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異世界JKのポジティブが強すぎて、常識人の狐獣人は胃が痛い。 ~この世間知らず、放っておいたら死ぬのでは?~

作者: サハラ
掲載日:2026/03/24

 空を裂くのは、巨大な飛空艇が吐き出す重低音だ。

 アイゼンガルドの王都、その上空を横切る鉄の鯨たちは、魔導蒸気マナ・スチームを噴き上げながら、鈍い銀色の光を地上に投げかけている。石畳の道には、配管から漏れ出た白い蒸気が霧のように立ち込め、道行く人々の裾を濡らしていた。

 この街は、常に歯車の噛み合う音と、蒸気が抜ける悲鳴のような音に支配されている。

 銀色の毛並みを持つ狐獣人のゼノは、そんな喧騒を器用に聞き分けながら、人混みを縫うように歩いていた。

 彼の耳は、周囲の微かな音を拾い上げる。飛空艇のエンジンの不調、露店商が客を騙そうとする囁き、そして――。


「……嫌だって言ってるじゃないですか。おじさんたち、耳が遠いの?」


 路地裏から響いた、鈴を転がすような、だが恐ろしく場違いなほど「明るい」声。

 ゼノは足を止めなかった。運び屋としての鉄則は「他人の領分に踏み込まないこと」だ。特に、この魔導蒸気と荒くれ者が多い街において、路地裏の揉め事は日常茶飯事である。

 だが、視界の端に映ったその光景は、彼の「常識」という歯車を狂わせるに十分だった。


「お嬢ちゃん、その服、珍しい素材だな。売れば金になりそうだ。それとも、中身の方を売るか?」


「えー、これユニ〇ロですよ? 安いよ? それより、さっきから言ってるけど、私、ここがどこか知りたいだけなんです。あと、おじさんたちのその耳、コスプレじゃなくて本物? 触っていい?」


 囲んでいるのは、筋骨逞しいドーベルマン系統の犬獣人たちが三人。対するは、黒髪を高い位置でまとめて、商売女しか履かない膝を大胆に出した布を穿き、袋状の布がついた白い上着を纏うという、この世界のどこを探しても見当たらない奇妙な装束の少女だった。

 普通なら、泣き叫ぶか、恐怖で硬直する場面だ。しかし、彼女の瞳は好奇心にキラキラと輝き、あろうことか捕食者である獣人の耳に手を伸ばそうとしている。


(……関わったら、厄介だ)


