新しくなりつつあるもの
「私の.....力.....」
池松は首に下げられたアクセサリーをじっと見つめる。
アイツが池松を気に入るなんて....なにか不吉なことでもおきるんじゃねえか....?
座ったまま、下を向いて考えていた。
「紫縞君!」
――はっ....!
「あ?」
「私を、強くしてくれないかな?」
また何を言ってんだこいつ.....。
「いつも、私が迷惑ばかりかけてるから...少しでも強くなって、役にたちたい。私ばかり支えてもら
ってちゃ嫌なの!....私も、紫縞君の支えになりたいのに...」
―――っ.....!
こいつ....。
「馬鹿じゃねーの?」
「――えっ....?!」
「そんなんで、支えになるくらいだったら...最初から俺はっ―.....いい、どうせお前に話したところで
どうにかなるわけじゃねえ。あんま俺のそばにくんな」
図書室をでて裏庭の壁に座りこんだ。
.....っ....これ以上....近くに来んなよ....。
....頼むから....。
両手で目を覆わせる。
「.....っく...」
頬から雫が流れた。
いついらいだろう。
俺がこんな気持ちで泣くのは―.....。
苦しくて、辛くて、逃げたしたくなるこの気持ちを、俺は....忘れていたと言うのに―....。
あの日から...“シト”は俺のすべてを奪ったんだ―......。
12月ごろ、雪の降る季節だった。
あの頃は、何も知らないただの子供でガキだった。
父親と母親、それに妹もいるごく普通の家族だったんだ.....。
「父さん、雪だよ!ほら!外、すっごい降ってる!!」
「ははは!葵はほんとーに雪が好きだなあ、よし!作りに行くか!」
「うん!」
妹と三人で雪だるまを作りに外へでた。
まだ小さかった俺にはこんな力があるのも知らなかった。両親が一度も話してくれなかったからだ。
「健一.......」
紫縞 健一、俺の父親の名前を俺の母さんが中から呼ぶ。
父さんはなぜかその時、怖い顔をしながらうなずいて中に入っていった。
「葵、鈴菜、お前達は外で遊んでなさい。後で行くから」
再びこっちを向いた時にはいつもの笑顔だった。
妹の鈴菜は元気よく返事して雪で遊ぶ。
俺は今さっきの顔が気になり、好奇心で気付かれないように後をつけてしまった。
それが、俺の罪だった―....。
後から出てきた両親を脅かそうとしてロッカーの中に俺は隠れ、両親が来るのを待っていた。
両親と誰かの声が聞こえて、ロッカーの隙間からそれを覗く。
「俺の子には手を出すなっ!!」
父親の怒り声を、その時初めて聞いた。
父さんの声.....?
だんだんと近づいてくる声に驚いて、そこから動けずにいた。
「お願い、なんでもするからあの子には近づかないで!!」
母さん....?
二人の姿が見えて声を出そうとしたけど、もう一人男がいた。
....誰、だろ....。
「嫌だな、何も殺るとは言ってねえ、えぐり取るだけだ」
意味が分からない俺はただそのまま聞いていた。
「あんまりしつこいようだと、うざいよ?」
次の瞬間目の前が真っ白になった。
いきなり両親が血を吐き、二人とも廊下に倒れて
まだ背の低かった俺の目には父さんが映っていて全身が震えだした。
分かったことは、父さんと母さんが殺されたって事だけだった。
声を上げようとすると、頭が危険だという反応で声がさせなくなる。
「さて、次は子供へ行くとするか」
近くに両親を殺した男が妹のいる雪の所へ向かう。
殺されるという恐怖心でそこに留まってしまい、俺は悔やんだ。
妹までも殺された俺の心は、闇そのものになってしまった。
「.......?まだ生き残りがいたのか?ならばお前も―....」
妹を抱く俺の後ろで俺に切りかかろうとするが、俺は一瞬でそいつの右目に傷を負わせた。
殺されたという悲しみと怒りのことから、俺の力がそこから始まったんだ―...。
「.....っ.....ふ~ん?あいつらより少しは楽しめそうだ。だが今度会う時にはお前を殺しにくる」
その男は手で片目を覆いながら姿をそこから消した。
力を初めて使った俺は、そこで意識がなくなり、ひとり、倒れた。
その後このことは覚えてない。
俺は病院に運ばれ、気付くと天井を見上げていた。
ここは―.....?
一人、病院で眠っていることさえも苦しかった。
自分が、なぜ自分だけが生き残っているのか、それだけが辛く、重い責任感を感じた。
「うっ.....ううう.....っ...」
許さない.....絶対許さない....!!
ベッドの上で、一人、泣いていた。
「.....ま君、紫縞君?」
はっ―.....。
いつの間にか俺は寝ていたらしい。
「....なんだ、近づくなって言っただろ?」
「どうして、泣いてるの?」
あ?......。
頬を触れてみると、俺は泣いていた。
「なんでもねえよ、さっさと―...」
「よくないよ!....ねえ、何で泣いてたの?それは、教えてくれないの?」
「いいからほっとけっっ!!」
大声で怒鳴ると池松の肩が少し揺れた。
...いい加減、ほっといてくれ....。
すくっと立った俺は「...帰る」と言って池松の下を離れる。
「私、彼女なんだよ?!どうして、いつも言ってくれないの!?私じゃ....力になれないの.....?」
「.....ああ、そうだ」
後ろで叫ぶ池松の声が胸に響いた。
心が少し開いたように池松の言葉だけがすんなりと俺に入ってくる。
お前しか.....いねえんだよ.....。
俺の中で、何かが変わろうとしていた―...。