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34話 筋肉戦士

「悪かったな、付き合わせて」


俺は歩きながら、後方に控える愛多に向けて言葉を放つ。


「私が付いてくって言ったんだし、気にしなくていいのに」


愛多は笑いながら「まじめだなぁ」と言って、俺の言葉を軽く受け止めた。


ダンジョンの入口を見つけた時、俺は一人で入るつもりだった。

金貨二枚もするブーメランは取り返したいが、俺の問題に愛多を巻き込むつもりはなかった。


しかし愛多は「入らんの?」とあっさり言い放ち、俺の手を引いて無理やりダンジョンに入った。

道は薄暗く、明かりがなければまともに歩くことすらできない。


ダンジョンに来るとは思っていなかった俺は、当然明かりの準備なんてしてるはずもなく、途方に暮れた。


そんな俺を見た愛多はストレージから松明を取り出し、火打ち石を使い火を灯した。

愛多から受け取った松明の光は不安定に揺れ、明かりが届く範囲はほんのわずかだった。


「あのゴブリンどこまで行ったのかなぁ」


俺たちの足音以外に音はなく、突然発した愛多の声は反響して俺の耳に届いた。

松明の明かりを頼りに細心の注意を払って進んでいたが、今の所モンスターに遭遇する気配はない。


岩肌が露出した薄暗いダンジョンを慎重に進んでいると、通路の奥に光が見えた。

白い光が、通路の向こうから静かに漏れ出している。


一歩進む毎にその光は強くなり、やがて岩の通路は不意に途切れた。


次の一歩を踏み出した瞬間、視界が一気に開ける。

閉塞した通路の圧迫感が消え、人工的な光が広い空間を隅々まで照らしている。


辺りを見回すと、広場の反対側にも奥へと繋がる入口が二箇所確認できた。


「うーん、右?いや左も怪しい……」


違いは見られないが、愛多は左右に別れた入口を交互に見ながらブツブツと呟いている。


ゴブリンがどちらの道に逃げたかは分からないが、このままここで悩んでも埒が明かない。

俺は左に進むことを決め、入口を指さしながら、愛多に視線を向けた。


「とりあえず、左から――」


俺が指示するよりも早く、愛多は腰に掛けていた二本の剣に手を伸ばしていた。

彼女の取った行動の意図がわからなかったが、背後から聞こえたかすかな足音に、俺は咄嗟に剣へ手をかけた。


広間の光も届かない薄暗い入口の奥から、足音の主が姿を現した。


(……プレイヤーなのか?)


入口から現れた人物は、遠目から見ても分かる分厚い筋肉の鎧を身に纏い、背中には大きな大剣を携えていた。


「おじさん、あれって……」


男が現れた時、大剣に気を取られてすぐに気付けなかったが、男の左手に握られていた物を見て俺は愕然とした。


「ああ、どうやらゴブリンはあいつにやられたみたいだな」


男が手に持っていたのはブーメランだった。

あの男の所有物ということも否定はできないが、両手を使う大剣を装備してるなら他の武器を装備することは不可能だ。


つまりあの男はブーメランを装備していない。

武器は装備していなければ攻撃力は加算されず、そんな武器を両手剣使いが持っている理由は――ない。


「ねぇ、どうするの?あの人こっちに向かってきてるんだけど」


男はゆっくりとこちらに向かってきている。


ゴブリンを討伐して得たものは、全てあの人のものだ。

もし、あのブーメランが俺のだとしても文句を言うのは筋違いだし、そもそも盗まれた俺が悪い。


「とりあえず様子を見よう。あの人は別に――」


悪者じゃない――そう言おうとした瞬間、男は背中に掛けた大剣を引き抜き、その巨躯に似合わないスピードで猛然とこちらに迫ってきた。


(は、はやっ――)


意味がないと分かりつつ、俺は咄嗟に両腕をクロスさせ防御の姿勢を取った。

しかし、男は俺の横をすり抜けるように通り過ぎ、振り向くとすでに男は剣を振り下ろした後だった。


「お、おい、あんたいったい何……を」


男に文句を言おうと詰め寄ろうとした時、男が振り下ろした剣の先には一体のゴブリンが倒れていた。

ゴブリンのそばには粗末なショートソードが転がっていて、ゴブリンの持ち物だと見て取れた。


「助けてくれたのか?」


「ゴブリンはずる賢いんです。プレイヤーが気付かない小さな隙間に隠れて闇討ちする機会を伺ってたんでしょう」


男は説明しながらこちらに振り向いた。

近くに立つと身長差は歴然で、俺は見上げる形で男と対峙した。


(いかにも歴戦の猛者って感じだな……というか、この人どこかで――)