 ゼノの生存本能が、最大級の警鐘を鳴らした。

 あの少女は、この世界の「捕食関係」も「力」も理解していない。あれはただの無知ではない。根源的な、破滅的なまでの能天気さだ。

 ゼノは深々とフードを被り直し、視線を石畳に落とした。関わってはいけない。助けたところで、礼も言わずにさらなる厄介事を持ち込んでくるタイプだ。


 彼は無機質な機械のように、その場を通り過ぎようとした。

 その時だ。


「あーっ! お兄さーん! 探しちゃいましたよー!」


 鼓膜を突き刺すような大声。ゼノの心臓が跳ねた。

 振り返る間もなかった。背中に、柔らかくも重い衝撃が激突する。


「ちょっと! これ、忘れ物ですよ! ダメじゃないですか、置いていっちゃ!」


 しがみついてきた少女が、ゼノの銀色の腕をがっちりとホールドした。差し出されたのは、そこらの壁から剥がれ落ちたような、ただのレンガの欠片だ。

 ゼノは凍りついた。彼の尻尾が、不快感と驚愕でボワリと膨らむ。


「……何をしてる。離せ、この馬鹿」


「馬鹿なんてひどいなー! ほら、追いかけてきたおじさんたちも、お兄さんに用があるみたいですよ?」


 少女はゼノの影に隠れながら、追っ手の獣人たちに向かって「てへっ」と舌を出した。

 最悪だ。

 男たちの視線が、一斉にゼノへと向けられる。彼らの目は「新しい獲物」か、あるいは「邪魔な同業者」を見るそれだった。


「おい、狐。そいつ、お前の連れか?」


「違う。今、初めて会った」


「嘘ばっかり! さっきまであんなに仲良くしてたじゃないですかぁ!」


 少女はあろうことか、ゼノのふさふさした尻尾をギュッと抱きしめ、頬を寄せた。


「ほら、見てくださいこの信頼関係! 完全に仲良しですよ!」


「……っ、貴様、殺されたいのか……!」


 ゼノの喉から、獣特有の唸り声が漏れる。だが、男たちは既に得物――魔導蒸気を動力源とした、振動する短剣を抜き放っていた。

 もはや説明は無意味だった。この街の獣人たちは、一度火がついたら止まらない。


「チッ……あー、もう! 面倒くせえな!」


 ゼノは叫び、同時に腰のベルトに装着された円筒形の装置を叩いた。

 シュゴオォォ! と鋭い排気音が響く。彼の腕に装着された外骨格状のガントレットから、超圧縮された魔導蒸気が噴出し、ゼノの身体能力を爆発的に引き上げた。

 一歩。

 瞬きをする間に、ゼノは先頭の男の懐に潜り込んでいた。

 驚愕に目を見開く男の顎を、掌底で突き上げる。


「がっ……!?」


 続けて、残りの二人の鳩尾へ、蒸気圧を利用した加速蹴りを叩き込んだ。石畳に鈍い衝撃音が三つ、重なって響く。

 手加減はした。殺せば後の処理がさらに面倒になるからだ。


「わあぁぁぁ……! すごーい! 魔法? 魔法なの?」


 背後で、少女が呑気にパチパチと拍手している。

 ゼノはガントレットの熱を逃がすように排気弁を開くと、冷徹な視線で彼女を射抜いた。


「おい。今すぐ消えろ。助けたつもりはないが、これ以上関わるなら、次は俺がお前を叩き出す」


「えっ、でも私、行くところないし。そもそもここ、日本じゃないですよね? 異世界転移ってやつ? 実装されてたんだ、私に……」


「知るか。どこへでも行け。野垂れ死ぬのがお似合いだ」

 ゼノは冷たく突き放し、大股で歩き出した。

 背後で、少女が何かを考え込むような沈黙。……よし、これで諦めたか、と彼が安堵したのも束の間。


「待ってください、お兄さん! ……じゃなくて、シルバー君!」


「誰がシルバーだ」


「だって名前教えてくれないし! シルバー君、私、さっきから手がポカポカするんです。これって、もしかして魔法少女の兆し?」


 少女が差し出した手のひらを見て、ゼノは足を止めざるを得なかった。

 彼女の指先から、陽炎のような青い光が立ち昇っている。それは魔導蒸気ではない。純度の高い、生身の魔力だ。この世界では、特定の高位種か、あるいは稀に現れる「異世界からの客人」にしか持ち得ない性質のものだ。


(……この魔力、隠そうともしてないのか、この娘は)


 アイゼンガルドの夜は暗い。そして、その暗闇には、この純粋な魔力を高値で売り飛ばそうとする連中がいくらでも潜んでいる。

 ゼノは、自分自身の「放っておけない」という性分を忌々しく思った。

 彼は常識人だ。損得で動く運び屋だ。

 だが、この世間知らずの塊のような少女が、次の角を曲がった瞬間に袋詰めにされて売り飛ばされる光景を想像し、彼は自分の良識という名の足枷を呪った。


「……目的地までだ」


「え?」


「隣町の保護施設まで、お前を運んでやる。運賃は……あー、その、お前の上着の内側に付いている、奇妙な刺繍の入った小さな布切れでいい。見たこともない魔導文字のようだからな。それで契約成立だ」


