お前がいれば、いい
この猫、いったい何なんだ....?
すると猫が近づいてきて何かの雫を池松に垂らした。
「.....んっ....」
ピクッと池松の体が不意に動いた。
「尋?!」
「...え....紫縞君?!って、今....初めて名前―....」
「はあ...ったく」
「にゃーお」
っ...!
「おい!そこの豚猫!!」
「にゃーお?」
「そう、お前。お前、俺のところに来い」
そう言うと猫はいきなり人間に化けて俺に引っ付いてきた。
「ホントおお!?いいの?!やったああ!!」
「わ、私は?!」
「お前は―............」
コイツは....こっちに来た方が、いいのかもな....。
「.....来い」
喜怒哀楽が分かりやすい奴だ、ほんとに...。
「けど...その髪と目、どうしたの?」
「うふふ~。これね?今さっき尋ちゃんが死んだって聞いた時に怒り狂ってこうなっちゃったんだ!! どうしてだろうね?うふふふ!」
「おい、くそ豚猫....」
丁度池松と目が合ってしまい、俺は反射的にそっぽを向いた。
.....っち、余計なこと話やがって。
「あらら~、照れてる~!はじめて見たそんな仕草!!」
そっぽを向きながら、隣にいる猫の頭を殴った。
「い、いった~!僕女の子だよ?!手加減してよ、も~!」
「知るか」
そんな些細なことが少しでも続く限り、俺はこの時間を大切にしたいと心から思った。
「お帰り~...あら?尋ちゃんじゃな~い!!さ、上がって上がって!」
「お、お邪魔します.....」
「わお!!葵が女の子を二人も連れてき―...どごおおお!!」
相変わらず、真衣さんは弟が要らないことを言うと何かしら殴る癖がついてしまったみたいだ。
「あ、どうもすみません...いただきます....」
「あら、気にしなくてもいいわよ?存分にゆっくりして行ってね?」
にっこりと笑う微笑が怖く見えたのか、池松は小さくなってしまった。
ま、あれを見たら怖くないわけもないか...。
「あははは!あっきーおもしろーい!!」
「だろだろ?!葵ってばくだらねえとか言うんだぜ?!ひどいだろ!」
こっちはこっちで何だか話し込んでるっぽいけど、ま、気にすることでもないしな。
外の空気でも吸ってくるか。
ドアを開け、廊下に出る。
隠し階段を登り、二階へと移動した。
なんか最近いろんなことがありすぎて、頭、まわらないねえや....。
ここの二階の部屋は、俺だけの専用の部屋。つまり俺の部屋だ。
屋根裏の一人にはもってこいな部屋だ。
すぐに出られるようにベランダもついてある。俺が、唯一ゆっくりすごせる場所でもある。
俺はベランダにひじを掛けて空を見上げる。
深呼吸をすると自然の空気が新しくなるのを感じた。
「へ~...いい場所だね?ここ」
バッ―....。
「....なんでお前がここ知ってんだ」
「え?...明良に聞いたから?」
「.....ふーん....」
池松が俺の隣に来ると何だか黙ってしまった。
「.....ねえ、紫縞君...」
「あ?....何だ」
「.....彼女って....いる?」
「?ああ、いるけど?」
「!......そ.....か....」
俺に向けられた視線は空に向けられた。
「....え?!葵って彼女いたの?!」
突然また後ろから声がして、俺と池松は振り向いた。
「.....っち....そう、コイツ」
俺はペットのチワワを軽々と持ち上げて明良に見せた。
....はあ、その雰囲気で逃れようとしてたのに、めんどくせえことになった...。
「し~じ~ま~君~?...あれ??」
俺はその場から、颯爽と逃げた。
「逃げた~~?!」
家より遠く離れた俺もわかるほどその家には池松の声が響いていた。
ずいぶん遠くに来てしまったと、後ながら思っているとチンピラに襲われている女の子がいた。
「おい、何やってんだよお前ら」
「あん?なんだてめえ...首突っ込んでんじゃ、ねえよっっ!!」
いきなり右ストレートパンチが飛んで来たが、軽くガシッと手を掴んで頭にでこピンをしてやった。
そいつは何センチか飛んでいってそのほかの奴らは逃げて行った。
「どーする?俺、人間じゃねーけど、それでもいい?」
ニタリとそいつに笑ってやると、そいつも逃げ帰るように逃げていった。
「.....あ、ありがとう、ございます....」
「別に?俺、何もしてねえし。じゃ、気をつけろよ?」
「あ、あの!!な、名前、聞いても、いいですか?」
「....紫縞 葵。....じゃ」
「あ、あの!!」
「....まだ何かあんのか?」
「こ、今度、お礼がしたいので、会ってくれませんか?嫌でなければ....ですけど....」
「....何?デートのお誘い?」
「だ、駄目ならいいんです....それじゃ...」
「別にいいぜ?日曜なら何もねえし」
最近の奴ってみんな喜怒哀楽が分かりやすいんだな。池松とか得、に―......。
「ほ、ほんとですか?!よかったあ...それじゃ、お昼に陽の間公園で―...」
「......」
池松.....ねえ....。
「?紫縞さん?」
「あ?あ―...分かった」
.....?何だ、今の―.....。家に戻るか。
玄関のドアを開けると、そこには何故かまだアイツの靴があった。
まさかな.....。
スタスタと入るとやっぱり思った通り、あいつが中にいた―....。
「お帰り~!早く椅子について~?」
「ほら!早くっ!」
エプロン姿の池松と真衣が俺の背中を押して椅子に座らせる。
ソファの方でハンカチをもちながら泣いている明良はいったい何をされたのだろう....。
「ずるいよ~、僕も二人のご飯、食べさせて―.... ぐわっはああ!!」
あ~あ....。そういうこと....。ははっ....。
「ってかなんでこんなことになってるわけ?それ聞かせてくんない?」
「いや~!なんか尋ちゃんに料理を手伝ってもらってたら、なんか料理が上手だったもんで―...」
「それで対決っというわけ?」
「そうそう~!ってよくわかったねw」
どうせそんな事だろーとは思ってたけど、ほんといかにも真衣らしい....。
テーブルに置かれたものが、やたら気合が言ってるように思う。
ふーん、ま、いーけど....。
右のおかずを一口食べてみる。
二人とも、真剣な眼差しで見つめてくるのであまり顔が見れない。
「....うまい」
真衣の顔が見る見る輝いていく。
.....これは真衣が作ったおかずか、ま、うまい。
「俺も食べたい~!ずるいぞ葵―...ぐはああああ!!」
「よかったあ!!」
今度はまた違う眼差しを感じる。
「~、はいはい、食うからそんなに見つめんな」
池松は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「....うまいんじゃないか?...わりと」
「ほ、ほんと?!よかったあ...」
そ、そんなに褒めることいってないような気もするんだが......。
「ずりい...いんけちだ!こんなのいんけちにきまってるううう!!」
「アンタは黙ってな」
ゴスッと音をたてて明良のお腹をグーで真衣は殴っている。
「ぐほあああ!!」
おわ.....今のは効いてそうだな....。
「でもそれじゃあ審査に、ならないじゃないの~~!!」
「ぐはああ!!」
今度は俺がグーで真衣に殴られ宙に浮いてしまった。
「...ふっ、な、仲間だ、葵....」
「お前.....今までこんなのに耐えていたのか、尊敬するぜ...」
「あ、おいよ....」
俺達二人とも真衣のパンチ力に堪えて気絶してしまったのだった。