24話 呪いと解呪
あの後、楠木さんは特に何を言うわけでもなく、淡々と仕事をこなしていた。
ただ、帰る間際に、
「中野さん、きょ、今日はありがとうございました」
そう言って楠木さんは、俺に初めて笑顔を見せてくれた。
(少しは打ち解けてくれたってことでいいのかな……)
今日はクリスさんたちと待ち合わせをしているので、仕事は明日に回して定時で上がった。
帰り道、いつものように晩御飯を買いにコンビニに立ち寄る。
「いらっしゃいま――って、おじさんじゃん!」
ギャルは俺を見ると、声を上げてこちらに駆け寄ってくる。
「えーっと、こ、こんばんは」
「おじさん、昨日は急に帰るなんてひどくない?聞きたいことあったのに!」
やっぱり、俺に何かを聞こうとしていたのか。
昨日はあれ以上関わりたくなくて、すぐに帰ったから聞く余裕なんてなかったな。
「すみません。それで、話したいことって何ですか?」
「あ、えっとね。おじさんあの雑誌に載ってたゲームやってるんだよね?」
あの雑誌?昨日見てたヴァルセリア・オンラインのことが書かれた雑誌か。
「え、えぇ。たしかに最近始めましたね。でもそれが何か?」
「あの……さ、わたし昔は結構ゲームしててね、それでちょっと興味あったんだ」
ほんと見た目によらないというか……ゲームやるんだな。
「でもオンラインゲームはやったことなくて、ちょっと一人でやるのは不安っていうか……」
なるほど、確かにオンラインゲームは知らない人とプレイをするし、知ってる人がいたら心強いのかもしれないな。
「だからもしよかったら一緒に――」
「お断りします!」
彼女は断られるとは思っていなかったのか、固まって動かない。
俺は一歩二歩と後退し、音を殺してその場を去ろうとした――が、後ちょっとのところで腕を捕まれた。
「ちょっ、なんでダメなの!意味わかんない!?」
意味わかんないのはこっちの台詞だ!何で俺なんだよ。
「そういうのは友達に言ってください――」
「じゃあいいいじゃん!うちらもう友達でしょ!」
「はぁ?なんでそうなった!?友達になった覚えはねぇ!」
「おじさん私のこと助けてくれたじゃん?お礼言ったじゃん?もう友達じゃん!!」
こいつどういう思考回路してんだ!?
ダメだ、これ以上関わるとろくなことにならない気がする。
「と・に・か・く、一緒にはやらない、諦めてくれ」
彼女は「なんだよ、ケチ!」と言って、ようやく諦めてくれたようだった。
「じゃあ、せめて名前くらい教えてよ」
そう言えば、俺はこの子の名前すら知らない。
(それで友達とか言ってたのかよ……ほんとすげえな)
断ろうとしたが、絶対にめんどくさいことになる予感しかしなかったので、素直に教えることにした。
「中野……行人だ」
「ゆきと……じゃあユッキーだね!わたしは愛多 愛って言うの。ヨロシク~」
俺は家に着くと同時に、布団に倒れ込んだ。
正直、あの後のことはよく覚えていない。
自己紹介をした後も、愛多は何か喋り続けていたが、俺の頭の中は帰ってゲームがしたいということでいっぱいだった。
「っあ゛~、何だったんだあいつ……疲れたぁ」
あまり積極的に人と関わらないせいか、精神的な疲労がすごい。
(でもいつ以来だろうな、あんなふうに素で人と接したのは……)
「ま、別にいいか。それよりそろそろ約束の時間だし、さっさとやるか!」
ゲームにログインすると、すでに待ち合わせた人物がいることに気づいた。
「すみません、お待たせしてしまって」
俺はすぐ謝罪したが、「わたしたちも今来たところですよ」と言って、シエラさんは優しく迎えてくれた。
「さっそくリエアへ向かいたいけど、まずはゆっくんの回復が先ね」
クリスさんの言葉で自分のHPゲージを確認してみると、HPが半減していることに気がついた。
どうやら先日の敗北で村に死に戻りしたはいいが、死ぬとHPが半減して復活するらしい。
「回復なら任せてください!」
シエラさんが呪文を唱えると、俺の体が緑色の光に包まれる。
(回復魔法か、支給された回復薬はとっくに使ったしほんとに助か――って、あれ?)
体から緑色の光が徐々になくなっていくが、俺のHPは全く回復していなかった。
「え、なんで?なんで効かないの!?」
シエラさんが再び回復魔法を掛けてくれたが、俺のHPに変化はなかった。
「こんなこと初めてだわ……ゆっくん、ステータスを確認してみてくれないかしら」
クリスさんの指示に従って、俺はステータスを確認した。
「特に変わったものは――ん?」
ステータス欄には、『スライムの呪い』とはっきりと書かれていた。
スライムの呪いと聞いて真っ先に思い浮かんだのは、先日戦ったスライムだ。
しかしまともに攻撃を受けたのは一度だけだし、呪いのような特殊な攻撃を受けた記憶もない。
「スライムの呪い……聞いたこと無いわねぇ」
俺はスライムと戦ったこと、テイムを受け入れなかったことを素直に話した。
「うーん、特におかしいことは無いと思うんだけど……ゆっくん、他に何かなかったの?呪いってことは何か恨まれるようなことをしたとか」
恨まれる?
スライムを恨んでこそいるが、恨まれるようなことなんて――
「あのぉ、テイム画面が出てきた時、選択肢を無視して無抵抗な相手にいきなり切りかかっちゃったんですけど……まずかったですかね?」
「断定はできないけど、その可能性はあるかもね……あっちは降伏したようなものなのに、急に斬りかかるなんて、ねぇ」
クリスさんは「まぁ、私は強引なのも嫌いじゃないけど」と、ウインクをしながらよくわからないことを言っていたので聞かなかったことにした。
「でも、困ったわね。さっきからしぃちゃんに解呪魔法をかけてもらってるけど効果はないみたいだし」
「お役に立てずすみません。私の魔法じゃその呪いは解呪できないみたいです」
呪いが解けない。あまりの事実にショックを隠しきれなかった。
そんな俺を見て、クリスさんが口を開いた。
「大丈夫よゆっくん、その呪いを解く方法に心当たりがあるわ」
「そ、それってどうすればいいんですか!?」
「リエアの街からさらに北、神殿都市『ルミナ=リエ』で儀式をするのよ」
神殿都市、如何にも呪いに効きそうな気がする。
「ただ神殿都市に行くなら準備もあるし、道中にあるリエアには立ち寄ったほうがいいわ」
クリスさんはそう言うと、「リエアへしゅっぱーつ」と言って、俺たちは改めてリエアの街を目指した。




