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07話 メインジョブ

「はぁ……はぁ……ここまでくれば大丈夫だろう」


俺は今アルマクトとの死闘の末、敗北し身を潜めている。


それにしても、いくら余裕がなかったとはいえ逃げたのは失敗だった。

あの時、アルマクトが仰向けになっているのが一瞬見えた。


もし冷静に対処できていれば――


「くそっ、よりにもよってまたここに来るなんてな」


アルマクトの突進が脳に焼き付いていたからか、俺は全力で逃げている最中に目に飛び込んできたこの森に(すが)る思いで飛び込んだ。


森に入ればアルマクトの突進は意味をなさないだろう。

恐怖に染まった頭で必死に考えた作戦だった。


しかし飛び込んだ森は【木漏れ日の森】。

忘れようもない……初めて俺に死をもたらしたモンスター、フォレストゴブリンが生息する森だった。


(よりにもよって、死線をくぐり抜けた先が死地なんて、冗談でもたちが悪い)


クリスさんの話によれば木漏れ日の森は、初心者でもある程度は踏破できる難易度らしい。

ただそれはちゃんと装備を整えた万全の状態で挑んだ場合であって、今の俺には身を守る盾も、体力を回復させるアイテムすらない。


こんな状態じゃ昨日のフォレストゴブリンどころか、スライムにだって勝てやしない。


どうせゲームなんだから……そう思っていても死ぬのは気分が悪い。

少しでも生き残れる道があるなら全力でそれにしがみつく。だが、さすがにこれは……


諦める、という言葉が脳裏に浮かんだ時、近くの茂みから突然何かが飛び出してきた。


一瞬フォレストゴブリンかと身構えたが、現れたのは見るからに弱そうな生き物だった。


(なんだよ、ビックリさせんなよな。あれは……小さいけどモンスターか?)


このゲームではプレイヤーから一定の距離にいるモンスターは名前が表示される。

モンスターではない野生の動物もいるが、その場合は名前は表示されない。


目の前に現れた、うさぎに似た生き物。

体を(おお)うふさふさした毛は茶色く、長い耳は垂れ、一見すると犬に見えなくもない愛くるしい姿をしている。


名前は【ラピードラビット】


つまり目の前にいるのはれっきとしたモンスターだ。

見た目だけならモンスターにはとても見えず、普段なら攻撃を躊躇(ちゅうちょ)してしまうだろう。


しかし今は少しでもレベル上げの為の経験値が欲しい。

そしてもう一つラピードラビットを無視できない理由がある。それはラピードラビットの名前が銀色で表示されているからだ。


俺が今まで見た、フォレストゴブリンやスライム、アルマクトは全て黒色で名前が表示されていた。

それなのにこのラピードラビットは銀色、必ずなにかある!


幸いなことにやつはまだ俺の存在に気づいていない。

俺は息を殺し、物音を立てないよう慎重に周りの小石を拾い集める。


(あのサイズじゃ、一つ投げたところで当たるかわからない。なら、物量で勝負だ!)


右手に持てるだけの小石を握りしめ、木の陰で体を隠しゆっくりと立ち上がる。


狙いを定め、勢いよく投げた大量の小石がラピードラビットに飛来する。


いくつかの小石が命中すると、ラピードラビットはHPの八割を失っていた。

(弱い……これなら、勝てる!!)


勝利を確信し、ショートソードを振り上げる。


その瞬間――

ラピードラビットと目があってしまった。


縋るような目でこちらを見上げてくるラピードラビットに、決意が鈍りそうになる。


「そ、そんな目で見たって逃さねえぞ!」


覚悟を決めるため、あえて大声を出して自分を奮い立たせる。


ラピードラビットはそんな俺を意に介さず、ゆっくりとこちらに近づき無防備な姿を晒している。

そんなラピードラビットを見て、俺は剣を鞘に戻した。


(こんな姿を晒されたらな……)


完全に敵意のないラピードラビットの姿を見て、我慢していた触りたい欲求を満たすべく手を伸ばした瞬間――


【テイム条件を達成しました。個体名[ラピードラビット]をテイムしますか?】

【テイムにはメインジョブ『モンスターテイマー』が必要です】


【ジョブ取得条件を達成しました。メインジョブ『モンスターテイマー:Lv.1』を取得しますか?】

[モンスターテイマー:モンスターをテイムすることができる]


【はい】 【いいえ】


「モンスターテイマーか……うん、どう考えてもないな」


モンスターテイマーは想像通りなら、モンスターと一緒に戦う変則的な戦闘スタイルのジョブだろう。

こういったジョブはモンスターに力を割く分、テイマー本人の能力が控えめになる可能性が高い。


それに――


目の前で無防備な姿を晒し、小石数粒が当たっただけで瀕死になるこいつと、一緒に戦うなんて到底不可能だ。


(ペットとしてなら飼ってやりたかったんだけどな……)


そんな思いを胸に、俺は【いいえ】の選択ボタンを押そうとし――


「ゆっくん、大丈夫!」


背後から突然声を掛けてきた人物は、俺の肩を掴み振り向かせた。


「く、クリスさん?どうしてここに!?」


慌てた様子で俺の肩を掴んでいたのは、フレンドのクリスさんだった。


「フレンドリストを見たらあなたがこの森に居るのがわかってね。昨日のこともあるし、念の為様子を見に来たのよ」


(フレンドになると相手のいる場所を確認できるのか……)


「なるほど、それはご心配をおかけして申し訳ありませんでした。実はいろいろありまして」


「そう……無事ならよかったわ。そ~れ~よ~り、そっちの可愛いうさぎちゃんを紹介してくれないかしら?」


足元に視線を落とすと、先程までと変わらず俺を見上げていたラピードラビットと視線が交差する。


「なんだお前まだいたのか、そんなに見つめても連れていけな――」


【モンスターテイマー:Lv.1を取得しました】

【テイム条件を達成しました。個体名[ラピードラビット]をテイムしますか?】


「は?」


目の前の光景に空いた口が塞がらない。


いやいやおかしい、俺は確かに【いいえ】を押し――てない!

押す直前で声を掛けられて、その後どうしたっけ!?


まさか振り向いた時、咄嗟(とっさ)に【はい】のボタンを押しちゃったのか!?

あれ?でもなんで確認画面が出てこないんだ?

サブジョブの時は変更できないって確認画面が出てきたのに……


いや、それよりどうする!

前回と同じなら、もうどうにも――


「う……あぁ……ノオオオォォォォ」


俺の悲痛な叫びが森中に響き渡った。

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