14話 解体屋
初めてのパーティ戦は、いろいろと衝撃的だった。
「ユキトさん、大丈夫ですか!?」
あまりの出来事に少しの間、放心状態になっていると、シエラさんが心配して声を掛けてくれた。
「あ、いえ……すみません、いろいろ驚いてしまって」
俺の様子にクリスさんも「やだ、大丈夫?」と言って心配してくれたが、俺は少しだけ冷静になった頭をフル回転させてようやく疑問に思った事を口に出した。
「あ、え……えっと、クリスさん、俺があれだけ手こずったアルマクトの攻撃を一体どうやって――」
クリスさんは少し気まずそうな顔をした後、俺の質問に答えた。
「ちょっと言いづらいんだけど、ゆっくんはユニア村には行ったことないのよね」
ユニア村?
ああ、案内板に書かれてた村か。
そういえば、俺このゲームでまだどこの施設にも立ち寄ってないな。
「それでね……そのぉ、アルマクトはユニア村で揃えられる装備で簡単に倒すことができるのよ……」
ほうほう、なるほどね……。
いや、俺も初期村の重要性はわかってますよ?
でもね、最初から手元にあったお金は次の村で消費しようと思ってたんです。
俺の貴重な全財産1,000Gの事を考えると、ユニア村に行かない選択肢は間違ってなかったと思うんだよな。
「あ……そうなんですね。でも最初にもらえる1,000Gを次の村で使うって選択肢もありですよね?」
俺の言葉にクリスさんとシエラさんはさらに気まずそうな顔をして、こちらを伺うように見ていた。
「えっと……ユキトさん。ユニア村で貰える、銅の剣と盾は――」
ん?買うじゃなくて?今、貰えるって言った?
「村長さんに挨拶すると、タダで貰えるんです……」
俺はその言葉を聞いて、膝から崩れ落ちた。
フォレストゴブリンから始まって、スライム、アルマクトとの死闘を繰り広げた苦労は、一体何だったんだ……
いや、それこそ自分の選んだ道だし、これこそRPGの醍醐味と言えるんじゃないか?
簡単な道を選ばず難敵とのバトルに勝利する。その実感を得られれば何も言うことはない。
ただ、今回は介護プレイでの初勝利だけあって、素直に喜ぶことなんてできない。
あぁ、なんで初期村に行かなかったんだ……俺も銅の武器欲しかった。
「それとね、アルマクトは初心者でも簡単に倒せる割に経験値もそこそこ貰えるから初めての相手として人気があるのよ」
え?あいつここらじゃ雑魚扱いなの?
てっきりこのフィールドの中じゃ、かなりの強敵だと思ってたんだけど……
クリスさんのさらなる追撃に俺の心は崩壊寸前だった。
「だからね、アルマクト対策もしっかり確立されてて、アルマクトの突進してくる場所に盾を斜め↗に構えると、突進の軌道が下にズレて地面に激突するってわけ」
あいつ、そんな簡単にやられちゃうの?
いや、実際に見たけどさ……
そりゃ初心者にうってつけの相手にもなるよな。
だって今ので俺のレベル、2に上がってるもん。
あんなに簡単に倒せて経験値100も貰えるとか美味しいよね。
俺は力を振り絞って立つと、動かなくなったアルマクトの体に触れた。
(討伐報酬はアルマクトの爪か、そして解体報酬は――)
俺はアルマクトの解体報酬を見ると、すぐさま装備画面を操作し、木の板があった場所をタップする。
「あら、それって――」
俺の左手には新たな盾、アルマクトの甲羅が装備されている。
木の盾は防御力+1、それに比べてアルマクトの甲羅は+10もある。
この数値が大きいかはわからないが、新しい装備はやっぱりわくわくするもので、先程の落ち込んだ気分が嘘のように気分が高まっている。
「珍しいわね、通常なら解体報酬なんて血とか肉ばかりなのに」
クリスさんの発言から、この盾はそこそこレアなものらしい。さらにテンションが上がる情報に俺は気分がどんどん高まっていく。
「あ、それは俺のサブジョブが解体屋だからかもしれませんね――」
俺の発言に、ピシッと空気が凍りついたような静寂が一瞬訪れる。
「あ、あの俺またなにかやっちゃったんですかね……」
また俺は何かやらかしたのか?いや、わかってるこの流はきっとあれだ――
「しぃちゃん、私これ以上彼を傷つけたくない!」
あぁ、やっぱり俺これから傷つくんだ……
「あのあの、二人ともそんなに落ち込まないでください。解体屋だって悪いジョブじゃないんですから」
シエラさんは精一杯の慰めの言葉を送ってくれるが、どうしたってこの流れは解体屋が使い物にならないジョブだと言うことを物語っていた。
俺の意気消沈ぶりに、シエラさんは慌てて言葉を続ける。
「解体屋はレベルを上げれば、解体報酬が増えますし、今みたいにレアな素材も手に入れる確率が上がります」
それだけ聞けば、俺の選択は間違っていないように思える。
「ただですね、その素材を買ってくれる人が少ないってだけで――」
モンスターの解体報酬は、基本的に装備やアイテムの生産素材になる。
そして現状装備アイテムはダンジョン産の装備が大半を占めている。
実際、装備を求めるプレイヤーは、ダンジョンに潜るかバザーに出品されている装備を買うのが主流らしい。
解体屋は素材を集めることには長けている。
だが、その素材を欲しがる者が少ない。
需要のない供給は、どれだけあっても価値にならない――
それが、この世界で解体屋が敬遠される理由だった。
「鍛冶師の作る装備がダンジョン産に負けてるなんて事はないわ。ただ――」
鍛冶師はジョブレベルを上げるのに大量の素材を消費する。
とてもお金のかかることから、なり手がどんどん少なくなり、やがて今のダンジョン産装備が主流の環境に落ち着いているそうだ。
「なるほど。でももしかしたら俺みたいなプレイヤーもいるかもしれませんよね」
俺みたいにうっかり間違えて、サブジョブを選んでしまったプレイヤーがどこかにいるかもしれない。それに――
「モンスターの解体アイテムからレアが出やすくなるなら、今みたいに面白い装備が出てくるかもしれませんし、俺は解体屋のこと結構好きですよ」
それは、素直に口から出た俺の本音だった。
さっきゲットしたアルマクトの甲羅を見た時、俺は新しい装備にワクワクしたんだ。
装備を狙ってダンジョンに潜るのも楽しいだろう。
でも今みたいに予期しないところから出る装備も、サプライズ感があって俺は好きだ。
俺の言葉に、クリスさんは少し目を細めて「やっぱりいいわね、あなた」と言い、
シエラさんも「ふふ、ですね」と言って楽しそうに笑った。
しばらくの間、和やかな雰囲気が流れる――そしてクリスさんが唐突に口を開いた。
「ところで――ピコちゃんはどこ?」




