09話 パンダさん
「ところで、シエラさんのその……天使のような格好はご趣味か何かで?」
シエラさんと無事フレンド登録を終え、俺は昨日から気になってしょうがなかった、シエラさんの服装について質問した。
シエラさんの見た目は天使そのものといった格好で、たしかにこの人は中身が天使のように優しい人だ。
でも、いくらなんでも自己主張が強すぎないか?
いや、わかっててやってるのなら別にいいんだけど……
俺の質問にシエラさんは慌てた様子で首を横に振った
「ち、ちがうんです。これには理由が――」
彼女の言葉を整理すると、今着ている装備は中級ダンジョン【天空の城】で手に入る『天翼シリーズ』という装備らしい。
この装備はセット装備になっていて、同じシリーズを複数装備すると追加効果を得られるそうだ。
「天翼装備は回復力上昇と補助魔法の効果アップが付いてるんです」
「なるほど、サポートに特化した装備なんですね。ということは、シエラさんの職業って――」
「はい、わたしの職業は『神官』です」
神官はパーティのサポートに特化した職業だそうで、ソロで活動するには難しく育成難易度は高いそうだが、パーティには必須の職業として人気があるようだ。
「神官は回復が得意なジョブなんです。サポート役なら味方の能力を上げる『巫女』も人気の職業ですね」
なるほど、サポート役と一言でいっても回復が得意なヒーラーや、キャラクターの能力を上げるバフ役、通称バッファーも存在するらしい。
「ち~な~み~に~、わたしのジョブは聖騎士よ」
「おお、聖騎士!」
なんでだろう。聖騎士と聞くとなぜかテンションが上がる。
やっぱり名前の響きかな、聖騎士……いいよなぁ。
「むー」
変な声が聞こえたと思って振り返ると、シエラさんがほっぺを膨らませながらこちらを睨みつけていた。
「あ、あの……そんなリスみたいに頬を膨らませて、どうかしました?」
「ユキトさん、わたしの時と反応が違いすぎませんか?」
(しまったな。聖騎士という言葉にはしゃいでしまったが、シエラさんから見れば自分の職業に興味がないと映ったのかもしれない)
「あ、あのですね。聖騎士は男にとって憧れといいますか……テンションが上がる職業なんです!」
俺の嘘偽りない本音を聞いた二人は、一瞬唖然とした顔を見せた後、盛大に笑った。
「あはは、ごめんなさい。ちょっとからかっちゃいました」
「うふふ、あなたってほんと面白いわね」
今更になって自分のした発言に顔が熱くなってきたが、それが嘘偽りのない俺の本音だ。
二人はしばらくの間笑っていたが、ようやく落ち着いたのか再び話し始める。
「聖騎士っていうのはね、敵の攻撃からパーティメンバーを守る重要な職業よ」
ヒーラーとタンク、どちらも昔プレイしていたゲームでもあった役割だ。
倒れた仲間を回復するパーティの生命線であるヒーラー。
そして味方の盾となり戦線を維持する、パーティの要であるタンク。
形は違っても、どちらも仲間を守る大切で重要な職業だ。
クリスさんの装備はいかにも防御力が高そうな、白と金を基調とした鎧で全身を統一している。
スライムの攻撃で瀕死に追い込まれた俺の装備とは雲泥の差だ。
布の服を着た俺が隣に居ると、まるで物語の勇者様と、そこらのモブキャラにしか見えない。
(服装だけでもなんとかしたほうがいいよなぁ……って、あれ?)
俺はふとした疑問を抱き、シエラさんに声を掛けた。
「あのー、その装備を着ている理由はわかりましたが、見た目って変えられるんですよね?」
ヴァルセリア・オンラインでは通常装備とは別に、見た目だけを変える重ね着機能がある。
これは様々な装備を着用し強さを求めた結果、見た目が悲惨なことになるプレイヤーを憂慮した運営からの配慮だった。
自分の布の服を見て、チュートリアルで受けた説明を思い出す。
「あの……ね。しぃちゃんは、そのー……」
クリスさんは時々シエラさんに視線を向け、言葉を濁しながら話を続けている。
「すっごく、独創的というか……」
あ、なんとなく言いたいことが見えてきた……
「うぅ、実はわたしの服の趣味がちょっと変わってるらしくて……」
どうやらシエラさんのセンスは、一般受けするものではないらしい。
「なるほど、でも自分の好きな服を着るのが一番だとわたしは思いますけど」
俺がそう言い放つと、シエラさんの表情はパッと明るくなった。
「そ、そうですよね!わたしはすっごく可愛いと思うんです――」
(うんうん、他人の評価なんて気にしなければいい。自分が好きかどうか、そこが大切なんだ)
「パンダさんTシャツ」
「……ん?」
シエラさんは満面の笑みでそう答えた。
パンダさんTシャツ?それは可愛い……かもしれないが、それを普段着に?
美人なお姉さんがパンダTシャツ……あり、なのか?
自問自答していると、俺の肩に手を置いたクリスさんは優しく微笑みかけ、
「ゆっくん、責任とりなさいね」
そう言って、肩に置いた手の力を強めていった。