 ゼノは決して「助けてやる」とは言わなかった。あくまで、運び屋としての業務だ。

 少女は一瞬きょとんとしたが、すぐに満面の笑みを咲かせた。


「やったぁ! 話がわかる! さすがシルバー君!」


「シルバーと呼ぶな。それから、俺のことは名前で呼ぶな。教える気もない」


「えー、じゃあ……銀狐ぎんこちゃん?」


「殺すぞ」


「じゃあ……コン様!」


「…………」


 ゼノは返事をするのをやめた。返せば返すほど、自分の尊厳が磨り減っていくのを感じたからだ。

 宿へ向かう道中、少女――陽葵の「能天気」は止まらなかった。

 蒸気で動く自動券売機を見ては「うおぉ! レトロフューチャー!」と叫び、通行人の獣人の尻尾に触ろうとしてはゼノに襟首を掴まれて引き戻される。


「シルバー君、シルバー君! あの空飛ぶお船、乗れるの?」


「……金があればな。お前は一銭も持っていないだろうが」


「あ、この光る板ならありますよ! ほら、これでお兄さんのこと撮っていい?」


「何だ、その魔法具は……まぶしい! やめろ!」


 夜の帳が下りる頃、ゼノはようやく安宿の一室に陽葵を押し込んだ。

 自分は床に座り、魔導短剣の手入れを始める。陽葵はベッドの上で、まるでどこかへ遊びに来たかのように足をバタつかせていた。


「ねえ、シルバー君。私、これからどうなるのかな」


「知らん。施設に預ければ、あとは国が何とかする。お前みたいな異界人は、研究対象か、良くて貴族のペットだ」


「ペットかぁ……。美味しいもの食べさせてくれるかな? あ、でも、シルバー君の方がいいな。怒ると耳がピクピクして可愛いし」


 ゼノの手が止まる。

 彼は、窓ガラスに映る自分の耳を意識した。確かに、不愉快な時ほど耳の制御が効かなくなる。

 彼は深く、深くため息をついた。


「……ゼノだ」


「え?」


「俺の名前だ。シルバーだのコン様だの、同業者に聞こえたら俺の商売に関わる」


 陽葵は、一瞬だけ目を見開いた。そして、今までで一番柔らかい笑顔を浮かべた。


「ゼノ君。……うん、いい名前! 改めてよろしくね、ゼノ君! 私は陽葵、ひまりって呼んで!」


「……寝ろ。明日は早いぞ、陽葵」


 ゼノは背を向け、銀色の尻尾を丸めた。

 心臓の鼓動が、いつもより少しだけ速い。それはきっと、この厄介な「荷物」を無事に届けられるかという、運び屋としての不安に違いない。

 そう自分に言い聞かせながら、ゼノは浅い眠りに落ちていった。




 翌朝、ゼノは自分の尻尾にかかる奇妙な重みで目を覚ました。

 薄暗い安宿の部屋、窓の外からは飛空艇の始動音が地響きのように伝わってくる。視線を落とせば、床で丸まっていたはずの自分の尻尾を、ベッドから転げ落ちた陽葵が抱き枕代わりに抱え込んでいた。


「……おい。離せと言っただろうが」


 ゼノの声は、朝特有の掠れた唸りとなって漏れた。だが、陽葵は「むにゃ……ふかふか最高……」と寝言を吐き、あろうことか銀色の毛並みに顔を埋めて擦り寄せている。

 ゼノの耳が激しく痙攣した。獣人にとって尻尾は急所であり、親愛の証でもある。それをこれほど無遠慮に扱われて、平穏でいられるはずがない。

 彼は荒っぽく尻尾を引き抜き、陽葵の額を指先で弾いた。


「痛っ!? な、なに、目覚まし時計の反抗期?」


「起きろ、世間知らず。日はとうに魔導蒸気の雲に隠れているぞ。出発だ」


 陽葵は目をこすりながら起き上がると、寝癖のついた髪を雑に振り乱し、「おはよ、ゼノ君!」と満面の笑みを向けた。朝からその出力の高さに、ゼノは胃のあたりに微かな鈍痛を覚える。


 二人は宿を出て、隣町行きの魔導列車が発着する中央停車場へと向かった。

 街の空気は昨日よりも重い。配管から漏れ出す蒸気の量が増え、視界を白く染め上げている。ゼノは陽葵の腕を掴み、自分の背後に隠すようにして歩いた。

「あ、見てゼノ君! あの看板、歯車が回って文字が変わってる! かっこいい!」


「いちいち立ち止まるな。お前、自分がどれだけ目立っているか自覚しろ。その格好は、この街じゃ『私を攫ってください』と言っているようなものだ」


「えー、でもみんなオシャレだよね。あの人なんて、頭に煙突ついてるよ?」


「あれは蒸気式の補聴器だ。……いいから前を見ろ」


 ゼノは毒づきながらも、陽葵の歩幅に合わせて歩速を緩めていた。

 停車場に到着すると、そこには巨大な鉄の蛇のような列車が、シュンシュンと蒸気を吐き出しながら鎮座していた。チケットを買う間、ゼノは陽葵を柱の陰に立たせる。


「ここで待っていろ。いいか、誰に話しかけられても『私は石ころです』という顔をして黙っていろ。わかったな?」


「はーい! 石ころ陽葵、了解です!」


 陽葵は元気に返事をして、柱にピタリと張り付いた。

 その姿に一抹の不安を覚えつつも、ゼノは窓口へと向かう。しかし、運が悪いことに、窓口は飛空艇の遅延に伴う列車の振替客で溢れかえっていた。


(……早めに済ませるはずが。チッ、面倒くせえ)


 ゼノは周囲に視線を走らせながら、最短の手順でチケットを確保しようと神経を研ぎ澄ませた。

 だが、その数分の隙を、アイゼンガルドのチンピラが見逃すはずもなかった。


「お嬢ちゃん、一人か? 珍しい格好してるな。どこの国の出身だ?」

 ゼノがチケットを掴んで振り返った時、陽葵の周りには、既にガラの悪いトカゲ獣人の男たちが二人、にやけ面で立っていた。

 ゼノの心臓が嫌な音を立てる。


(……あの馬鹿、言ったそばから!)


