呟き、そっと受話器をあげた。


〈パイロット待機棟・ラウンジ〉


時計の音だけが響く部屋。

ソファに深く座り、一言もしゃべらずに、動かずにただ時間が過ぎるのを待っているシンとアニス。

すでに二人はパイロットスーツを脱ぎ、軽くシャワーを浴びた後だった。特に差し合わせた訳でもないがここに来てしまっていた。

沈黙を破ったのはゼロの足音だった。

「ゼロ大尉!」

真っ先にアニスがゼロに駆け寄る。

「アニス中尉…と、シン大尉」

二人に気付いたゼロは小さく頭を下げた。

傍らによって来たアニスが抱えたままのヘルメットをゼロから受け取り、心配そうな顔でゼロを見つめていた。

「お疲れ」

ソファに座ったまま顔だけゼロに向けたシンが労いの言葉をかける。

「…どうも」

いつか見たようなやり取りで挨拶する二人。それを傍らでハラハラしたようなオドオドしたような表情で二人を交互に見るアニス。

「ポップ…ビット少尉は、どうなりました?」

アニスの問いに一瞬言葉を詰まらせたゼロ。ゆっくり瞼を下げ、気付かれないように息を吸い込む。

「彼は、落ちた」

落ち着いた声。

アニスもシンも落胆というよりは、やっぱりと言うような表情でいた。

「そう、ですか。解りました。ありがとうございます」

ほんの少し脱力したアニスは一歩下がり、ゼロの進行を促す。

シンは興味をなくしたように飛行資料を手に取って読みふけり始めたので二人の位置からはどんな顔をしているか解らなくなっていた。

数秒無言。

アニスが持っていたヘルメットを受け取り、小さく頭を下げゼロがその場を立ち去った。

「…どうします?」

沈黙を破ったのはアニス。その問いはまるで決まりきっている事を確認するような口調だった。

「どうもないな。あいつはよくやったよ」

視線は資料のままシンが答える。

読んでいるのか読んでいないのか分からないが、パラパラとページは捲れていく。

「…ですね。お先に失礼します」

アニスはペコッと頭を下げ、小走りでラウンジを後にする。

一人残ったシン。

拳をキツく握っていた。


後編へ続く





















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