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22話 硝子の盾

スライムからの奇襲に最初は驚いたが、所詮はスライム、もう俺の敵じゃあない。


スライムの突進は確かに早いが、軌道が直線的な分、対処もしやすい。

俺はスライムの軌道上に盾を構えて被弾を防ぐ。

そして、盾にぶつかり勢いがなくなったスライムに追撃を加える。


この攻防を二回繰り返し、俺のHPは1割、やつは8割を失う結果となった。


盾から伝わる衝撃は、もうあの時ほどの脅威はない。

あと一撃、そう確信できるほどの力の差が、そこにはあった。


スライムは観念したのか、攻撃する素振りも見せずその場に留まっている。


「どうした、もう諦めたのか?」


スライムは未だ動かない。俺はトドメを刺すためにゆっくりとスライムに近づいた。


ピコンッ


通知音と共に突然画面に文字が現れる。


【テイム条件を達成しました。個体名[スライム]をテイムしますか?】


           【はい】  【いいえ】


「まじかよ……ここにきて、お前……」


まさかのタイミングでテイム可能になったスライム。

ピコ同様、最弱の部類のモンスターであるスライムだが、今の俺にとっては貴重な戦力になる可能性がある。

それに小説なんかだと最弱のスライムが実は強かったり――なんてこともあるかもしれない。


「よし、決めた!」


俺は選択画面をタップ――することなく、スライムに剣を突き刺した。


「だーれがお前なんぞを仲間にするか!」


戦力?利を得る?

それが何だ――


俺はお前がだいっっ嫌いだっ!!


「はぁ、はぁ……すぅぅはぁぁ」


興奮しすぎて荒くなった呼吸を深呼吸で落ち着かせると、先程のスライムの行動を思い返す。


(テイムの条件ってなんなんだ?スライムとピコ、どこかに共通点でもあるのか……)


HPを一定以上減らすのはほぼ確定だろう。

実際ピコもスライムもHPがある程度減ってからテイムできた。


ただこれだけなら他のモンスターもテイムできてるはず……

あとは――


「戦闘継続の意思……か?」


ピコもスライムも、テイム直前には攻撃の意思を見せていなかった。


つまり――戦闘を続ける意志が消えた瞬間。

それがテイムの条件なんじゃないのか?


緊急メンテまでの時間は残り15分、ぜひ検証してみたい!

もしこの考えが正しかったらテイマーの革命が起こるかもしれない。


残り時間を考えてもチャンスは一回、周りをぐるりと見回すがモンスターの気配はない。


「ピコ、今度は前にでなくていい、モンスターのいる場所だけでもわからないか?」


ピコは興味がないと言わんばかりに一切反応せず、こちらに顔を背けている。


(さっきのこと、相当怒ってるな……)


先程の戦闘で好感度が下がったのか、ピコはこちらの要求を聞く気配が一切ない。


「ピコよぉ、さっきの飯美味かったか?」


ピコの耳がピクリと動いた。


「もし言うことを聞いてくれるなら、さっきのをあと二つやるって言ったらどうだ?」


ピコはこちらに向き直り、頬を擦り付けてくる。


(ここまで露骨だといっそすがすがしいな……)


俺はピコにモンスターの餌を与えた。

するとピコは普段垂れている耳を立たせ、顔を左右に動かしている。


それから少しすると、ピコの鼻がヒクヒクと動き、突然ものすごい勢いで駆け出した。


俺は必死に後を追いかけ、元いた場所から数百メートル離れた場所でピコは動きを止めた。

ようやくピコに追いつくと地面に伏して、ピコの視線の先を恐る恐る確認する。


(透明な……蝸牛かたつむり?)