 急いで駆け寄ろうとしたゼノだったが、陽葵の口から出た言葉に、その足が凍りついた。


「あ、こんにちは! 私、石ころなんです。今、光合成中なので話しかけないでもらえますか?」


「……は? 石?」


「そうです。石なので、お返事もできません。あ、今喋っちゃった。ノーカンでお願いしますね!」


 トカゲ獣人たちは顔を見合わせた。明らかに「頭の弱い獲物」だと判断したのだろう。一人が陽葵の肩に手を回そうとする。


「へぇ、面白い石だな。俺たちの隠れ家にはもっといい光が当たる場所があるぜ。連れてってやろうか?」


「本当ですか!? でも残念、私、もう専属の庭師さんがいるんですよ。ほら、あそこに立ってる、耳がピクピクしてて顔が怖い銀狐さん!」


 陽葵が指差した先で、ゼノは無表情のまま、手に持っていたチケットを握りつぶしそうになっていた。

 トカゲ獣人たちの視線がゼノに突き刺さる。ゼノは深くため息をつくと、低い足音を響かせて歩み寄った。


「……その手を離せ。それは俺の『荷物』だ」


「あ? 運び屋かよ。なら、そいつを俺たちに譲れ。手間賃は弾いてやるぜ」


「断る。こいつは不良品だ。口うるさくて能天気で、少し目を離すと石に化ける。お前たちの手に負える代物じゃない」


 ゼノは陽葵の首根っこをひっつかみ、自分の隣へ引き寄せた。トカゲ獣人が舌打ちをして、懐のナイフに手をかける。


「……やんのか、狐」


「場所を考えろ。憲兵に突き出されたくなければ、さっさと失せろ」


 ゼノの瞳が、黄金色に鋭く光る。一瞬の睨み合い。

 獣としての格の違いを感じ取ったのか、トカゲたちは「……ケッ、しけた野郎だぜ」と捨て台詞を吐いて人混みの中へ消えていった。


「ふぅ……。助かったよ、ゼノ君! さすが私の専属庭師!」


「誰が庭師だ、この馬鹿! 石なら石らしく黙っていろと言っただろうが!」


「だって、寂しかったんだもん」


 陽葵は平然として、ゼノの腕にギュッとしがみついた。

 ゼノはその感触に一瞬言葉を失った。寂しい? たった数分、視界から外れただけで?

 常識的に考えれば、ただの甘えだ。だが、この異世界にたった一人で放り出された彼女にとって、自分だけが唯一の「知っている存在」なのだという事実が、重く、そして奇妙な熱を持ってゼノにのしかかる。


「……行くぞ。列車が出る」


「うん!」


 魔導列車の客室は、狭い木製の椅子と、蒸気暖房の熱気で満たされていた。

 陽葵は窓の外を流れる、歯車仕掛けのクレーンが動く港湾地区の景色に夢中だ。ゼノは彼女の隣に座り、周囲の乗客を警戒しながら、昨日手に入れた陽葵の上着の「タグ」を眺めた。

 見たこともない繊細な織り。そしてそこに記された、奇妙な幾何学模様のような文字。


(この素材、この技術……こいつの世界は、どれほど進んでいるんだ?)


 ふと横を見ると、陽葵がガクガクと船を漕いでいた。朝早かったせいだろう。

 やがて、彼女の頭がゼノの肩にカクンと乗った。

 ゼノは反射的に肩を引こうとしたが、彼女の穏やかな寝息を聞いて、動きを止めた。


(……面倒くせえ。本当に、面倒くせえ荷物だ)


 彼は自分に言い聞かせる。これはただの運送業務だ。目的地に着けば、おさらばだ。

 だが、窓から差し込む斜光を浴びる陽葵の横顔を見て、ゼノの耳は、彼自身の意志に反して、柔らかく後ろへ伏せられた。

 ん

 目的地である隣町――保護施設のある「聖シュタイン」までは、まだ数時間の道のりがある。

 その間に、自分がどれほどこの「能天気」に絆されていくのか。ゼノはまだ、その胃の痛みの正体に気づかない振りをしていた。





 魔導列車は、シュンシュンと規則正しい蒸気の排気音を響かせながら、深い渓谷に架かる鉄橋を渡っていた。

 窓の外には、巨大な水車が何十個も連結され、川の激流を魔導蒸気の回転エネルギーに変えている壮観な景色が広がっている。だが、陽葵はそれを見ることなく、ゼノの肩に頭を預けたまま、穏やかな寝息を立てていた。

 ゼノは、石像のように固まっていた。

 肩に伝わる体温。時折、列車の揺れに合わせて銀色の毛並みに触れる、彼女の柔らかい髪。


(……おい、起きろ。……重いぞ。……おい)


 心の中で何度も毒づくが、実際に声に出すことはなかった。もし起こしてしまえば、また「ゼノ君、見て見て!」という嵐のようなマシンガントークが再開される。それなら、こうして静かに寝かせておく方が、運び屋としての精神衛生上、よほどマシだ。


 そう自分に言い聞かせながら、ゼノは周囲の乗客に鋭い視線を走らせる。

 この車両には、煤けた作業着を着た鉱山労働者や、いかがわしいトランクを抱えた行商人、そして――。


(……三列後ろ。さっきから、こっちを伺っているな)


