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15話 絶望と言う名の戦い

「ど、どうしましょう。ピコちゃんがどこにもいません!」


シエラさんは慌てふためいて、周りをキョロキョロ見回している。


「まあまあ、シエラさん一旦落ち着いてください」


「落ち着いてって、ピコちゃんいなくなっちゃったんですよ。ユキトさんは心配じゃないんですか!?」


シエラさんの言うことはもっともだ。

ピコの弱さを考えれば何が起こってもおかしくない。

普段の俺ならシエラさん同様、慌てふためいていたと思う。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。あいつが無事なのはわかってます」


俺が落ち着いていられた理由――それは、ピコの存在を証明する赤い点がマップ上に映し出されているからだ。


マップを見るとピコは俺達から数百メートル離れた場所にいるようだ。

(というかあいつ主人を放って何やってんだ?)


「今マップで確認しました。すごい速度でこっちに戻って来てますよ」


俺はシエラさんを安心させるため、ピコの現状を伝えた。


「ちょっと待って、ピコちゃんすごい速さで戻ってきてるの?それって――」


クリスさんが何か口にしようとした瞬間、ピコが姿を現す。


「お前、ご主人様を放っておいてどこ行ってたんだよ」


俺がからかうように言うと、ピコは「キュ、キュゥゥ」と嬉しそうに鳴いた。

なんだかんだで可愛いよなこいつ。必死に走ってきて、俺に擦り寄ってくるなんてさ。


俺はピコの愛くるしさに癒やされていると――突然、足元の映像がわずかに乱れた気がした。

(何だ?今なにか違和感が――)


周りを見回すが特に変化はない。

しかし先ほどとは明らかに何かが違っている。


俺は周囲の音に耳を澄ませると、風の音に混じって何かノイズのような音が紛れていることに気づいた。

ノイズはピコがいた方角、小高い丘の向こうから聞こえてくる。


「クリスさん、シエラさん、何か――」


俺が二人に声を掛けた時にはすでに状況は一変していた。

地面はわずかに揺れ、小高い丘の向こうから何かが走ってくる音が聞こえる。

それは一匹や二匹ではない、複数の足音が重なって近づいてくる。


そして遂に音の正体が姿を現す。


「うそ……だろ」


そこには俺のトラウマともいうべきモンスター、フォレストゴブリンの姿があった。

フォレストゴブリンとの距離はまだ大分あるが、あきらかに相手はこちらに気づいている。


「ちょっと洒落になってないわね」


「クリスさん、リーダーの権限を移すにはどうしたらいいんですか!?」


ゴブリンの数は10匹、二人がいくら強いといってもあの数が相手じゃどうなるかわからない。

けどリーダーの権限さえ渡せれば、二人は本来のレベルで戦うことができる。


「それは無理ね、相手がもう戦闘態勢に入っちゃってるもの」


二人は俺に付き合ってくれただけ、そんな人達を俺のせいで死なせるなんて絶対にごめんだ!


俺は手当たり次第にステータスを確認した。


攻撃力は低い。期待できない。

防御は盾込みで多少マシだが、10匹相手じゃ焼け石に水だ。


――使えるものは、ない。


【モンスターテイマー:レベル2】

【解体屋:レベル1】


(くそ、何か役に立ちそうなもの――ん?今なにか……)


メインジョブのレベルが上がってる?

さっきの戦いで上がったのか?いや、そんな事は今どうだっていい。

この状況を打破する何かがあれば――


俺はすぐさまメインジョブの項目をタップし、モンスターテイマーのスキル欄を表示させる。

レベル1:テイム

レベル2:生態把握


レベル2の生態把握はうっすら黒く表示されていて、それはまだ機能が有効になっていないことを現していた。


スキル【生態把握】の取得条件が解放されました。取得しますか?


         【はい】 【いいえ】


生態把握せいたいはあく】モンスターの生態(生息地・特性)を把握する。


何だこのスキル?全然役に立つ気がしない!

