"An Eternal Beginning !!!"
千年ぶりに大地を歩く
衰え尽くした足がふらつく
言葉にするとまったく陳腐でしかないが、とても永い時間だった
『彼』は確実に契約を守る
僕だけでなく、病に冒され死を待つだけだった僕の恋人───僕の唯一愛した人間の少年も、永遠の生を手に入れて居る
事ここに至って、僕には既に天使の名誉など惜しくは無かった
『契約は悪辣だが、履行出来なかった場合は自らが苦しみながら息絶える』という悪魔の不文律に照らし合わせるに、僕たちが不死になった事は疑いの余地も無かった
いずれにしても僕は契約通り、千年の間、炎で全身を燃やされ続けた
皮肉にも、責め苦の中で狂わずに済んだのは『彼』が居たからだった
彼は僕の躰を悦んで燃やし苛んだが、反面、必ず僕に定期的に話し掛ける事を忘れなかった
生きたまま燃やされる痛みは、痛覚の総てを刃物で削られ続けるような烈しいものだったが、気が狂いそうな苦痛の嵐に絶えず覆い尽くされながらも、僕の意識は確かに囁く声を、自分に向けられた『認識』を、そして言語そのものを断続的に知覚し続けた
千年のうち幾度か精神が砕けたが、そのたびに僕は『言葉』という知性の命綱を辿って、狂気から帰還する事が出来た
今となっては、どんな囁きだったのかなど覚えて居ない
いずれにしても悪魔の行いだ
『彼』は、灼かれる僕を嘲って居たのだろう
屋敷が視えてくる
意外な事だが、僕たちの住処は木々や蔦に覆われながらも、千年前と同じ場所に存在して居た
朽ちた扉を開き、屋敷へ入る
広間は昏いが、おびただしく割れた屋根から、木漏れ日のように陽差しが照らして居た
少し歩くと、表紙まで含め、あらゆる面に隙間無く文字が書かれた帳面が落ちて居た
拾い上げて、読む
視れば、総ての頁にびっしりと「いたい」「どうして」と震える文字で書かれて居る
筆跡が恋人のものである事に気付き、床を踏む両の足から、力が抜けていくのが感覚として解った
不穏な呻き声と共に、奥の部屋の扉が開く
そして、皮膚という皮膚が斑点に覆われた人型が這い出てきた
『斑点が浮かぶ』という症状から考えて、これが何者なのかは確実だった
しかし、僕の心はその理解を拒んだ
人型に───散々躊躇したのち、僕は声を掛けた
恋人の名前で呼び掛け、反応を待つ
名前を聞いた瞬間に……或いは、僕の声を聞いた刹那に人型は激昂し、僕に掴みかかろうとした
しかし動く事すらままならないのか、躰を少し跳ねさせたあと直ぐに床に叩き付けられて悲鳴を上げ、芋虫のように悶え始めた
「不死にはなったけど」
「病気は治らなかったみたい」
この千年で最も聞き慣れた唯一の、声
それを感じ振り返ると、そこには『彼』が立って居た
「『君のせいでこうなった』って、教えてあげたよ」
悪魔が歯を剥いて嗤う
「事実だからね」
自分の膝が床に衝突する感覚
そして、肩に『彼』の手が置かれたのが解った
「こんなのより」
「もう、僕にしなよ」
耳の直ぐ横で、甘い声が聴こえた




