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一話

17時、18時と連続で投稿します。

 夏休みが二日目に突入した本日。当たり前のことを言うようで気が引けるのだが自己満足のために敢えて言わせてもらうことにしよう。


 熱すぎる。それはもう暑いを超えて熱いのだ。


 休み中だというのに友人との約束のせいで早起きしなくてはならなくなった俺が、寝起き開口一番に呟いた言葉が『暑い……』だった。それくらいに今日は気温が高い。今日も、と言った方が正しい言い方かもしれないな。まあ、どっちにしろ本日はとても暑いということになる。


 俺は就寝の際、冷房は必ず切るように心がけている。それは地球温暖化を防ごうなどという身の程知らずな志を掲げた末の英断、と聞かれれば俺は間髪いれずにNOと答える。地球などというスケールのデカイ話は俺みたいなミジンコ並みにちっぽけな存在からすれば、それこそ次元の違う話なわけでありまして。結局俺が言いたいのは、寝ている間まで冷房をつけていたら電気代が馬鹿にならないぞ、という一般家庭に住む普通の人ならば誰でもたどり着く結論に至ったからだ。 


 だが、今の俺は眠っていた意識を覚醒させている。ならば冷房をつけようとも何も問題はないはずだ。それどころか冷房をつけなければ色々と問題が出てきそうなくらいに、今現在の室温は高い。このままベッドの上をウダウダと這っていれば、塩をふりかけられたナメクジの様な有様に成り果ててしまうことだけは確実と言えよう。


 よって、俺は汗でベタつく全身に辟易しながらも、その辺に投げ捨てたであろうクーラーのリモコンを探してウロウロと室内を動き回り始めた。今の俺の動きが、さながらゾンビダンスのようであろうことは自分でも自覚できている。それでもシャキっと出来ないのは、この茹だるような室温のせいに他ならない。


 「あ、みっけ」


 そうこうしている内に、何故かベッドの下スペースへとその身を隠していたリモコンの発見に見事成功し、俺は極楽浄土へのチケットを手に入れたのだった。


 やや大きめなボタンを押すとピピッという電子音と共にリモコンから発信された赤外線がクーラーを起動してくれる。そして僅かな起動時間の後、送風口から涼風を吹き始めるクーラー様。おお、なんと気持ちの良い風だろうか。一生ここから離れたくないと感じてしまうのは俺が正常な判断能力を持っている人間だからだと信じたい今日この頃である。


 クーラーの設定温度は昔も今も26度。俺の体に最も適した温度だ。

 ああ、冷風が全身に当たって気持ちいい~。

 もし家のクーラーが雌だったなら婚約を申し込んでいたかもしれないな。一生俺の三歩後ろから付いてきてもらうんだ。そして涼風を送ってもらうんだ。


 そんな、普通の高校生ならば一度は考えるであろうクーラーとの婚姻を真面目に思案していると、突然、俺しかいないはずの室内に俺ではない別の声が響いた。


 『じゃじゃーん、ここで問題! パンはパンでも食べられないパンはなーんだ! 残り三秒!』


 何の脈絡も無い突然のクイズ勃発に、俺の思考は一瞬だけ停止してしまった。折角クーラーとの婚姻方法を考えていたというのに今ので全ての思考が吹き飛んでしまったぞ。どうしてくれる。


 (突然なんなんだよ……。クイズ番組に感化されたのか?)