それでもないよりはマシと思い、俺は藁にも縋る思いで生態把握を取得した。


モンスターの生態を把握するってなんだ?レベル2のスキルに期待した俺が馬鹿だったのか……


その時、小高い丘にいた一匹のフォレストゴブリンが雄叫びをあげた。


「ギギャァァアアア!!!!」


それが合図だったのか、ゴブリンは雄叫びに呼応し一斉に丘を駆け下りてこちらに向かってくる。

(今、一瞬何か見えたぞ!くそ、どうやったんだ!?)


「ゆっくん、私と前衛になってしぃちゃんを守って!しぃちゃん支援をお願い」


クリスさんの的確な指示に、俺の体は何の抵抗もなく動いた。

ゴブリンとの距離はもう100mもない。


そんな時、群れの中の一匹のゴブリンに目が止まった。

(あの時雄叫びをあげたゴブリン、もしかしてあの群れのリーダーなのか?)


目を凝らした瞬間、視界の隅に文字が浮かび上がる。


【フォレストゴブリン】

生息地:木漏れ日の森

特性:【頭目依存】

群れのリーダーに従い行動する


(さっき見えたのはこれか!?)


あいつらは木漏れ日の森のゴブリン……と言うことはもしかして昨日のやつらか!?

いや、今はそんな事考えてる暇はない。


それより重要なのはこっちだ――これが本当なら、まだ勝ち目はある!


「クリスさん、あいつらはリーダーの指示にしたがって行動するんですか?」


「いいえ、そんなの聞いたこともないわよ。フォレストゴブリンは複数で襲ってくる。それだけしかわからないわ」


どうする……俺の読みが合ってればまだ勝てるかもしれない。

でも違ったら――


「ユキトさん、大丈夫ですか?」


俺が不安になっていると思ったのか、シエラさんが声を掛けてくれる。

このままじゃどのみち勝つ見込みは薄い。

それなら――


「クリスさん、説明している時間はありませんが、力を貸してくれませんか!」


クリスさんは俺の鬼気迫る物言いに一瞬たじろいだが、すぐにいつもの調子で答えた。


「何か考えがあるのね。わかったわ、思う存分やっちゃいなさい!」


クリスさんはこの緊迫した状況を和ませる為か、ウインクをして応じてくれた。


「癒やしの力よ【レア】」


シエラさんが呪文のようなものを唱えると、俺の体は緑色の光に包まれた。


「少しの間体力が回復します。ユキトさん頑張ってください!」


シエラさんの言葉に無言で頷くと、俺は二人を背に全力で駆け出した。

ゴブリンのいない方向へ走ると、背の高い草が生い茂った場所で身を潜める。


(獲物が単独で逃げれば一、二匹くらいは付いてくると思ったが――)

ゴブリンは俺に目もくれず、数の多いクリスさんたちの方へ一直線に向かっている。


ゴブリンの隊列はバラバラで足並みは揃っていない。

ただそんな中でも、他のゴブリンより一歩引いた位置を維持して走っているゴブリンがいた。


(あいつだ!)


俺はゴブリンめがけ、全力で走った。

ゴブリン達は目の前の獲物に釘付けで、まだ俺に気づいていない。


(まだだ、まだ気づくんじゃねえぞぉっ!!)


俺は走りながら前傾姿勢の状態でアルマクトの甲羅を前に構える。

(お前の技、真似させてもらうぞ)


一匹のゴブリンがようやく異変に気づき視線を向けるが、もう遅い。


「部下の後ろに隠れて甘い汁ばっか吸いやがって、このクソ野郎がぁぁぁっ!」


アルマクトの突進を真似た、全速力ダイブがゴブリンリーダーに突き刺さる。

走った勢い+俺の全体重を乗せた奇襲に、ゴブリンリーダーはなすすべなく吹っ飛んだ。


俺も無事ではなかったが、HPを2割失う程度で済んでいた。その2割もシエラさんの回復魔法で今はほとんど回復している。


一方のゴブリンは俺の攻撃でHPの4割を失い、他のゴブリンはリーダーからの指示が途絶えたことで、困惑し動けないでいる。

ゴブリンリーダーはゆっくり立ち上がると、その体は小刻みに震えていた。


「ギャアギャァァアアア」


凄まじい雄叫びと共に、ゴブリンリーダーはこちらめがけて突っ込んでくる。


手に持った棍棒を大きく振り上げ、怒りに任せて振り下ろす。

俺はそれを盾で受け止めるが、あまりの衝撃に膝をついた。


(相手の迫力に反応が遅れちまった。そろそろ他のゴブリンも動きそうだってのに、どうする――)


