プロローグ オフ会に来たお姫様
「女の子相手に男五人掛かりでPKとか、見てられないな」
俺、白神白夜が初めて彼女――恋咲姫と接点を持ったのは現実世界じゃない。
三ヶ月前に発売されたばかりのVRMMO『ユニーク・スキル・オンライン』。
その中層の森で、五人の男性プレイヤーに囲まれて戦う女の子に加勢したら、その子が学校で『お姫様』と呼ばれる有名人だったんだ。
しかもゲームの中では、かなりトゲトゲしい性格で。
「手を出したら、あなたも斬ります。彼らは私の敵です」
***
――まあそれがわかったのも、今日のオフ回のおかげだけど。
「意外だな。恋咲でもゲームとかするんだな」
「私がゲームをしてたら悪いですか?」
「いや、ただちょっと素直な感想を……」
駅前の喫茶店で『学校で1番可愛い女の子』と二人きり。
改めて考えてみると、この二ヶ月一緒にUSO――ユニーク・スキル・オンラインの中を冒険してたんだよな。今まで気づかなかったとはいえ、これって結構すごいことなのでは?
コーヒーの中にガムシロップと砂糖、ミルクを入れ、軽くスプーンでかき混ぜながら思案する。
「ところで……」
テーブルに向かい合って座る恋咲の澄んだ声を聞き、ピタリとコーヒーをかき混ぜる手が止まった。
正面を向いてみれば、そこには何かを言いたそうな顔が。
学校で見かけるたびに思うけど、本当にどこかのお姫様だって明かされても違和感がない。ふわふわとした長い金色の髪に、宝石みたいな琥珀色の瞳。おまけに肌は雪のように白くて、態度の節々には礼儀正しさが滲み出している。
学校のみんなが、お姫様呼ばわりするのも――
「私の話を聞く気があるんですか」
ボーっと恋咲の姿を眺めていると、軽い叱責が飛んできた。
ゲームの中でもそうだけど、明らかに学校での態度と違う。
学校ではいつも、ニコニコと友だちと談笑しているイメージなのに……。
「まったく。この二ヶ月、私がどれだけハクさんに苦労させられたことか」
今は日本人寄りの顔を歪ませて、何度も溜息と冷たい視線を行き来してる。
「たまには私の話を聞いてください。だから一人で突っ込んで痛い目に遭うんです」
「いやいや。目の前にイベントボスが現れたら、とりあえず戦ってみようぜ」
「それでこの前、あっさり死んだのはどこの『二刀流』使いでしたっけ?」
「……その呼び方はやめろ。別に俺、二本も剣使ってないだろうが」
メイン装備は片手剣。奥の手が拳。
剣と拳を使うから二刀流。通り名負けにもほどがある。
そもそも別に、同時に使ってるわけでもないし。
「それでさっきは何を言いかけたんだよ?」
明らかに不機嫌そうに尋ねてみれば。
「別に大したことではないのですが」
「なら言うな。どうせまた俺の悪口だろ」
「本当に白神さんがハクさんなんですか?」
「今俺、言うなって……どういうことだよ?」
反発しようとしたのも束の間、急な質問に目を丸くする。
「ですから。白神さんが本当にハクさんなのかと思いまして」
「さっきまで俺がハクっていうことで話してたと思うが?」
「でも気を悪くしないでほしいのですが、あまりにも学校での姿と違いますよね?」
「……なんで違うクラスなのにそう思うんだよ?」
喫茶店の前で待ち合わせして、相手が恋咲姫だと知った時、俺は驚いた。
でもそれ以上に入口で――
『隣のクラスの白神白夜さんですよね?』
と言われたことにビックリしたんだ。
普段、学校であまり目立たない俺のことを知っていたから。
こうなってくると、同級生全員の顔と名前を把握してるんじゃないのか。
「白神さんは自覚がないと思いますが、1年生の間では目立ってるんですよ。寝るために登校してる男子生徒として」
たしかにUSOに朝方までログインしてるせいで寝不足ではある。
だからって言うほど寝ては……いるな。
「もう一度言います。そんな人とハクさんが本当に同一人物なのでしょうか?」
白神白夜とハクのギャップを考えた場合、至極真っ当な疑問だ。
「私が知ってるハクさんはバトルマニアで、レアアイテムに目がなくて、変なところでお人好し。おまけに時々食い意地も張っていて――」
「OK。それ以上は俺に効き過ぎ――」
「負ける姿なんて想像できない人です」
声音でなんとなくわかった。
恋咲が俺に――剣士ハクに抱くイメージが。
そして現実の俺はそれに多大なノイズを及ぼすと。
「……そうだな。あの世界でのハクは無敵でいなきゃいけない」
誰よりも最強最速でUSOのラストダンジョンを目指す。
その姿が一番、あいつらしいと自分でも思う。
だけど。
「悪いな。ゲームの中では最強でも、リアルだとうだつの上がらないただの高校生。それも俺なんだ。むしろそういう三枚目なところが、お前のよく知るハクらしいだろ?」
軽く恋咲にウィンクして、ずっと握っていたスプーンでカップを「チリン」と弾いた。
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