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29話 奇々怪々

ユニークモンスターという想定外の出来事はあったが、

それでも――俺たちは無事依頼をクリアすることができた。


報酬の銀貨5枚を山分けし、余剰分のヒリング草はあとで売却する予定だ。


「あの……ほんとに大丈夫ですから」


クエストで貰った解毒薬の代金を渡そうとしたが、シエラさんはなかなか受け取ろうとしてくれない。

俺はそんな彼女の手を取り、少し強引に金を渡した。


「これからもお付き合いしていただけるなら、こういうことはちゃんとしておきたいんです。だから、受け取ってください」


そう言うとシエラさんは納得してくれたのか、頷いて金を受け取ってくれた。


「それでこの後はどうしましょうか?まだ時間はありますけど」


俺の問いかけにクリスさんは無反応だった。


(どうしたんだ?いつもと違ってやけに真剣な顔をしてる)


俺は再度クリスさんに声を掛けた。


「あ、あぁごめんなさい。ちょっと考え事を――って、あら?」


話の途中、突然クリスさんは何かに気づき動きを止める。

そして素早く手を動かし何か操作し終えると、再び口を開いた。


「ゆっくんごめんなさい。ちょっとクランの方で問題が起きたみたいなの」


クリスさんの言うクランとは、シエラさんも入っている例のクランのことか……ついでにあのクロウとか言う男も入ってるらしいが。


「俺のことは気にしないでください」


「ほんとにごめんなさいね。しぃちゃん行きましょう」


シエラさんは黙って頷くと、俺に向き直り「すぐ戻りますね」と言って、その場を後にした。


「さて、なにするかなぁ」


明日も仕事だが、まだ落ちるには早い時間だ。

もう一回クエストを受けるべきか、それとも――


「よし、神殿都市を目指そう!」


スライムの呪いは厳しいが、神殿都市に行くことができれば飛石を登録することもできて、金が貯まればすぐ解呪できるようになる。

うまくいけば、道中のモンスターから取れる素材で費用も貯まるかもしれない。


目標が決まると、俺は足早に街を出た。


(神殿都市は街を出て、北……だったよな?)


マップで位置を確認しながら北へ向かう途中、どこからか大きな音が聞こえ、気になって音のする方へ向かった。

向かった先には大きな大木があり、その木の下にいた男を見て思わず絶句した。


「ふんっふんっ、どおりゃぁああ」


男は筋骨粒々のマッチョで、大木に向かって全力で正拳突きを打ち込んでいた。


これだけなら、修行の真似事でもしているんだろうと思って、大して気にも止めなかっただろう。

しかし、問題はここからだった。

男は正拳突きをしてるかと思えば急に笑いだし、また正拳突きをするという行為を繰り返していた。


(あれには関わっちゃいけない……)


俺はマッチョに気づかれないよう、ゆっくり後退し――


パキッ


お約束とも言える展開に、俺は思わず頭を抱えたくなった。


(しまった……いや、でもあれだけ殴る音が大きいんだ。きっと木の枝が折れた音なんて聞こえないはず――)


そう思い、ゆっくりと顔を上げ男のいる方へ視線を向ける。


(だーめだ。バッチリこっちを見てる)


マッチョは唖然とした表情をしている。


どうする……関わり合いたくないけど、この状況で何も言わないのは不自然過ぎる。

先に見ていたのはこっちだし、ここは一つ真摯に謝って退散するしか無い!


