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05話 水まんじゅう

「ん……もう、朝か」


久しぶりのゲームで疲れていたのか、いろいろなことを思い返しているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。


軽く伸びをした後、洗面所に向かい顔を洗う。

普段ならダラダラと惰眠を貪っているが、今日はこれから外に行くために身支度を整える。


「昨日は結局、モンスターを一度も倒すことができなかったからな……」


久しぶりとはいえ、モンスターに負けたままでいるというのは、気分が良くない。

だから今日は、やつらにリベンジすることを決めていた。


といっても、集団で来られては今のレベルや装備では心許ない。

何もかもが足りないが、せめてできる限りのことをしておきたい。

まずは今日、モンスターを一体倒す!それが目標だ。


朝……というか、もうお昼近いが、一日ゲームをすると思うと昔を思い出してわくわくする。


しかし、このままゲームをするのはダメだ。

部屋に籠もるなら、それなりの準備が必要になる。


「らっしゃ~せ~」


店内に入ると、聞き慣れた音楽と共に、緩い挨拶が聞こえてきた。


何度も訪れた近所のコンビニに着くと、すぐにお気に入りの菓子や飲み物をカゴに入れていく。


(あとは……お、あったあった、これがなくちゃな)


昔さんざんお世話になったスティック状の菓子パン、ゲームをしながら片手で食べられるこのパンを俺は重宝していた。


必要なものを全てカゴに入れ、会計を済ませようとレジに向かった時、異変に気づいた。


「だーかーらー、何度も言ってんだろ!◯◯のタバコだよ!」


「ですから、番号を――」


レジで客と店員が揉めている。客がタバコの銘柄を伝えたはいいが、店員はそれだけではわからず揉めているようだ。


(俺もタバコの事はさっぱりだけど、その銘柄なら――)


俺はレジの付近に移動し、タバコの並んでいる棚をじっくり見る。


「店員さん。たぶん、その◯◯番台のどれかだと思いますよ」


店員は一瞬、きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに理解したのか背後の棚からタバコを複数取り出しレジ台に並べる。


客はお目当てのものを見つけたのか、悪態を付きつつも会計を済ませ、その場を後にした。


俺はレジに並び直し、自分の番になったのを確認してカゴをレジ台の上に置いた。


「あ、あの……さっきは、どうも……助かりました」


日焼けした肌に濃いメイク。

いかにもギャルといった見た目の彼女は、顔を背けながら、気まずそうにお礼を言っていた。


「ああ、気にしないでください。お役に立てたならよかったです」


彼女にそう告げ、手早く会計を済ませ店を出た。


(それにしても、まさかあのクソ部長のお使いが役に立つとはなぁ)