 ゼノの耳が、微かに後ろを向く。

 新聞を広げているが、その視線は一度も紙面を追っていない。鳥の獣人だろうか、鋭い嘴を隠すように襟を立てた男。その指先が、座席の陰でピクリと動く。

 それは、合図だ。


 ゼノの喉の奥から、低く、誰にも聞こえない程度の唸りが漏れた。

 標的は自分ではない。隣で無防備にヨダレを垂らしそうになっている、この「異界の稀少種」だ。

 アイゼンガルドにおいて、生身の魔力を持つ存在は、動力源としての価値だけでなく、魔導回路を安定させる「触媒」として高値で取引される。


 ゼノは、陽葵の頭を傷つけないように、そっと自分の反対側――ガントレットを装着していない方の腕で、彼女の細い肩を引き寄せた。


「……んぅ……ゼノ、くん……?」


 微かに目を覚ましかけた陽葵に、ゼノは耳元で低く囁く。


「……寝ていろ。目を開けるな。いいか、次に俺が『走れ』と言ったら、何も聞かずに前の車両へ駆け込め。わかったな」


「え……? うん……。ゼノ君、なんか、声がかっこいい……」


「黙れ。寝ていろと言っただろう」


 陽葵は、ゼノの言葉の裏にある緊張感に気づいているのかいないのか、「はーい」と力のない返事をして、再び彼の胸元に顔を埋めた。

 その直後。

 プシュウゥゥッ!

 車両の連結部から、異常な量の蒸気が噴き出した。

 視界が真っ白に染まる。悲鳴が上がる。

 ゼノは迷わなかった。

「走れ!」

 陽葵の背中を押し、自分は座席から飛び出した。

 白煙の中から、鋭い鉤爪がゼノの喉元を狙って突き出される。ゼノは瞬時に腰の短剣を抜き放ち、金属音と共にその爪を斜め下方へ弾き飛ばした。

 敵の攻撃を受け止めず、その威力を利用して軌道を逸らす。

 火花が散る。


「運び屋! そいつを渡せば、お前の命は助けてやる!」


「あいにくだが、俺は預かった荷物を途中で投げ出すような、三流の仕事はしない主義だ!」


 ゼノはガントレットの排気弁を全開にした。


 シュゴオォォッ! という轟音と共に、圧縮蒸気が彼の拳に爆発的な推進力を与える。

 襲いかかってきた鳥獣人の胸部へ、重い一撃を叩き込む。衝撃波が白煙を吹き飛ばし、男は車両の壁を突き破らんばかりの勢いで吹き飛んだ。


「陽葵! 止まるな、行け!」


 前の車両へと逃げ込んだ陽葵を追い、ゼノも連結部を飛び越える。

 だが、そこにはさらなる待ち伏せがいた。

 大型の熊獣人が、通路を塞ぐように立ちはだかっている。その手には、巨大な魔導粉砕槌メイス


「逃がさねえぞ、小僧」


「……チッ、団体さんかよ。面倒くせえな、本当に!」


 ゼノは陽葵を自分の背後に庇い、短剣を逆手に持ち替えた。

 狭い車内での戦闘。下手に魔導蒸気を暴走させれば、列車ごと脱線しかねない。

 ゼノは計算した。最短で、かつ最も確実にこの巨体を無力化する方法を。


「陽葵、耳を塞げ!」


「えっ!? あ、うん!」


 ゼノが腰のベルトから、小さな円筒を取り出し、床に叩きつける。

 キィィィィィィィン!!

 高周波の排気音が車内に充満した。獣人特有の鋭い聴覚を逆手に取った、聴覚麻痺弾だ。

 熊獣人が悶絶し、槌を落とす。その隙を逃さず、ゼノは男の懐に飛び込み、膝裏と首筋の急所に、蒸気加速を乗せた打撃を正確に叩き込んだ。

 巨体が崩れ落ちる。

 ゼノは荒い息を吐きながら、陽葵の手を強く握った。


「ゼ、ゼノ君……! 大丈夫!?」


「……質問している暇はない。次の駅で降りるぞ。ここはもう安全じゃない」


 列車が急ブレーキをかけ、金属の擦れる悲鳴が上がった。

 停車場でもない、荒野のど真ん中。ゼノは陽葵を抱え、非常用のレバーを引いて車外へと飛び出した。

 乾いた風が吹く、岩だらけの荒野。

 遠くで列車の蒸気が消えていくのを見送りながら、ゼノは膝をついた。ガントレットの使いすぎで、腕が熱を持っている。

 すると、陽葵が慌てて駆け寄ってきた。


「ゼノ君! 腕が! !痛い!? どうしよう、冷やさなきゃ……!」


「……気にするな。運び屋の日常茶飯事だ」


「日常なわけないでしょ! 私のために、こんな……」


 陽葵の瞳に、初めて涙が浮かんでいた。

 いつもの能天気な笑顔は消え、そこには申し訳なさと、恐怖で震える一人の少女がいた。


 ゼノは、思わず自分の耳を伏せた。

 彼は、彼女のこういう顔が見たくて助けたわけではない。


「……おい。泣くな。お前は、『なんとかなる』って笑ってるのが仕事だろうが」


「そんな仕事ないよぉ……。ごめんね、私がいなきゃ、ゼノ君はこんな目に合わずに済んだのに」


 ゼノは、深いため息をついた。

 そして、自分でも驚くほど穏やかな手つきで、陽葵の頭に手を置いた。

 ふわりとした髪の感触。


「……勘違いするな。俺がこの仕事を引き受けたのは、お前の服の『未知の刺繍』が欲しかったからだ。……それに、お前みたいな世間知らずを一人にしたら、俺の品性が疑われる」