俺が何かを思い出しかけたその時、


「以前は大変申し訳ありませんでしたぁああっ」


男は突然、土下座をすると同時に、謝罪の言葉を口にした。

俺は理由もわからず立ち尽くしていると、見かねた愛多が割って入ってきた。


「ねぇねぇ、急に土下座なんて一体何があったの?」


愛多は男の横でしゃがみ込み、優しい口調で理由を問いただした。


「あ、すみません。私は『バルド』っていいます」


男はこちらをちらりと見ると言葉を続けた。


「そちらの方には以前リエアの街付近でお会いしまして……その時、大変ご迷惑をおかけしてしまったのでずっと謝りたいと思っていたんです……」


(どこかで見たと思ったら、大木に正拳突きしてたあの人か!)


「あ、あの、以前はお見苦しい姿をお見せしただけでなく、追いかけてしまって申し訳ありませんでした」


バルドさんは申し訳なさそうに何度も謝った。


「あの、別に気にしてませんから顔を上げてください」


俺がそう言うと、彼はようやく頭を上げてくれた。


「えっと、答えたくなければ答えなくて結構ですけど、なんであんなことしてたんです?」


俺はあの時の彼の奇怪な行動が気になり、質問した。

彼は少し言いづらそうにしていたが、やがて重い口を開いた。


「私リアルではいろいろとダメダメで……でも、あの日は嬉しいことがあって、舞い上がってそれで……」


嬉しさのあまり、大木に拳を打ち込んだと?

嬉しさの表現がぶっ飛んでないか?


しかしようやく納得できた、彼は嬉しさのあまり大木を殴っていたが、時折その日の出来事を思い出して笑っていたと……


そしてその場に運悪く居合わせてしまった俺の誤解を解くために、説明しようと近づいたら俺が逃げて追いかけたってとこか。


(やっぱりこの人と関わってはダメなのでは?)


理由が分かっても彼の奇怪な行動は理解できず、その場を適当に誤魔化して退散しようとしたが、その前に愛多が口を開いた。


「ところでさ、バルドさんが持ってるそのブーメランってどこで手に入れたの?」


愛多の質問に、バルドさんは手に持っていたブーメランを見る。


「これは、先程倒したゴブリンからドロップしたものですね」


俺の予想は的中していた。


バルドさんの話では、通常のゴブリンはブーメランを落とすことはまずなく、誰かから盗んだものだとすぐに気づいた。


律儀にも、落とし主が困っているかもしれないと思い、ダンジョンの近辺だけでも捜索するつもりだったらしい。


「あの……そのブーメラン盗まれたの俺です……」


俺はことの経緯を全てバルドさんに話した。

するとバルドさんは安堵した表情で、俺にブーメランを手渡してきた。


俺は一瞬喜んだが、すぐにその考えを改めた。


「いいんですか?ゴブリンを倒したのはバルドさんで、そのゴブリンからでたドロップ品はバルドさんのものなのに……」


「もちろんです。もともとお返しするつもりで持ち歩いてましたし、ちゃんと持ち主に返すことができてよかったです」


バルドさんはそう言うと、ニッコリと笑った。


「ところで、お二人はこれからどうされるんですか?」


目的は達したが、せっかくダンジョンに来たんだ、可能ならクリアしたいところだが――


「はいはーい。私はこのままダンジョン攻略するのがいいと思いまーす」


俺が何か言うよりも早く、愛多は手を上げてダンジョン攻略を持ちかけた。


「と、言うわけで俺たちはこれからダンジョンボスに挑みます」


バルドさんはそれを聞くと、途端にもじもじし始め、俯きながら少しずつ言葉を紡ぐ。


「あ、あの……もし、ご迷惑でないのなら、私も一緒に行動してもいいでしょうか……」


俯いて表情が見えないが、見た目からは想像もつかないほど弱々しく、今にも消え入りそうな声だった。


「え?マジ手伝ってくれんの!?やったー」


重い空気をぶち壊すように、愛多が全身で喜びを表現している。


「どうやらあいつの中ではもう決定しているみたいなので、どうぞよろしくお願いします」


バルドさんは顔を上げると、表情を輝かせ俺の手を握った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


こうして新たにバルドさんが、パーティに加わることになった。

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