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35話 遭遇

心強い仲間が加わり、俺たちは引き続きダンジョンを探索していた。

ブーメランが手元に戻って来たので、バルドさんに前衛を任せ、愛多と俺が後に続く陣形になっている。


「ねぇねぇ、バルドさんは何でこんな所にいたの?」


「あ、えっと……ここの正式名称って知ってますか?」


質問を質問で返された愛多は、少し考える素振りを見せたが正解に辿り着くことはなかった。


「ここの正式名称は『東方守護神殿ルミナ=オリエンス』っていいます。長いので、ほとんどの人はオリエンス遺跡と呼んでいますけど」


バルドさんは見た目に反して優しく落ち着いた口調で話している。


「この遺跡に似たものが他にも三箇所ありまして、神殿都市ルミナ=リエを中心に東西南北に存在しています」


「都市を中心……そして守護神殿か、いかにも何かありますって感じだな」


俺のつぶやきにバルドさんが頷く。


「ええ、当初はたくさんのプレイヤーが遺跡調査に躍起になっていました」


結局大した手がかりは見つからなかったそうだが、バルドさんはそれでもたまにこうして遺跡を調査しているそうだ。


「なるほどねぇ。でもバルドさんならきっと何か見つけられるよ!」


頑張って!と、愛多はバルドさんにエールを贈っている。


「なぁにおじさん?さっきからこっちのことジロジロ見てさ」


「いや、お前バルドさんのことはちゃんとさん付けするんだな。俺はてっきりバルドっちとか呼ぶもんだと――」


俺がそう言うと、愛多はドン引きしたような表情を見せた。


「え……いくらなんでも知り合ってすぐの人に、そんな呼び方すんのありえんくない?」


「は?」


どの口が言ってるんだっ――そう口にしようとしたが、俺は深く息を吸って言葉を飲み込んだ。

愛多の突拍子のない言動は今に始まったことじゃない。

今ツッコんでもややこしくなるだけだ。


俺は自分にそう言い聞かせ、話題を変えることにした。


「あの、今更ですけど、ほんとうに良かったんですか?パーティを組んでもらって」


バルドさんに話を振ると、言葉を選んでいるのか少しの間、沈黙が続いた。


「……えっと、私普段からずっとソロでやっているので、全然問題ありません」


バルドさんがパーティに加入してまず最初に目に飛び込んできたのは、レベル90という俺たちとはかけ離れた数字だった。


これだけでも相当やり込んでいるのが分かるが、先程のゴブリン戦の動きを見て、この人はかなりの実力者であることは疑いようがない。


だからこそ意外だった。


オンラインゲームは強さこそすべてだ。

この世界でのトッププレイヤーがどれほどのものかは分からないが、レベル90のプレイヤーなんて、普通なら放っておかない。


「意外でした。バルドさんほどの人ならパーティから引っ張りだこなものとばかり」


「い、いえ、私なんてそんな……それに私、すごく人見知りで……人と話すのが苦手なんです」


うん、それはなんとなく分かっていた。

でもそれならなんで――


「あの、俺たちとは普通に話せてますよね?」


「あ、えと……ユキトさんと会ったら謝罪したいとずっと思ってて、それで謝る練習をしてたんです。それに――」


「それに?」


「似てたんです……私の尊敬する人と。だから苦手なはずなのに喋れちゃいました」


台詞だけ聞くと、とても奥ゆかしく一瞬トキメイてしまいそうだが……相手は筋肉ムキムキの男である。

俺は暑苦しい筋肉を見て、気持ちを落ち着かせた。


「それにしても、ソロで今まで活動してたなんてすごいですね」


「ああ、それは私のジョブのおかげかもしれません」


レベルにばかり目がいって、職業を聞くのをすっかり忘れていた。


「差し支えなければジョブを伺っても?」


「あ、はい、私のジョブは冒険者です」


俺の質問にバルドさんは一切の迷いなく答えてくれた。

クリスさんから、ジョブは相手の強さを知ることができる貴重な情報と言われ、むやみに人に教えるのは気をつけるように言われていた。


(信頼してくれている……ってことでいいんだろうか。いや、それにしても――)


冒険者って微妙じゃないか?

俺の想像する冒険者は、冒険を始めたばかりの初心者がなるイメージだ。


「冒険者は様々な環境に順応し、全ての武器を扱えるオールラウンダーです」


「全ての武器が使えるって、それはすごいですね」


各ジョブは武器の属性毎の適性がある。

剣士なら斬属性の適性がA、その他はC、俺のモンスターテイマーは遠属性がAその他がCだ。


「と言っても、全ての武器の適性がBってだけなんですけどね」


「極めることはできないけど、武器を使い分けることでどんな状況にも適応できる……か」


「はい、それに冒険者のジョブスキルには環境適応というのがあって――」


バルドさんはジョブのことになると饒舌になって、いろいろなことを教えてくれた。

先程バルドさんが、暗い通路を明かりもなく歩けていたのも、ジョブスキルによるものらしい。


話を聞く限り、ソロで冒険をするには冒険者はかなり有用なジョブということが分かった。

それに使い方次第では、他のジョブに全く引けを取らないということも――


「あ、ここがボスのいる部屋です」


話をしながら進んでいると、あっという間にボスのいる部屋の前まで来ていた。

ボス部屋に続く扉は、通常なら何人もかけて開けるような大きさの扉だった。


「扉に触れるとボスへの挑戦権を得たことになり、扉が自動で開くようになっています」


もし仮に、他のパーティと被ったとしても、先に扉に触ったパーティが優先されるというわけか。


「ここのボスは剣と盾を持ったトカゲ型のモンスターですね。ゴブリンよりは強敵ですが、これと言った特徴もなく、普通に戦えば問題なく倒せるモンスターです」


初めてのダンジョンボスということで若干緊張はしていたが、バルドさんの説明を受けて少し肩の力を抜くことができた。


手を触れると、扉は何の抵抗もなくゆっくりと開き、俺は逸る気持ちを抑えてゆっくりとボス部屋に足を踏み入れた


扉に見合った、大きく開けた空間。

障害物は何もなく、部屋の中は不気味なほど静まり返っていた。


そして、部屋の中央に立つ一匹のモンスターを見て、思わず息を呑む。


「――なんだ、こいつは……」


そいつは、ゴブリンのような形をしているが全身が黒く覆われ、まるで影をそのまま切り取ったような姿をしていた。

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