俺は普段タバコは吸わない。なので当然タバコの銘柄も全くわからない。

唯一知っているのは、部長のお気に入りで、あの客がいったものと同じ銘柄だけだった。


嫌がらせなのか、しょっちゅう買いに行かされるせいで、あの銘柄だけは覚えている。


「はぁ、せっかくの休日に、あの憎たらしい部長の顔を思い出すなんてな……」


思い出した途端、胃がムカムカするのを必死に抑え、足早に来た道を戻った。


「さて……ようやく準備が整ったことだし、いっちょやるか!」


テーブルには、お菓子やジュースが所狭しと並んでいる。


早速コーラに手を伸ばし、一口含んだ後、ゲームを起動させる。


ユキトが立っているのは、見渡す限りなにもない草原だ。

昨日はここでログアウトしたので、同じ場所から再開になる。


「さて……と、まずはモンスターを探さないとな」


ゴブリンは大歓迎だが、昨日のようなことがまた起こるとも限らないし、森に近づくのは避けたい。

人形(ひとがた)モンスターなら動作が予測しやすいのでパリィの練習にもなるが、まずは雑魚でもいいから狩ってレベルを上げないとな。


「お、さっそく発見。一匹だしちょうどいいな」


視線の先には、定番の雑魚モンスター【スライム】が、ゆったりとした動きで徘徊していた。


背後からサクッといきたいところだが、スライムは目がないのでどちらが前面かわからない。

俺は近くに落ちている石を拾い、先制の意味を込めてスライムに向けて石を放った。


放った石は一直線にスライムへ向かい、見事にヒットした。

スライムの上部にあるHPゲージがほんの少し減少する。


やはりそこらに落ちてる石程度じゃ、そこまでのダメージはないらしい。

スライムは急な衝撃に怒っているのか、見た目に反した素早い動きでこちらに向かってくる。


「は、スライムのくせになかなか素早いじゃないか。でもな、しょせんは雑――」


言い切る前に、スライムは弾丸のような軌道で俺の腹に突き刺さった。

痛みはない――だが、俺のHPは今の一撃で四割も削られていた。


「マジかよ、スライムの一撃でこれって……冗談はよせよ、さすがに負けたら立ち直れねぇぞ!」


スライムは仕返し成功と言わんばかりに、その場で(はず)んでいる。


「いい度胸だ、あまり俺を見くびるなよ。この水まんじゅうが―!!!」


激闘の末、俺のHPを八割奪ったスライムは、物言わぬ水まんじゅうになり動かなくなった。


スライムはその場に残っていたので、剣先で軽く突くとアイテム選択画面が表示された。


「なるほどな、死骸からアイテムを剥ぎ取れるってわけだ。でもおかしいな」


俺のアイテム欄にはすでに『スライムゼリー』という素材が入っている。

これはスライムを倒した瞬間、経験値と共に獲得アイテムとして表示されていた。


すでにアイテムを受け取っているのに追加で貰えるのか?

それにこのアイテム、スライムゼリーじゃなくて『スライム水』ってなってるし……


「うーん、よくわからない……けど、貰えるもんは貰っておこう」


選択画面からスライム水を選び、獲得画面が表示されると、スライムの体は光の粒子となって霧散(むさん)した。


【ジョブ取得条件を達成しました。サブジョブ『解体屋:Lv.1』を取得しますか?】

[解体屋:素材剥ぎ取り数の確率アップ]


【はい】 【いいえ】


スライムが消えた瞬間、選択画面が表示された。


「どこかの施設に行って取得するもんだと思ってたけど、まさかこういう形でジョブ選択を迫られるとは……」


ステータス画面にジョブの項目があったので、ある程度予測はしていた。

問題なのはこの解体屋が、どれだけの恩恵を受けられるのかわからないこと。


素材の獲得数が上がるなら、その分だけお金に変換できるということだし、『スライムゼリー』と『スライム水』、もしかしたらモンスターを倒した時と剥ぎ取り時では、貰えるアイテムに差がつくかもしれない。


そう考えると、今後レアモンスターなどがいた場合、素材が多くもらえるほうが得になることもありうる。


「うーん、さすがにこれだけじゃわからないことが多いな。ものは試しでなるだけなって、ダメなら他のジョブにすればいいか」


少し悩んだ末、俺は解体屋のジョブを取得するため【はい】のボタンを選択した。


【ジョブは二度と変えることができません。本当によろしいですか?】


【はい】 【いいえ】


「は?一度決めたら変更不可!?そんなのありかよ」


俺は慌てて【いいえ】を押そうとしたが、その瞬間、背後から強烈な衝撃を受け、地面に転げ回った。


咄嗟のことでわけがわからないが、【解体屋:Lv.1を取得しました】という表示だけが、真っ先に目に飛び込んできた。


二重の意味で衝撃に襲われた俺の脳は、かつてないほど混乱していた。


冷静を保つため、すぐに状況整理を試みる。

ジョブは……とりあえず後回しだ。まずはこの原因を作った元凶を――


後ろを振り返ると、そこには一匹のスライムが楽しそうに弾んでいた。


「こんの……水まんじゅうがあああぁぁぁ!!!」


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