俺が頭を下げようとしたその瞬間――


マッチョが全力でこちらに向かって走ってくる。


「うわぁあぁああ!」


突然の出来事にびっくりし、俺は悲鳴を上げながら全力で逃げた。


どれくらい、走っただろうか。

振り返ると、どこにもマッチョの姿はなかった。


「あの人、結局何がしたかったんだ?」


ひとまず、逃げ切れたことにホッとしつつ、現在地を確認した。

慌てて逃げていたがちゃんと北には向かっていたようで、リエアの街からだいぶ距離ができていた。


「そろそろ着いてもいいと思うんだけど……いや、その前に素材も欲しいな」


目的地の神殿都市に着いても、金が無ければ意味がない。

すぐに集められるとは思っていないが、少しでも足しにするためになるべく道中のモンスターは狩っておきたい。


(もしかしたら、レア素材が落ちるかもしれないしな)


俺の思いが通じたのか、程なくして徘徊しているモンスターを発見した。


「【グロッシュ】、特性は粘液分泌?」


見た目はまんま蛙だ。

ただ、俺が知ってる蛙よりだいぶでかい。


特性の粘液分泌は気になるが、見ているだけじゃ何もわからない。


(どのみちやることは同じ――先制攻撃だ!)


俺はストレージに入れてあった石を取り出し、大きく振りかぶった。

標的に向かってまっすぐ飛んでいった石は、見事に命中しグロッシュのHPを一割減少させた。


掴みは上々、俺はその勢いに乗って全力でグロッシュの元に駆け寄り、剣を振り抜いた。


「ちっ、そういうことか」


振り抜いた剣は、グロッシュのまとったぬるぬるの粘液に阻まれ地面に突き刺さった。


(くそっ、さっきの投擲で警戒したか、あの粘液を出されちゃ攻撃できねぇ)


俺はグロッシュから距離をとり、改めてグロッシュの体を見る。


あのぬめりをどうにかしない限り、まともに攻撃できない。

どうにかしないと――


考えがまとまらずしばらく動けないでいると、グロッシュは突然大きくジャンプをした。


(距離を詰めるきか!?)


俺は素早く盾を構え、攻撃に備える。

ところが俺の予想は大きく外れ、グロッシュは空中で一回転し、体に付いた粘液を撒き散らした。


(何がしたかったんだ?)


その行動の意味を俺はすぐ知ることになる。

突然、HPが徐々に減りだした。

HPゲージの横には状態異常を知らせるドクロが描かれていた。


俺は慌ててドクロをタップすると、弱毒と表示された。


(あの粘液、毒だったのか!)


俺はすぐにストレージから解毒薬(劣化)を取り出し、一気に飲み干す。


(クリスさんが調合した解毒薬持ったままだったけど、助かった)


しかし依然として状況はよくない。

残った解毒薬はシエラさんが用意してくれた一本のみ。

あと一回は毒をくらっても大丈夫だが、攻略の糸口を見つけない限り、何本あっても意味はない。


同じ毒持ちのヴェノスパイダーを参考にできないか考えたが、あの時は逃げただけで戦ってすらいない。


(いや、待てよ……試してみる価値はあるかもな)


いちかばちか、俺はストレージを操作してアイテムを取り出す。

俺は全力で手に持ったアイテム――スライム水をグロッシュ目掛け投げつけた。


スライム水はグロッシュの体に当たった瞬間、薄い膜を破裂させ中身をぶちまけた。


あの時は緊急でそれどころではなかったが、これで確信した。


(モンスターの素材は調合以外にも使える!)


粘液を飛ばした直後のグロッシュは、俺の投げたスライム水で完全に粘液を流されあっけなく勝敗は決した。


「ふぅ、粘液さえなければ大したことなかったな」


勝利の余韻に浸ることなく、グロッシュの素材を回収する。


「討伐報酬は……げっ、蛙の手かよ……それで解体報酬はっと」


グロッシュの体に触ると、毒腺×2と取得画面に表示された。

解体屋のスキルのおかげか、いつもと違って素材が二個手に入った。


グロッシュとの戦闘を終え、俺は再び北を目指し歩く。

しばらくして、俺はようやく神殿都市『ルミナ=リエ』に到着した。


「さて、街を散策したいけどそろそろ落ちなきゃな」


結局その日、シエラさんたちが戻ってくることはなかった。


(トラブルが長引いてるのかもな)


俺はシエラさんに今日は落ちる旨をメッセージで送り、その日はゲームを終了した。


ただ、次の日になっても――シエラさんから連絡が来ることはなかった。

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