ゴブリンリーダーの攻撃は大振りな分、盾で防ぐことはできている。

しかし縦横無尽に繰り出される攻撃に、俺は近づく事ができないでいた。


お互いが決め手を欠いた攻防を繰り返す中、目の前のゴブリンリーダーが一瞬笑ったように見えた。


咄嗟に背後を振り返ると、一匹のゴブリンが両手に持った棍棒を頭上高く振り上げていた。


(くそっ、俺が手間取らなければ……二人ともすみません――)


ゴブリンの一撃が俺に届こうとした瞬間――


「シィィルドラァァアッシュ」


背後のゴブリンは盾を利用した強烈な体当たりによって吹き飛ばされていた。


「遅くなってごめんなさい。援護するわ!」


絶妙なタイミングで現れたクリスさんは、そのまま手下のゴブリン達に向き直り牽制している。


横槍が入らなくなったのはいいが、このままじゃジリ貧だ。

クリスさん達も頑張ってくれているが、いつまでも足止めできるとは思えない。


(何かあいつの注意を一瞬でも逸らす事ができれば――)


くそっこんなことなら石の一つでも拾っておけばよかった。

石を拾ってる暇もないし代わりになるものなんて――


いや、一つある!

俺が今持っていて、ゴブリンリーダーに投げつけられる唯一のもの。


でもこれは、これだけは使いたくない。だってこれは俺の――


俺は他に方法がないか必死に考えた、しかし後ろからゴブリン達の声が聞こえてくる。

おそらくリーダーを助けようとしているのだろう。早くしないとクリスさん達が危ない。


「うぅ、クソ……クッソがあああぁぁああ」


俺は手早くストレージを操作し、目当てのものを出現させる。

ショートソードを左手に持ち換え、右手を握り込む。


「これでも――くらいやがれっ!!」


俺が全力で投げた――全財産1,000G、右手に握り込んだ銀貨10枚は物凄い勢いでゴブリンリーダーの顔に命中した。

その内の一枚は右目に直撃し、ゴブリンリーダーは右手に持った棍棒を手放し目を覆う。

俺はその隙を見過ごすことなく、素早く懐に潜り込みショートソードをゴブリンリーダーの左胸に突き刺した。


急所を刺されたゴブリンリーダーのHPはあっという間に0になり、その場に崩れ落ちる。

リーダーを失った手下ゴブリンは、散り散りになりながら逃走していった。


「ゆっくんやったわね!……って、あら?」


(俺の銀貨……少ない金額だったけど、あれは俺の全財産だったんだ――)


「ちょっと、ゆっくんどうしたの?だいじょう――」


「ユキトさーん」


クリスさんが喋り終わる前に、シエラさんが大声を上げてこちらに向かってくる。

俺の元に到着すると、シエラさんは俺の顔を真っ直ぐ見据える。


「頑張ってとは言いましたけど、あんなことするとは思いませんでした。危ないじゃないですか!」


ここからシエラさんのお説教タイムが始まった。

俺の事を心配してくれているからこそのお説教だ。俺は正座をして彼女の言葉を胸に刻んだ。


しかし――アバターとは言え、おっさんが若い女性に説教されている図はなんとも言えないものがある。


「しぃちゃん、ゆっくんも頑張ったんだからそれぐらいにしといてあげなさい」


クリスさんからの助け舟に、シエラさんは渋々といった感じで口を閉ざした。

※用語整理のため、今後はアイテム・装備の保管場所を「ストレージ」、装着・切り替え操作を「装備画面」と表記します。

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