26話 リエアの街
「もぉ、ビックリしたわよ。いきなり武器を捨てるんだもの」
俺はドン引きしていた二人の誤解を解くために、ありのまま全て伝えた。
「それにしても、ユキトさんの検証が失敗に終わってしまって残念でしたね」
シエラさんが自分のことのように残念がってくれている。
しかし、何で失敗したんだ?
二回のテイム発動時の状況を考えても間違いないと思ったんだが……
まだ何か足りないのか?それともテイム自体がただの運任せなのか。
俺がテイムについて考えを巡らせていると、
「そのうちきっと答えが見つかるわよ。慌てないでゆっくり探しましょ」
そう言ってクリスさんは俺の肩をポンッと叩いた。
「さあ、着いたわ。ここがリエアの街よ」
「おぉ」
目の前の光景に思わず声が漏れる。
石畳の大通りには人々が行き交い、左右には大小さまざまな店が軒を連ねる。
呼び込みの声が飛び交い、喧騒が街全体を包んでいる。
俺はこの雰囲気に覚えがあった。
学校の帰り道、神社の境内でやっていた祭りの音だ。
田舎の小さい催しだったけど、みんな心から祭りを楽しみ周囲は活気に満ちていた。
(まぁ、俺は祭りに参加せず家でゲームをしてたんだけどな)
室内に届く花火の音と、かすかに聞こえる笑い声。
俺はその音が嫌いじゃなかった。
目の前の光景は全く違うものだ、でも――
(騒々しい……けど、嫌いじゃない)
* * * * * *
「さて……と、リエアに着いたはいいけど、どうしましょうか」
俺たちの取れる選択肢は二つ。
一つは、このリエアの街でクエストを受注し、金を手に入れること。
二つ目は、このまま必要なものだけ買い揃えて、神殿都市ルミナ=リエを目指すことだ。
今の俺は呪いの影響で、クエストに出てもあっさり死んでしまう可能性がある。
クエスト達成確率が下がるなら当然、先に解呪をするのが妥当だ。
しかしここで問題が発生する。
解呪をするには少なからず金がかかるのだが、俺はその代金を支払うことができない。
現在の持ち金は餌を買った残りの銅貨が5枚――50Gしか手元に残っていないからだ。
クリスさんたちは解呪の代金を代わりに支払ってくれると言ってくれたが、丁寧にお断りさせてもらった。
きっとクリスさんたちにとっては、解呪の代金なんてはした金に過ぎないのだろう。
それでも、たった1Gであったとしても、友人と呼べる彼らと金銭のやり取りはしたくなかった。
しかし納得できないからと言って、結局は彼らに迷惑をかける形になっている。
俺はそんな現状を少しでも打破するため、道具屋の前に立っていた。
店内に入ると、武器屋と勘違いしてしまいそうな筋骨隆々の店主が待ち構えていた。
「すみません、素材の買取をお願いします」
俺はカウンターの上に、討伐したモンスターの素材を並べていく。
店主はふんと鼻を鳴らすと、顔に似合わない丁寧な仕草でゆっくりと素材を持ち上げる。
「全部で銀貨5枚と銅貨が6枚、締めて560Gだ」
アルマクトやスライムはまだしも、手強かったルナールフの素材を合わせてもこれだけか……
店主は俺の不満が伝わったのか、頭をボリボリ掻いて素材を指差す。
「アルマクトの素材、こいつぁ狩りやすく加工にも向かねぇ。ルナールフは手強いが集団で現れることが多く、一度の持ち込みが多いから有り余っとる。そしてこれだ――」
店主はカウンターに置かれた、水風船のような水球を指さした。
「お前、解体のジョブ持ちか?スライム水はな純度100の超純水だが、普通なら取り出した瞬間劣化しちまう」
そうだったのか、でも俺の解体屋なら取り出したアイテムの状態を一定時間保つ事ができる。それだったらすぐ劣化するこいつだって――
「お前が使う分にゃ問題ない、でもなお前が所有権を渡しちまった瞬間、こいつはただの水になっちまう」
なるほど、俺の所有物だけがスキルの恩恵を受けることができるが、売却をすると所有権が譲渡されスキルの効果もそこで途切れる……そういうことか。
「つーわけで、スライム水は銅貨1枚だ。水筒代わりにはなるからな」
俺は全ての素材を売却した。
これで俺の所持金は610Gになった。
「ていっても、これじゃ全然足りないよなぁ……」
解呪の代金は2,000G、まだ半分も貯まっていない。
「ゆっくーん」
突然、背後から呼びかけられる。
振り返ると、クリスさんが手を大きく振りながらこちらに近づいてくる。
「どう?素材は高く売れたかしら?」
「うーん、あまり大した金額にはなりませんでした」
クリスさんは残念がってくれたが、すぐに表情が明るくなり一枚の紙を差し出してきた。
「ゆっくんが素材を売ってる間にめぼしいクエストがないか見てきたわ。そ・れ・で、これなんていいんじゃないかしら」
紙には『採取依頼』と大きく書かれ、難易度を示す☆の数は一つ。
「ヒリング草……ですか」
「ええ、報酬は銀貨5枚で多くはないけど、他の素材も一緒に採取して売ればそれなりにはなると思うの」
なるほど、確かにそれならある程度の金額を確保できるかもしれない。
それにこの依頼ならモンスターと無理に戦う必要はない。
呪いを受けた俺にピッタリの依頼だ。
(何から何まで気を使ってもらって、申し訳ないけど……ありがたいな)
「あれ?そういえばシエラさんは……一緒にいたんじゃなかったんですか?」
別行動になった時、シエラさんはクリスさんと一緒だった。
それなのに、今はクリスさんの姿しか見えない。
「あぁ、しぃちゃんなら買い出しに行ったわ。多分そろそろ――あ、噂をすれば」
クリスさんの視線を追うと、シエラさんがこちらに向かって走って来る姿が見えた。
シエラさんと合流した俺たちは、初めての依頼クエストへ向かうため、街を後にした。




