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第2話 お姫様のお店


 ずぶ濡れでマンションへ帰宅。


 即シャワーを浴びて、一人暮らしをするには広すぎる部屋を徘徊。


「ふう~。サッパリした」


 タオルで髪を拭きながら、雑誌や脱ぎっぱなしの服で溢れた部屋の中を歩く。


 そろそろ掃除しないといけないと思うけど、なかなか手を付ける気にはなれないな。


 ゴミに関しては眠くても何とか捨ててるからいいけど、やっぱりこの部屋のありさまは人様に見せられそうもない。


「……面倒なことは明日考えよう」


 数秒思案したのち、髪を拭いていたタオルを投げ捨て自分の寝室へ。


 ベッド脇にはグレーのヘルメットみたいなものが置かれていて、それこそが仮想世界へ行くためのハード『ダイブギア』だ。


 今日も徹夜であの世界――USOの世界へと赴く。


 まあ明日は休みだし、今日に限っては徹夜しても問題ないはずだ。


「ハッークション‼」


 ……たぶん?


   ***


 ダイブギアを頭に被り、自分で決めた合言葉を引き金にダイブを開始する。


『アイ アム カムバック』


 かなり怪しい発音ながらも、そう呟き瞬時に意識が仮想世界へ飛ばされた。


 一瞬見えたのは白くて太いパイプの中みたいな道。そこを勢いよく突き進み、数秒とかからず目的地へ。


 視界一杯に広がったのは、ゲーム選択画面。俺のダイブギアには、USO以外にも昔遊んでいた様々なゲームが保存されている。その中から瞬時に『ユニーク・スキル・オンライン』を選び取り直後、意識だけだった俺に体が――アバターが与えられる。


 ここ数ヶ月で使い慣れたアバターのプレイヤーネームは『ハク』。顔つきや体型はリアルの俺の写真を参考に、髪や瞳の色を変えただけ。


 白い髪に赤い瞳。上下に黒い服を着て、背中には一本の黒い剣。リアルの俺が黒髪黒目の普通の少年なのを考えると、だいぶ印象が変わってくる。


 でも現実とのギャップが強いのは間違いなく、恋咲――ヒメの方だと思うけど。


『転移場所を選択してください』


 耳に届く女性と思われるシステムの声。指示に従い俺は――


「第一層の宿舎」


『承りました』


 了承する声が聞こえたと思った瞬間、俺のアバターは白い光に包まれ、気づいたら木造建築と思われる建物の室内にいた。


 部屋には寝心地が良さそうなベッドと、簡易の木造テーブル。窓からはある程度の日が差し込んでいて。これで一ヶ月の貸し出し料が5000は安すぎる。まあ俺もヒメみたいにプレイヤーホームを持てば、宿泊料は実質タダになるんだけど。


「生産系のスキルはほぼ育ててないからな。宝の持ち腐れにしかならないか」


 メニュー画面を表示して、ここ数ヶ月一緒にこの世界を冒険する相棒の所在を確認する。どうやらあちらも、もうログインしているみたいだな。フレンド項目にある名前の横で、赤いランプが光っていた。


「どうやらホームにいるらしいな」


 このUSOの世界において、俺もヒメも『剣士』として名が売れている。


 ただしヒメの方に関しては――


「冒険前のケーキ作りっていうところか」


   ***


 USOには様々な生産職がいる。鍛冶師や服飾職人、料理人。その他にも色々なタイプの生産職が。


 そしてヒメは今現在、この世界唯一の――


「いらっしゃいニャ‼ 本日は『ケーキショップ・プリンセス』へお越しいただき――ニャンだ、ハクニャンだったかニャ……。今日もヒメニャンと冒険かニャ? でも残念ながら、ヒメニャンはまだ補充分のケーキを作り中ニャ。大人しくそこで待ってるニャ‼」


 かなりハイテンションな茶髪の猫耳少女が事情を説明してくれる。


 何度見ても信じられないよな、この人がUSOで自動生成されたNPCなんて。


 生産職プレイヤーが運営する店には、こんな感じのNPCが一人~数人いる。さらに全員、顔も性格もバラバラで、まるで人間と接しているように感情豊か――


「ところでハクニャン。ヒメニャンとニャにがあったニャン? ミャーの知らないところでイチャコラ展開でも……」


 本当に感情豊かだ。でもなんでこんな性格?