「ゼノ君……」


「……目的地は変えない。だが、保護施設はやめだ。あそこには、今の刺客たちの仲間が潜んでいる可能性がある」


 ゼノは立ち上がり、陽葵の涙を乱暴に指で拭った。


「俺の隠れ家に来い。そこで、お前の世界に帰る方法をじっくり探す。……いいか、これは『追加料金』が発生するからな。覚悟しておけ」


 陽葵は、一瞬呆然とした後、パァァッ、と花が咲くような笑顔に戻った。


「追加料金? 私のスマホ、もう一台あるけど、それでいい?」


「……いらんと言っただろう。……行くぞ、歩け。この迷子」




 ゼノは、彼女の手を離さなかった。

 いや、正確には、離せなくなった。


 この日から、ゼノの「過保護」は加速していった。


アイゼンガルドの北端、打ち捨てられた古い蒸気シリンダー工場の奥深く。そこがゼノの隠れ家であり、二人の奇妙な共同生活の舞台となった。壁一面に張り巡らされた真鍮の配管は、時折「ヒュウッ」と幽霊の口笛のような排気音を漏らし、巨大な歯車の影が床に複雑な幾何学模様を描き出している。

 その鉄臭い空間で、ゼノの「過保護」は、もはや病的と言える域に達していた。


「……おい。その刃物に触れるなと言っただろうが」


 鋭い声と共に、銀色の毛並みが陽葵の視界を遮った。陽葵が、夕飯の支度を手伝おうと錆びの浮いた果物ナイフを手に取った瞬間のことだ。ゼノは音もなく背後に立ち、その細い手首を優しく、しかし有無を言わせぬ力強さで掴み取った。


「えー、でもゼノ君。私だってこれくらいできるよ? 日本じゃ家庭科の授業もあったし」


「『にほん』の家庭科とやらは、魔導蒸気で研磨された特殊鋼の切れ味を想定しているのか? お前のようなふやけた指先なら、触れた瞬間に骨まで達する。……どけ。お前はそこに座って、大人しく豆が煮えるのを数えていろ」


 ゼノは陽葵からナイフを強引に取り上げると、慣れた手つきで食材を切り刻み始めた。彼の視線はまな板に固定されているが、その四つの耳のうち二つは、背後にいる陽葵の微かな衣擦れの音や呼吸を常に追いかけている。

 陽葵が少しでも椅子から立ち上がろうとすれば、ゼノのふさふさとした銀色の尻尾が、まるで意思を持つ蛇のように伸びて、彼女の進路を「通せんぼ」するのだ。


「ちょっと、ゼノ君! 尻尾が邪魔で冷蔵庫(のような魔導冷箱)に行けないんだけど!」


「中には高圧の冷却蒸気が溜まっている。開け方を一歩間違えれば、お前のその能天気な顔は一瞬で氷像だ。……何が欲しい。俺が出す」


「……オレンジジュース」


「糖分の取りすぎだ。白湯にしろ」


 陽葵は頬を膨らませ、ソファに深く沈み込んだ。


「ゼノ君……最近、お父さんを通り越して、おじいちゃんみたいだよ? 心配しすぎだってば」


「誰がじじいだ! ……俺は運び屋だ。荷物の品質管理を徹底しているだけだ」


 怒鳴り散らしながらも、ゼノの手元では、陽葵のために用意された「特製の豆料理」が湯気を立てていた。この世界の主食は、油を多用した重い肉料理か、味の薄い硬いパンが主流だ。しかしゼノは、陽葵が「甘いものが食べたい」と漏らしたのを忘れていなかった。

 彼は貴重な魔導蒸気の熱量を贅沢に使い、市場で仕入れた数種類の豆を、彼女の世界の「あんこ」に近い粘度と甘さになるまで、何時間もかけて煮込んでいた。隠れ家の隅にある配管からは、鉄の匂いに混じって、どこか懐かしく甘い香りが漂っていた。


 しかし、陽葵が寝静まった後、ゼノの顔から「頑固な保護者」の仮面は剥がれ落ちる。

 彼は隠れ家の地下、オイルの匂いが染み付いた書斎に籠もり、運び屋の裏ネットワークを通じてかき集めた古い地図や文献の山と格闘していた。


 彼の目的は、陽葵を元の世界へ帰すこと。それだけだ。


 だが、調べれば調べるほど、その「扉」へ至る道のりの険しさが浮き彫りになる。異界への境界線は、アイゼンガルドの最果て、荒れ狂う「蒸気の渦」の直中にあるという。そこは、熟練の運び屋ですら命を落とす禁足地だった。


(……この世間知らずを、あんな場所に連れて行けるのか?)