 それならもう少し凝った問題を出せよ。簡単すぎるだろうが。

 自由奔放にも程がある、と内心でツッコミを入れつつ定石とも思える答えを渋々返す。


 「えっと、フライパ――」

 『ブーッ! 正解は焼きそばパンでしたー! あんな炭水化物たっぷりのジャンクフードなんて食えるものかー! あれ作ったのって誰だよー。バカじゃねーのかー』

 「それってお前が食べたくないパンじゃねーか!!」

 

 脳内に響く女の子特有の甲高い声に、精一杯のツッコミを入れる。

 独断と偏見に満ちたクイズの答えなんてお前と大して親しくもない俺が分かるわけねーだろ。つーか炭水化物たっぷりの惣菜パンなんて、焼きそばパン以外にも山程あるだろうが。もっと考えてからものを言えよ。


 誰もいない俺の部屋だったから応答してやったが、外出中にこのテンションで話しかけられていたら俺は発狂していたかもしれない。

 

 コイツは朝から夕方までの間に眠っているらしいから、話しかけてくることは滅多に無いはずなのだけれど、今はまだ午前中だというのにも関わらず、クイズにすらなっていない出来損ないの問題を俺にふっかけてきやがった。一体なんのようだ。


 「お前、昼は寝てるんじゃなかったのかよ? 寝れないなら俺が寝かしつけてやろうか?」


 なんなら自慢の眠り唄を歌ってやってもいいぞ。これを聴かせるとピーピーうるさい赤ちゃんもほんの数秒で寝静まるんだ。

 

 なぜか白目をむいて。


 『いやー、それが昨日の夜は早寝をしちゃってねー。こんな早い時間に起きてしまったという訳さー。これって「早起きは三文の得」とかいう奴だよね。まあ、三文の為だけに早起きする若者がこのご時世に何人いるのかって話だけどさー。あはははは』


 ……なんだろうこれ? 返答するのも面倒臭いぞ?

 それに、今の若者では三文の価値を分かってない者がほとんどだと思う。これは俺が保証するぞ。だって分かんないもん。


 「いや、そんな事はどうでもいいんだ。とにかく、お前は静かにしてろよ。そろそろ美沙たちが家に来るんだ」

 『ん? それって廃墟で一緒に居た娘たちだよね? やる~涼ちゃん。ハーレムだね~』

 「そんなんじゃないよ、阿呆」


 軽く殴ってやりたかったが、こいつを殴ったら俺まで痛い目に遭ってしまう。自虐趣味がある訳でもないから我慢しておくとしよう。


 『仕方ないね、そういう理由があるのなら大人しくしとくさ。誰にも『聞こえない』私の声に反応しちゃったら、涼ちゃんが変人みたいな目で見られちゃうからね』

 「分かっているのなら是非そうしてくれ。できれば一生喋ってくれなくてもいい」


 切にそう願う。

 まあ、『タマ』が肉体を失う要因の一端を作った俺としては、コイツを俺の体に住まわせてやる事ぐらいは許可してやってもいい。だが、毎日このテンションで話しかけてくるのは勘弁してもらいたい。ストレスで死んでしまうぞ。


 もうそろそろ十円ハゲが出来そうだ。


 『そう言うなよ、涼ちゃん。私のおかげで君は生きていられるんだぞ? むしろ感謝して私の話を聞くべきだね』

 「ふざけんな、俺が死ぬ原因を作ったのはお前だろうが。体を再生したくらいで威張るなよ。終いにゃ本気で追い出すぞ、コノ野郎」


 いけしゃあしゃあと言いやがって。

 誰のおかげで死んだと思ってる。あれもこれも全部お前の責任だろうが。

 

 『ぶ~。……あっでも死んだのは涼ちゃんの自己責任じゃない? 私は何もしてないしさ』

 「何もしなかったのが問題なんだろーが。まったく、人里に降りて来るのなら誰にも迷惑のかからない行動を心がけろよ、この化け狐」

 『あ~! また狐って言った! 玉藻って呼べと言っているのに~』

 

 ああ煩い、脳内で叫ぶなよ。頭が割れたらどうすんだ。

 

 「わかった、わかったよ。タマ」

 『タマじゃなくて玉藻だよ~。涼ちゃんの難聴』

 「黙れ」

 

 誰が難聴だ。俺はピチピチの十代だぞ。

 補聴器を使うにはまだ六十年ほど早いんだぞ。

 

 『や~い難聴、軟便、早漏ヤロ~』

 「本気で殺すぞテメー!!」

 

 滅茶苦茶言いやがって! 一体どこでそんな単語を覚えてきやがったんだ! 

