嫌悪
いやらしい笑み。浅ましさと卑屈さが同居したような顔の男が、モニターの前でブツブツと言葉を口から漏らしていた。
「あ~、このメーカー新しいの出したんだ」
濁った目に映るのは、ゲームメーカーのホームページ。新作を紹介していた。ゲームメーカーとはいっても、選択肢を選んでテキストを進めて女の子と仲良くなるという、寂しい男の願望を満たすもので、一般に広く知られている会社ではない。
ある種の人間は、こういったゲームに酷く飢えている。現実の女性よりゲームに登場する女の子のほうが良い、ゲームで遊んでいる時間こそ最も幸福だ、と主張する人間もいるくらいだ。しかしこの男は、いわゆるギャルゲーというものを切望しているわけではなかった。
「前のやつ、つまんなかったしな。まあ、一応やってみるか」
男はFireFoxというブラウザを起動し、ファイル共有ソフトを利用するためのファイルを探し始めた。情報強者を気取る割りに、ネットリテラシーは皆無である。
新しいゲームだけあってファイルはすぐに見つかり、ダウンロードも早かった。
「へっ」
男は意味もなく得意げだった。自分が法を犯し、本来なら金銭を払うべきものを無料で手に入れていることが、あるいはこの男にとってステータスであるのかも知れない。
無事にゲームをインストールし、男は遊び始めた。
「なんか対策するとか言ってたけど、楽勝じゃん」
偉そうに、さも遊んでやっているのだと言わんばかりの態度であったが、目はモニターに吸い寄せられるようである。
そのゲームの舞台は学園であり、どうやら高校生くらいの年代のようだが、はっきりとした表記はなされない。主人公は特に突出した能力もない、お人よしの朴念仁だが何故か周囲に魅力的な女の子が多く集まるというやや不可思議な男。大きな事件もない、学生たちの日常を描いたゲームであった。
男は主人公の周りにいる女の子のうち、気が弱そうな後輩に目をつけた。男の好みのタイプだが、男自身は何故彼女を選んだか気付いていない。あくまで気まぐれに、一歩退いたところで楽しんでいると、そう思い込んでいるのだ。
ゲーム内での様々な出来事の際に出てくる選択肢を、男は全て後輩に好かれそうな行動を選択した。他の女の子の焼きもちを浴び、次はどの子を攻略しようかと頭の片隅で考えつつも、後輩のセリフや行動に顔をだらしなく歪めるのであった。
さて、後輩との仲も深まりお互いに好意を持ち、いよいよ主人公が告白することになった。男は後輩が告白してこないことに若干の不満を覚えつつも、その後の展開を妄想してよだれをたらさんばかりの気持ち悪い顔をしている。ゲーム内の学園の文化祭の最終日、キャンプファイヤーやフォークダンスで賑わっている校庭を一望できる屋上で、夜空を背景に後輩がこちらを見つめていた。何かを期待してか、頬を赤く染めている。主人公が文化祭の話などをしつつ、後輩との出会いを回想した。そしていよいよ主人公は自分の気持ちを言葉にしたのだった。そして後輩は、
「割れ厨なんて、お断りです」
今までの照れ顔が嘘のように、侮蔑に満ちた表情をしていた。
おわり
さて、あなたは男に嫌悪しましたか?
それとも作者に嫌悪しましたか?
全然別のことを考えましたか?
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