視線の先に捉えたモンスターは、薄く青みがかった透明な殻を背負うナメクジのようなモンスターだった。


周りに身を隠せそうな障害物はなく、かなり遠い位置にいるので個体名はわからない。


(見た感じ、スピードは無さそうだが――)


ダメだ、この距離じゃ何もわからない。

俺は観察を切り上げゆっくりと蝸牛へ近づいた。


ようやくはっきりと蝸牛を視認することができ、個体名が判明した。


【グラスネイル】


(グラスネイル……グラ、グラス……あ、硝子か)


あの殻は硝子でできているのか?

……それなら防御力も大したことないはずだ。


そんなことを考えていると、相手も俺の存在に気づいたようでこちらを向く。


「おっそ!」


グラスネイルはこちらに気づいてはいるが、一つ一つの動作が遅い。

こちらに向き直るのにも時間が掛かっている。


硝子の殻を持つ鈍足なナメクジ。


(こいつ、もしかしてスライムより弱いんじゃないか……)


俺が近づいてきても、そのスピードは変わることなく何の脅威も感じない。


「もしかして、ボーナスキャラってやつか?それならちょうどいい、検証に付き合ってもらうぞ」


俺は銅の剣を鞘から抜き、攻撃の届く範囲に足を踏み入れ――ることなく、俺の体は宙を舞った。


またこのパターンか!

何でだよ、あの体でどうやって攻撃した?


いや、それより今のでHP6割も持ってかれたのか!?

あのスライムの突進でも1割しか減らなかったのに、こいつどうやって――


慌てて体を起こしグラスネイルに視線を向けると、背負った殻を不規則に振り回している。

殻が通り過ぎる度、土埃が舞い、小石が弾け飛ぶ。


(ど、胴体を軸にして、あの殻を動かしてるのか!?)


くそっ、完全に油断した。

動きが遅くてもあれじゃ容易に近くづくことすらできない。


――いや、近づく必要はないのか?

グラスネイルはさっきからその場を動いていない。

元々の鈍足に加え、あの攻撃は体を軸にする分、動きは制限されるはずだ!


俺は近くにあった小石を拾い集める。

少しでもダメージを与えられれば御の字だが、最悪注意を逸らすだけでも――


俺は振りかぶって手に持った石を全力でグラスネイルに投げつけた。

すると、グラスネイルの殻で全弾は当たらなかったものの、いくつかは本体に命中した。


一瞬グラスネイルの動きが止まり、同時に殻の攻撃も止まる。


グラスネイルのHPは1割も減っていないが、わずかにダメージを与えることができた。

持久戦になっても構わない、メンテ開始まで投げ続ける覚悟で再び石を拾い始める。


それを見ていたグラスネイルは、完全に殻の攻撃を止め、こちらを伺っている。


「石の補充完了、こっから反撃開始だ!」


俺は再び石を投擲する。

グラスネイルは素早く体を殻の中に引っ込め、防御態勢を取った。


飛来した石は殻に当たり全て弾かれる。


「そうだよな、殻があるならそうするよなぁ!」


俺はこの展開を読んでいた。


グラスネイルの見た目は完全に蝸牛だ――なら殻に籠もるのは目に見えている。


予想は的中し、俺は殻に籠もったグラスネイル目掛け全力で走る。

そしてすかさず銅の剣を上段に構え、一気に振り下ろす――


しかし振り下ろした剣は、殻に傷をつけることなく弾かれる。


「かってぇ!」


弾かれ態勢をくずしそうになるがなんとか踏ん張り、追撃を試みる。

だが攻撃を受けたグラスネイルも殻から身を出し、攻撃態勢に入る。


グラスネイルが攻撃に移るより早く、俺は刃を振り抜いていた。


いける!

剣がグラスネイルに当たった瞬間――勝利の瞬間が頭をよぎった。

しかし、俺の喜びも虚しく剣はグラスネイルの体をなぞるように滑り、刃はそのまま地面を叩いた。


(なっ!?)


次の瞬間、グラスネイルの強烈な振り回しを受け、俺は再び宙を舞った。

それと同時に画面は真っ暗になり、緊急メンテナンスの文字だけが残った。

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