06話 強敵、アルマクト
「やっぱり……一度決まったら変更や取消しはできないか」
水まんじゅう――もとい、スライムの奇襲によって、予期せぬ形でサブジョブが決まってしまった。
どうにかして取り消せないか試してみたものの、警告通り無理なようだ。
ゲームで最も重要な要素が、こんな形で決まるなんて思ってもいなかった。
「はぁ、水まんじゅうめ……これからどうするかなぁ」
どうしても気に入らないなら、一度キャラクターをデリートして、再スタートする方法もある。
まだ始めたばかりだし、やり直す労力は少ないはずだ。
「あ、だめだ、クリスさんたちと連絡が取れなくなる。それに――」
『ユキト』は、見た目を自分と同じくらいの歳にしたせいか、少しずつ愛着も湧いていた。
それに、解体屋が残念なジョブと決まったわけじゃない。
「もし使えないジョブでも、所詮ゲームだしな。これがリアルだったら洒落にならないけど……」
(別に、上位を目指してるわけじゃない。自分のペースでゆっくり進めばいいさ)
気を取り直して、次の標的を探すため歩き始める。
しかしこの辺りはスライムしかいないのか、他のモンスターが一向に現れない。
スライムの経験値はたったの10。
Lv.1から2に上がるためには100の経験値がいる。
スライムを二匹討伐したから、あと八匹か……
このまま八匹狩ってもいいが、もう少し効率よく行きたい。
というか……スライム以外と戦いたい!
もうあいつ嫌なんだよ、結構スピード早いし、攻撃当たるとHPごっそり削られるしさ……
スライムって最弱じゃないのかよ!
……あれ?もし最弱だとしても、そんなスライムといい勝負の俺ってやばくないか?
昔はもっと上手かったよな?
あれ?だんだん自信がなくなってきた……
いや、きっと反射神経とかもろもろ歳のせいで鈍ってるだけだな!
もう少し慣れてくれば楽勝……なはずだ。
そんなことを考えながらしばらく歩いていると、ようやく新たな標的を視界に捉えた。
「あれは……アルマジロか?」
近づいて確認すると、【アルマクト】と表示された。
スライムとほぼ同じくらいのサイズ、実物のアルマジロを見たことはないが、甲羅のようなものに覆われていてとても硬そうだ。
相手はまだ、俺の存在に気づいていない。
慎重に後ろに回り、持っているショートソードでアルマクトの背中を突き刺し……たはずだった。
勢いよく振り下ろしたショートソードは、アルマクトの外皮を突き破ることなく弾き返された。
「いくらなんでも、無傷はないだろ!」
ショートソードが当たった場所は、最初から何事もなかったかのように傷一つ付いていない。
切れ味が悪くても傷くらい付くと思っていた分、その事実はあまりにも衝撃的だった。
(スライムより上と思ったが、これじゃ勝負にすらならない……どうする!)
四足歩行の生物だけあって、おそらく弱点の腹部は狙えない。
まさか物理と相性が悪いのか?この世界には魔法があるし、それが弱点なら魔法を使えない俺にできることはない。
アルマクトの対策が思いつかないまま、少しずつ距離を取って様子を見る。
するとアルマクトは急に体を丸め、弾み始める。
「おいおい、スライムと同じか?どうせ突っ込んでくるんだろ?」
予想通り、アルマクトは弾んだ反動を利用し、突進してくる。
しかし、スライムに比べれば速度は大したことない。
アルマクトの突進をギリギリの所で回避し、もう一度攻撃するため身を翻す。
「そんな速度じゃ当たんねぇ――え?」
意味がわからなかった。
ギリギリで避け体制を崩したとはいえ、振り返るまでにさほど時間はかかっていない。
なのにどうして――お前が目の前にいるんだよ!?
鈍い音と共に目の前が暗くなり、気づいた時には、俺は青い空を見上げる形で倒れていた。
(何が……起こった?振り向いたらあいつが目と鼻の先にいて、気づいたらこうなっていた)
おかしい……俺が振り向くまで、そんなに時間はかからなかった。
アルマクトが反撃してくるにしても早すぎる!
緩急をつけた攻撃?それともやつのスキルか?
いや、やめよう。
考えたところで答えなんて出ない。
それにさっきの攻撃で残りのHPは四割程度、次の攻撃を防がなければゲームオーバーだ。
そんな状況で取れる行動はただ一つ――
俺はアルマクトに背を向け、全力でダッシュした。
逃げる?いいや、これは勇気ある撤退だ。死して屍になるより、明日への勝利のため……そうだ、これこそがビクトリーロードへの第一歩なんだ。
そんな事を考えていると――
ブンッと、高速の物体が俺の横スレスレを通り過ぎる。
どうやら俺を逃がしてくれる気はないらしい。
アルマクトはそのまま地面に着地――
することはなかった。
「お……まえ、そういうことかよ!」
先程の不意の一撃、瞬間移動でもしたのかと思ったその攻撃は、アルマクトの尻尾による強引な軌道修正を利用した強力な一撃だった。
前回と違い、今回は一部始終を見てたおかげで咄嗟に盾を構えることができた。
盾から伝わる強い衝撃に少しよろけるが、即座に次の攻撃に備える。
HPは盾のおかげでなんとか持ちこたえたが、あと二回も喰らえばひとたまりもないだろう。
逃げることもできない、それなら――
ポ~ンポ~ンとリズムよく上下するアルマクト。
突進をするタイミングを見計らっているのか、視線を逸らさずこちらを捉えていた。
勝負は一瞬、失敗したら終わりだ。
二回、三回と跳ね、四度目の跳躍で動きが変わる。ほんの一瞬タメを作り、勢いよくこちらに向かってくる。
(まだだ、今じゃない……まだ、まだ……ここだ!)
アルマクトの進む軌道上にタイミングよく盾を構える。
バキッ
盾とアルマクトが衝突した瞬間、乾いた音と共に盾代わりの木の板はあっけなく砕け散った。
スライムとは違う硬い外皮に覆われたアルマクトの体当たりは、木の板の耐久値を激しく削っていた。
(くそっ、もう本当に打つ手がない!早くしないと次の攻撃が――)
しかし、アルマクトが追撃をしてくることはなかった。
木の板に当たった衝撃でアルマクトの軌道は大きく逸れ、アルマクトは天を仰ぐ形で無防備な体を晒していた。
思い返しても、あの時の俺はかなり動揺していたと思う。
身を守る盾はなくなり、HPも残り僅か……そんな状況だったとはいえ、気が動転してこんな所に逃げてきてしまうなんて――最悪だ。




