27話 湿影の森①
2026/1/29 第18話の内容をタイトルを含め、大幅に修正しました。
すでにお読みいただいた方も、もしよろしければ改めて読んでいただけると嬉しいです。
「あの、ヒリング草のある『湿影の森』ってどの辺りにあるんですか?」
手に持った依頼書には、ヒリング草のイラストと採取場所が記載されていた。
「湿影の森はここから歩いて数キロ先にあります。強いモンスターはいませんが注意することがあって――」
シエラさんはそう言うと、ストレージからアイテムを取り出し俺の前に差し出した。
液体の入った紫色の瓶に触れると『解毒薬(通常)』と表示される。
「湿影の森は難易度の低い森ですが、毒を使うモンスターが出るので解毒薬を持っていてください」
「あの……でも、受け取るわけには――」
金が無いので受け取るわけにはいかないと、解毒薬を返そうとしたが、
「解毒薬は高いものじゃないけど……それでも受け取れないならクエストの報酬から差し引くってことでどうかしら?」
それは……正直助かる。
シエラさんも解毒スキルを持っているそうだが、戦闘中は何が起こるかわからない。
(もしかしたらこの解毒薬が、俺の生死を分けるかもしれない……)
俺はありがたく解毒薬を貰い、ストレージに収めた。
それからは二人と雑談をしながらゆっくり湿影の森へ向かう。
「報酬を多めにゲットしたら回復薬も買っておきたいですね」
「それなら調合してみるのはどう?ヒリング草さえあればお金もかからないしおすすめよ」
え……調合って誰でもできるものなのか?
てっきりサブジョブで選択しないとできないものだと思っていた。
「あの……調合ってサブジョブに就かなくてもできるんですか?」
クリスさんはストレージから釜のような物を取り出すと、それを地面に置く。
「これが調合用の錬金釜よ。これに材料を入れると自動で薬を生成してくれるの」
そう言って、クリスさんは再びストレージからアイテムを取り出し、錬金釜に入れる。
「今入れたのはスライム水とドクダの実よ」
二つのアイテムを入れられた釜はガタガタと震えると、やがて釜の中から煙が上がり一つのアイテムが飛び出した。
「はい、これ」
クリスさんは出てきたアイテムを俺の手の上に置いた。
差し出されたのは紫色の液体が入った容器。
アイテム名には『解毒薬(劣化)』と表示されていた。
「調合は誰でもできるけど、失敗することもあるわ。それにジョブだけど――」
クリスさんは一つ一つ丁寧に教えてくれた。
特にサブジョブについての情報は、かなり有益なものだった。
(適したジョブを取得すれば、通常より遥かに多くの恩恵を受けられる……か)
「あの、その釜はどこで手に入れられますか?」
「錬金釜ならダンジョンの宝箱か、バザーでも出品されてるわよ」
(ダンジョンか……調合は解体屋のジョブと相性がよさそうだし、できれば早めに手に入れておきたい)
しばらくして、俺たちは目的地である湿影の森に到着した。
道中、6匹のスライムに襲われたが、今の俺たちの敵ではなかった。
「さぁ、ここからは今までのようにはいかないわよ。注意して進みましょう」
「ユキトさん、ちょっといいですか」
シエラさんはそう言うと、突然俺の体に何かを吹きかけた。
「あまり効果はないかもしれませんが、お守り代わりです」
シエラさんは手に持った小瓶を見せてくる。
品質は低いが、低レベルモンスターが避ける効果があるそうだ。
クリスさんを先頭に、俺、シエラさんと続いて森を探索する。
湿影の森は木が鬱蒼と茂っていて陽があまり入ってこず、視界も悪い。
モンスターは現れないが、時折聞こえる獣の声に否応なしに緊張が高まる。
「あ、あれじゃないかしら」
クリスさんの指差す先には、依頼書と全く同じヒリング草が生えていた。
ヒリング草を手に取ると、間違いがないか確認をする。
(うん、ヒリング草で間違いない)
アイテム名を確認すると、俺はヒリング草をストレージに収納した。
周りを見渡すとヒリング草と思われる草がそこら中に生えていた。
「こんなに早く見つかるなんてツイてるわね、それもこんなにたくさん」
俺たちは手当たり次第、ヒリング草を摘んだ。
ゴトッ
たくさんのヒリング草に目を奪われ、突然投げ込まれたアイテムに反応が遅れた。
「ん?今なにか音が――」
異変を感じて振り返った、その瞬間――
野球ボール程の球体が突然ひび割れ、割れ目から赤い煙を大量に放出していた。
最初に動いたのはシエラさんだった。
「すぐにこの場所から離れます、急いでください!」
俺がわけも分からず固まっていると、クリスさんが俺の手を引き走り出す。
「説明は後、とにかく逃げるのよ!」
言われるがまま全力で森を走り抜ける。
「しぃちゃん今のって」
「はい、『紅魔煙』で間違いないです」
「紅魔煙?なんですかそれ――うゎっ」
俺の質問は、突然足を止めたシエラさんによって遮られる。
「ダメです、間に合いませんでした……」
シエラさんの悲痛な声と共に姿を現したのは、全長1メートルはある大きな蜘蛛だった。