 どうやら俺は本気でコイツの除霊方法を探さなくてはならないらしい。

 とりあえず塩でも撒いておくか? 

 あ、そういえば塩って切らしていたな、後で買っておこう。

 そして撒いておこう。

 

 『そう怒んないで涼ちゃん。私たちは一蓮托生の間柄じゃないか』

 「確かにそうだが」

 『なら仲良くしよ? 互いが自分の命と同じくらいに大切な者同士じゃないか。言うなれば恋人みたいなものだよ』

 「いや、それは違う」

 

 どうしてお前と恋人にならなきゃいけないんだ。まだ蠅と結婚した方がマシだ。


 ……だが、コイツの言っていることにも一理ある。

 『お互いが自分の命と同じくらいに大切な者同士』という一文だけではあるが。


 細かく言うのなら、相手の命が自分の命と等価、と言った方が正しいか。


 コイツが死ねば、俺も死ぬ。

 俺が死ねば、コイツも死ぬ。

 もし片方が自殺すれば、もう片方も抗う術なく死ぬ。

 その揺るぎない契約のもとに、俺たちの関係は成り立っているのだ。

 肉体を支配できる権限は所持者である俺が優先的であるから、私生活において心配する必要はないのだけれど、俺の意識が眠ってしまった場合は『タマ』の奴が肉体の権限を持ってしまう。その際に自殺でもされれば、俺も漏れなく道連れにされてしまう訳だ     

 まあ、そればっかりはどうしようもない問題か。

 諦めよう。

 

 『お互い面倒ではあるけれど、仲良くやろう。仲良しこよしでね』

 「……ああ、分かってる」


  確かに、仲良くしないとやっていけないかもしれないな。多分、一生の問題になるだろうし。

 

 『なら改めて、私と和気藹々とお話をしようじゃないか!』

 「切り替えが早えよ。自分の体が壊れたのになんでそんなに気楽なんだよ」

 『だって、考えても仕方ない問題じゃん! それに、これはこれで楽しいんだよ。人と融合するなんて、千年以上の時を生きてきた私でも初めての体験だからさ』

 「……俺も初めてだよ。妖怪と合体しちまうなんて」

 

 人類史上初、とは言えないかもしれないけれど、とても稀有な体験ということだけは間違いないだろう。なんたって、イタコでもなんでもない一般人の俺が、霊感があるわけでもない凡人極まるこの俺が、世界的に名高い妖狐と合体してしまったのだから。


 世の中何が起きるか分からないものである。

 

 『……ねえ涼ちゃん。合体って何だかエロティックじゃない? 私とどんな感じで合体しちゃうの? ズッポシ? ガッチシ?』

 「もうお前、一生黙ってろよ!」

 

 真面目にこれからのことを考えようとした矢先に、このザマだ。本当にコイツが高名な妖怪なのかどうか怪しくなってきたぞ。伝承とかに乗っている記述も全部出鱈目なんじゃないだろうか。

……まあ、コイツが妖怪であることは確かだから、これ以上考える必要もないか。


 さて、どうして俺はさっきから自室で独り言を、それもペラペラと大きな声で叫んでいるのかというと、それは『俺の中』にいる奴が原因に他ならない。

 コイツとの出会いは二日前。

 夏休みを目前に控えて、テンションが最高潮になっていた時だった。

 まるで狙ったかのように、俺の幸福を奪うかのように、

 コイツは――玉藻は俺の目の前に現れたのだ。


 思い出したくもない、とある夏の日の出来事。

 高らかに歌う蝉の音が、やけに喧しかった日。

 焼け付くような太陽の下で出会った、俺と一匹の狐。

 俺のおせっかいと、タマの奇行が招いた、とある珍事件。

 それを思い出してみよう――


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