 ゼノは自分の腕に装着されたガントレットを見つめた。陽葵を守るために酷使し続けた機械の腕は、微かな金属疲労の悲鳴を上げている。

 彼女を帰したくないわけではない。だが、彼女を失うことの恐怖が、鋭いナイフのようにゼノの心臓を削り取っていく。


 ある夜、彼はついに、闇市場の奥底から流出した「真鍮の航路図」を手に入れた。

 それは、失われた古代の飛空艇が記したと言われる、世界の裂け目への唯一の導き手だった。


 翌朝。ゼノは、昨夜の徹夜を感じさせない無表情を装い、朝食を食べている陽葵の前にその航路図を放り出した。真鍮の板が、卓上で鈍い音を立てる。


「陽葵。これを見ろ」


「わぁ、かっこいい……アンティークのパズル?」


「違う。……伝説にある『蒸気の最果て』の地図だ」


 ゼノが航路図の側面に魔力を流すと、真鍮の表面に刻まれた微細な歯車が回り出し、青白い光が空中に立体的な航路を映し出した。その光の粒子が、陽葵の傍らに置かれた「スマホ」の画面と共鳴し、奇妙なノイズを響かせる。


「お前の魔法具スマホが反応した魔力波長と、この地図が示す座標が完全に一致した。……帰還の扉へ続く、唯一の道だ」


 手がかりは見つかった。

 陽葵がこの世界から消え、ゼノが再び孤独な「運び屋」に戻るまでのカウントダウンが始まったのだ。

 ゼノは、自分の胸の奥で、カチリと何かが壊れるような音がしたのを感じた。それは、まるで噛み合わせの悪い歯車が無理やり回され、火花を散らしながら砕け散るような痛みだった。


 彼はその痛みを押し殺すように、わざと冷たく、突き放すような口調で言った。


「……おめでたいことだな。これで、俺もお前の世話から解放されるというわけだ。……だが喜ぶのは早いぞ。この先は、前までのゴロツキ共とは比較にならないほど危険だ」


 ゼノは陽葵の顔を見ることができず、窓の外、蒸気の雲に覆われた空を睨みつけた。

 本当は、その地図を今すぐ握り潰してしまいたかった。

 本当は、「どこへも行くな」と、彼女の細い肩を抱きしめてしまいたかった。

 だが、彼のプライドと、彼女の幸せを願う歪な愛情が、それを許さなかった。


「……目的地まで運ぶ。それが運び屋の契約だ」


 背中越しに聞こえる陽葵の息を飲む気配。ゼノは、自分の銀色の耳が、弱々しく後ろへ伏せられていくのを止めることができなかった。


航路図を提示し、突き放すような言葉を吐いたその夜。隠れ家の空気は、かつてないほど重く沈んでいた。

 陽葵は珍しく黙り込み、ソファの隅で膝を抱えていた。ゼノは、そんな彼女の視線から逃げるように、ガントレットの整備に没頭する。オイルの匂いと、金属を研磨する嫌な音が、二人の間の沈黙を埋めていた。


(……これでいいんだ。俺は運び屋だ。荷物を届けて、報酬を受け取る。それだけの関係だ)


 自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、ゼノの胸を焼く焦燥感は強まっていく。

 だが、その沈黙を破ったのは、陽葵の言葉でも、ゼノの溜息でもなかった。


 ――ガギィィィン!!


 隠れ家の天井、強化ガラスの天窓を突き破り、黒い影が数体、音もなく舞い降りた。


「陽葵、伏せろ!」


 ゼノは整備中だったガントレットを咄嗟に右腕へ叩き込み、陽葵をソファごと庇うように前に出た。


 現れたのは、これまでのゴロツキとは一線を画す、武装集団だった。アイゼンガルドの影で暗躍する「魔導猟犬マナ・ハウンド」。彼らは会話を一切排し、蒸気圧で超高速射出される鋼鉄のワイヤーネットを一斉に放った。


「ゼノ君!」


「黙ってろ! 俺の影から出るな!」


 ゼノは短剣を抜く間もなく、ガントレットの排気弁を無理やり抉じ開けた。シュゴオォォッ! と、整備不良のままの機械が悲鳴を上げ、高熱の蒸気がゼノの右腕を焼く。だが、彼はその激痛を無視し、迫り来るネットを素手で掴み、力任せに引きちぎった。


