21話 仏の顔もなんとやら
「はぁ、これからどうするかなぁ」
ルナールフの討伐に成功したものの、ピコの特性を活かした奇襲作戦は本人の怒りを買い今後の使用を控えるしかなかった。
そりゃあ多少よくないかなとは思ったけどさ……でもピコの特性を活かしたいい作戦だと思ったんだよ。
ピコならスキルで逃げられるし、近くには俺が待機してるから万が一の時は予備に買ったモンスターの餌を投げて逃げることだってできる。
最悪、俺が囮になることも考えた。
「モンスターテイマー、ハードモード過ぎるだろ……」
ピコを死なせるわけにはいかない。
しかし戦闘に参加させないとメインジョブのレベルが上がることはない。
モンスターテイマーのジョブレベルは、テイムしたモンスターの経験値によって上昇する。
仮にモンスターが死亡した場合、復活させるか新たなモンスターをテイムしなければレベルは一生上がらない。
つまり、まともな戦力にならないピコだけの現状では、スキルレベルを上げることはかなり厳しいと言える。
ただでさえ俺には他の問題も残っているというのに……
「はぁ、とりあえずルナールフの剥ぎ取りでもするか」
俺はルナールフに手を伸ばし、体に触れると、
『ルフの牙』×1/『ルフの尻尾』×1
【サブジョブのレベルが上がりました】
[サブジョブ:解体屋Lv.2]
解体報酬の鮮度アップ:ストレージから出した素材の鮮度を一定時間保つ
「は?」
思わず声が出てしまった。
いやいや、何だこのスキル。鮮度を保ってどうするの?
俺はスキル効果を確かめるために、ルナールフの素材をストレージから取り出した。
討伐報酬であるルフの牙はストレージから出して10分後に『劣化したルフの牙』に変化した。
一方のルフの尻尾は10分たっても何も変化は訪れなかった。
「なるほど……いや、これ完全に没スキルだろ!」
そもそも素材をストレージから出す意味がないし、仮に素材を出す機会があったとしても10分以内に処理すればいいだけだ。
「くそぉ、おすすめに出ないわけだ。なんなんだよこのジョブはよぉおおおっ!」
俺の悲痛な叫びは虚しくフィールドにこだまし、やがて虚空の塵となった。
「はぁ、まあ嘆いても何も変わらんよな。せめてクリスさんたちと合流する前にレベルでも上げておくか」
ジョブレベルを上げることは難しいが、ステータスに関するキャラクターのレベルは上げることができる。
とりあえずステータスだけでも上げておけば、いくらか冒険が楽になるはずだ。
ピコンッ
突然通知音が鳴ると、画面上部にメッセージが現れる。
件名:【緊急メンテナンス】[ヴァルセリア・オンライン] 不具合修正に伴うサーバー停止のお知らせ
現在、ゲーム内において不具合が確認されており、修正対応のため緊急メンテナンスを実施いたします。
■ メンテナンス日時
[30分後] ~ [21時]
※状況により、終了時刻は前後する可能性がございます。
「今日は厄日か?」
突然の緊急メンテ、俺はやる気を無くしその場でログアウトを実行した。
ログアウトは非戦闘エリアの場合、即刻ログアウトが可能になるが、戦闘エリアでログアウトする場合は事情が変わる。
「一分って結構長いよなぁ」
戦闘エリアの場合、待機状態で一分経過しないとログアウトすることができない。
もちろんその間もモンスターは活動するし、襲われることもある。
これは戦闘中負けそうになった場合の不正ログアウトを防ぐためのものだ。
もし強制的に電源を落とそうとした場合は相応のペナルティを課されるらしいので、誰もやろうとはしないらしい。
(よし、残り10秒。9・8・7・6――)
特に問題なくログアウトを完了できると思った瞬間、背後から突然奇襲を受ける。
突然の攻撃に驚いたが、アルマクトの盾のおかげでHPの一割を失うだけで済んだ。
奇襲をかけてきた物体は、ざまあみろと言わんばかりにその場で勢いよく弾んでいる。
俺はその場で深く深呼吸をした。
よし、俺は落ち着いている。
HPだって対して減っていないし、ログアウトを邪魔されたのだって大したことじゃない。
おっさんこんなことで怒らない。
よーし、俺は冷静、至って冷静だ。
目の前にいるモンスターを見て怒りが込み上げてきたが、自分を抑えるための深呼吸でどうにか落ち着きを取り戻した。
すると、目の前のモンスターから飛来した液体が顔にかかる。
どうやら自分の体液をかけてきたらしい。
「そっかそっか、そんなに俺と遊びたいか。よーくわかったよお前の気持ち」
常に冷静に、大人の余裕、仏の顔も三度まで……
初めてのタックル、あれでHPの四割失ったっけ。
そういえばサブジョブの選択、あれも君が原因だったね。
あと数秒でログアウトできたのになぁ。
そして今の挑発的な攻撃。
そっか、もう四度目か――
「◯ぬ覚悟はできてるんだよなぁ?この水まんじゅうがぁああっ!!」




