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11話 ラピードラビット

「ところで、この子のお名前を聞いてもいいですか?」


シエラさんはラピードラビットを撫でながら、俺に問いかけてきた。


(名前?……そういえば考えてなかった!)


「こいつラピードラビットって言う名前らしいですよ」


テイムしているのに名前を決めていなかったのが、何だかバツが悪くて咄嗟に種族名を言って誤魔化すことにした。


「もう、そうじゃな――って、ラピードラビット!?」


シエラさんは種族名を聞くと、ラピードラビットに視線が釘付けになった。


「そう…やっぱり間違いなかったわ」


クリスさんも真剣な眼差しでラピードラビットを見ていた。


「えっと、うちのラピードラビットがどうかしたんですか?」


二人の異様な反応に、俺は恐る恐る質問した。


「あら、ごめんなさい。そんな怖い話じゃないから安心して」


クリスさんは俺の不安を気遣いながら話を続ける。


「そうね。先に言っておくと、わたしはその子について詳しく知ってるわけじゃないの」


クリスさんは何を言っているんだろう?

詳しく知らないのにあんな反応するはずがない。


「と、いうよりね……たぶん、このゲームをしてるほとんどの人が知らないんじゃないかしら」


ますます意味がわからない。

このゲームのほとんどのプレイヤーが知らない!?

どういうことだ?


俺が混乱していると、ラピードラビットを抱えたシエラさんが口を開く。


「ユキトさん。わたしは、この子――ラピードラビットを倒したプレイヤーを知りません」


は?

小石が当たった程度で瀕死になる――言っちゃ悪いが、こんな雑魚モンスターを倒した報告がないだって?


疑問は当然、と言いたげなシエラさんは言葉を続ける。


「それについて詳しく説明しますね――」


シエラさんの話を聞くと、どうやらラピードラビットの遭遇確率はかなり低いという事がわかった。


まず、俺も気になっていたラピードラビットの名前の色について。

このゲームでは色によってモンスターの価値が変わるらしい。


黒はノーマル、銀はレア、そして金色がユニークモンスター。


ラピードラビットはレアモンスターに分類され、未だ討伐されたという話は聞いていないそうだ。


シエラさんの説明で、ラピードラビットがレアモンスターなのは理解できた。だが――


「あの、俺はこいつと戦って瀕死にまで追いやりました。俺にも狩れそうなモンスターなのになんで討伐されないんですか?」


「ラピードラビットは警戒心がとても強くて、レベルの高いプレイヤーでは遭遇することすらできないんです」


なるほど、少しわかってきた。


ラピードラビットは弱い反面、逃走能力がずば抜けていると言うことか。

だから高レベルでは遭遇する前に逃げられると。


「遭遇したプレイヤーのほとんどが低レベルだったらしいので、おそらくラピードラビットの特殊能力が関係してると思うのですが……」


俺はラピードラビットの持っている能力を確認するべく、ステータス画面のアイコンをタップする。


ラピードラビットのステータス画面が表示されると、スキル欄に2つのスキルがある事を確認した。


スキル:【危機管理】【脱兎】


【危機管理】

脅威度に応じてスキル保持者にのみ警鐘を鳴らす。

【脱兎】

逃走時にのみ、素早さ(AGI)を二倍にする。


なるほど、確かにこのスキルを持っていれば討伐されるリスクは限りなく低くなるだろう。


俺は二人にラピードラビットのスキルについて説明した。


「なるほどね、レベルの高いプレイヤーの報告がなかったのはこれが理由ね」


「すごいです。こんなスキルがあったなんて」


二人はラピードラビットのスキルを聞いて納得したようだった。


「もしかしたら、ラピードラビットをここまで追い詰めたのはあなたが初めてかもね」


「ユキトさん、すごいです!」


俺はニヤけそうになる顔を必死で抑えた。


討伐報告がないと言うことは、討伐どころかテイムしたプレイヤーは俺一人の可能性が高い。

そもそもモンスターテイマーのジョブについてる者が少ないなら、ほぼ確定だろう。


俺はラピードラビットに視線を送ると、どこか誇らしい気分になった。


ラピードラビットは俺と視線が合うと「キュゥゥ」と鳴いて反応してくれた。

可愛い奴め、やっぱりお前をテイムして本当によかった――


(……いや、ちょっと待てよ。このスキル、こいつが脅威と思う相手に強く反応するんだよな。つまり――)


「お前、俺のこと見下してた?」


このスキルの説明通りに受け取るなら、こいつはあの時少なからず俺の存在に気づいていたはずだ。

それなのに目の前の獲物を優先してその場から動かなかった。と、いうことは――


「…………」


「おい、こっち見ろ」


「…………」


こいつ、絶対わかってやがる!

今までの縋るような態度も演技だったのか?


「それで、この子の名前は何ですか?」


シエラさんはラピードラビットの名前の方が気になるのか、再び話題を戻すことにしたようだ。


「名前……サギ(詐欺)なんてどうですかね?」


シエラさんは「えー、可愛くないですよぉ」といって笑っていた。


「ええ、ほんと―に可愛くないですよね」


俺は未だだんまりを決め込むラピードラビットを見て、そう答えた。

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