 敵の狙いは、陽葵の「生身の魔力」だ。一人が隙を突き、陽葵の背後から麻酔針を仕込んだ銃口を向ける。


「させねえよ……!」


 ゼノは跳んだ。身体能力を限界まで引き出す魔導蒸気の加速が、彼の背筋を裂くような衝撃を与える。


 ドシュッ。

 鈍い音が響き、ゼノの肩に、陽葵を狙っていた針が深く突き刺さった。


「ゼノ君! 血が……!」


「かすり傷だ。それより、あっちの配管の陰に隠れてろ。早く行け!」


 ゼノは毒に侵され始めた腕を振るい、襲い来る猟犬たちを次々と壁へ叩き伏せていく。彼の戦い方は、もはや「運び屋」の洗練されたそれではない。傷つくことを厭わず、ただ一点――背後の少女に一指も触れさせないための、狂気じみた「盾」としての戦いだった。


 最後の一人を工場の重い歯車に叩き込み、ようやく静寂が戻った時、ゼノの全身はオイルと返り血、そして自分自身の高熱化した蒸気による火傷でボロボロだった。


「ゼノ君……! ゼノ君、しっかりして!」


 駆け寄る陽葵の手を、ゼノは弱々しく、だが冷たく払いのけた。


「……触るな。汚れる」


「そんなのどうでもいい! 腕が、こんなに熱くなって……死んじゃうよ!」


「死なない。……俺は、お前を目的地まで……『契約』の場所まで運ぶ義務がある。だから、こんなところで、立ち止まるわけには……」


 毒の回りが早い。ゼノの視界が歪み、立っていられずにその場に崩れ落ちた。

 陽葵は、震える手でゼノの銀色の耳に触れた。熱い。火を吹くほどに熱い耳。


「もういいよ、ゼノ君。もう、私を運ばなくていい。契約なんて、もう……」


「……ふざけるな」


 ゼノは、意識が朦朧とする中で、陽葵の服の裾を強く握りしめた。


「お前は……この世界にいてはいけない存在だ。こんな……鉄と油と、暴力しかない場所に、お前を置いておけるか。お前は……綺麗な場所で、笑っていなきゃいけないんだ……」


 それが、ゼノの隠し続けてきた本音だった。

 帰したくない。離したくない。だが、この残酷な世界に、自分のような獣の隣に、彼女を留めておくことは、彼にとって最大の「契約違反」に等しかった。


 陽葵は、涙を拭った。

 彼女は、ゼノのボロボロになった腕を、自分のパーカーの袖を破って巻き、応急処置を始めた。


「わかったよ。ゼノ君の言いたいこと、全部わかった」


 陽葵の声には、いつもの能天気さとは違う、静かな決意が宿っていた。


「でも、ゼノ君。私をあっちの世界に帰すまでが『契約』なら、その間はずっと、私の隣にいてくれるよね?」


「……当たり前だ。お前みたいな迷子、俺がいなきゃ一分で消えてなくなる……」


 数時間後。

 ゼノは、陽葵が懸命に冷やしてくれた濡れタオルの冷たさで目を覚ました。

 工場の隅で、陽葵が慣れない手つきで、ゼノがいつも作ってくれる「甘い豆」を煮直していた。


「……焦げ臭いぞ」


「あ、起きた!? もう、心配させないでよ! ほら、味見して。お父さん、じゃなくてゼノ君」


 差し出された匙を受け取り、ゼノは眉を顰めながらそれを口にした。

 ひどく不恰好な味だった。甘すぎて、それでいてどこか煤の匂いがする。

 だが、その不恰好な味が、ゼノの凍りついた心の芯を、ゆっくりと溶かしていった。


 彼は航路図を見つめ、それから陽葵の背中を見た。

 本当は、すぐにでも旅立つべきだ。追っ手が来る前に、この危険な街を出るべきだ。

 だが、彼は気づいてしまった。自分は今、この鉄臭い場所で、焦げた豆を食べているだけのこの「日常」を、命よりも惜しいと思っていることに。



「……陽葵。元の世界へ帰る方法だが、少し時間がかかるかもしれない。それまでは、……俺のそばにいろ。いいか、これは契約の延長だ。お前のその……『スマホ』の中にある、お前たちの世界の音楽とやらを聞かせろ。それが報酬だ」


「やったぁ! 延長契約成立だね! じゃあ、今日は最高のラブソングを教えてあげる!」


「……うるさい。それはいいから、まずは飯だ」




 銀色の狐は、文句を言いながらも、陽葵の肩を抱いて歩き出した。その尻尾は、彼女にだけ見えるように、ゆったりと優しく揺れている。


 銀色の狐と、能天気な女子高生。

 二人の旅路は、目的地を「帰郷」から「日常」へと、少しずつ形を変えながら、蒸気の霧の向こう側へと続いていく。

 ゼノの胃の痛みは相変わらずだったが、その痛みすらも、今では心地よい絆の証となっていた。

過保護な狐さんとポジティブJKが好きです。

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