 店のカウンター越しに、白いエプロンを腰に巻いたケットシーが肘で俺を突いてきた。


 これで名前が『ミャーさん』とか、名付けたヒメのセンスを色々な意味で疑いたくなる。


「そんな展開ありませんよ。それよりもお客さんですよ」

「ふニャ? でも今はハクニャンしかお店の中には――」


「すみません‼ 今日の限定ケーキってまだ残ってますか‼」


 カランコロンというウェルカムベルの音と一緒に、店内に中学生ぐらいの女の子の声が響く。


「相変わらずすごい感知スキルニャ」

「それはどうも。それよりもミャーさん、仕事仕事。サボってるとヒメに怒られますよ」

「一日24時間勤務は辛いところニャ」


 24時間勤務と言いつつ、実際はちょくちょくサボっていることを俺は知っている。


 店にお客がいない時は、店先で日向ぼっこ。買出しに行けば、寄り道して街の広場で芸を披露するプレイヤーたちを観覧。他にもエトセトラ。


 まあミャーさんを監視するようにヒメから脅され――頼まれて調べたけど、事実を報告しても黙認してるってことは、それをミャーさんの息抜きとして認めているんだろう。


 休ませてあげたいなら、自分から休憩時間とかあげればいいのに。そういうところが不器用すぎる。


「じゃあ俺、ちょっと本人に会ってくるから」

「ニャるほど。個室で二人仲良く……安心するニャ。ミャーは大人、機微のわかる女ニャ‼」

「……絶対に何か誤解してるだろ?」


 ミャーさんに開けてもらいカウンターの中へ、そして後ろのドアをくぐり厨房へ。


 その間、店の方からは――


『今のって“二刀流のハク”さんですよね‼』

『お客さんはお目が高いニャ‼ その通りだニャ‼』

『やっぱり、ハクさんとヒメお姉様は恋人同士なんですか‼』

『ぐふふ。ミャーの勘によれば、二人はもう秒読み間近ニャ』


 なるほど、こうして俺とヒメの変な噂が広まってたんだな。今度、個人的に説教――


「本当にあの子は接客以外ダメですね。厨房には誰も入れないよう言ってあるのに……」


 ドアに背中を預け、店の様子を伺っていると、厨房の中に静かな声が響き渡った。


 中を見渡してみれば、すでにケーキ作りらしいケーキ作りはしていない。この店のオーナーであり、USO唯一のパティシエであるヒメはオーブンの前で膝を抱えて、その様子をジッと眺めていた。この世界のヒメは、かなり際どい格好をしているというのに。


 現実では金色の髪に琥珀色の瞳という日本人離れした外見の彼女だが、この世界では――


 長い艶やかな黒い髪。瞳の色は黒色で着ているのは黒い着物。いわゆる、和風美少女というのがピッタリな女の子だ。ただし動きやすさ重視のため、着物の丈はかなり短いけど。


 そんな子が床へ体育座りして、綺麗な白い足をギリギリまで露出させている。


 しかもヒメも俺と同じ方法でキャラメイクしているらしく、髪色と瞳の色以外はほぼリアルの彼女そのもの。露出しているのは、恋咲姫の体と言っても過言じゃない。


 ……正直、目のやり場に困る。


「それでハクさんは私に何の御用ですか?」

「いや、それよりもいいのかよ? ミャーさんがまだ補充分のケーキを作ってる最中だって――」

「そのケーキならもう完成していますよ。今作っているのは別件です」


 言われてみればたしかに、このゲームって一度作ったアイテムはレシピ化して、ホームなら即時生産可能だからな。だからおかしいとは思ったんだ。まだケーキが完成してないなんて話。


「ところでハクさんは甘いものとか好きですか?」

「嫌いではないかな。ただちょっと、甘すぎるのは苦手だけど」

「わかりました。それに関しては今後の参考にさせてもらいます」


 一体何を聞かれたのか。あまりにもヒメが淡々としすぎていてわからなかった。


 単純に味の好みを聞かれたんだよな?


 ……でもなんで? 俺、誕生日とか教えた覚えはないんだけど。


「それで今日はどこに行くつもりですか?」

「……え? とりあえずいつも通り最前線の攻略かな。もしかして、食材集めとかしたい感じか? それならそっちを優先――」

「完成です」

「なにが?」


 チン‼


 ヒメの言葉に首を傾げた直後、厨房にオーブンの音が響く。


 それは何かの焼き上がりを知らせる音。


「では私もすぐに行くので、お店の方で待っていてください」

「それは別にいいけど、結局は何を作ってたんだよ?」

「ハクさんには関係ないことです」

「お前な……」

「ただヒントを出すとすれば、お世話になった人へのささやかな贈り物です」


 それは最早、ヒントというよりも答えでは?


   ***


「ではミャーさん。今日も店番をお願いします」


 店の前で腰に黒い刀を装備したヒメが、ミャーさんに店番を任せる。


「わかったニャー‼ その代わり帰りに――」

「いつものマタタビジュースですね。それとこれなんですが……」


 別れ際にヒメがミャーさんに渡したのは、白いリボンで結ばれた小さなピンク色の袋だった。


「何ニャ?」

「私が焼いたクッキーです。お腹が空いたら、食べてくださいね」

「やったニャ‼ ヒメニャンの手作りクッキーニャ‼ 滅多に作らないレアものニャ‼」

「はい。少し貴重なアイテムを使うのと、手間の問題で作りづらいお菓子なので」


 どうやらさっき作ってたのは、クッキーだったらしい。


 たしかにミャーさんにはいつもお世話になってるもんな。


「何をもの欲しそうな目で見ているんですか? 言っておきますが、ハクさんの分はありませんよ」

「別に誰も食べたいなんて――」

「ちなみにあとで食べようともう一袋用意したのですが、この半分なら食べても構いませんよ」

「お前はもう少しソフトな言い方とか――」

「そんな対応をする必要がハクさんにありますか?」

「……ものすごく澄んだ瞳で何を言ってやがる」


 いつものように軽く言い争いをしながら、俺とヒメは店から離れていく。

 今日も二人でこの世界を冒険するために。


『まったく、ヒメニャンも素直じゃないニャ。クッキーぐらいミャーをダシにしないで、普通に渡せばすむ話ニャのに』

ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回もまた素直じゃないイチャイチャをお送りします。

次回以降はまた、リアルへ場面が以降する予定です。


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