10話 モンスターテイマー
「ところで、ユキトさんはどんな職業になりたいか希望はありますか?」
二人の職業を聞いた時に真っ先に浮かんだのは、アタッカーの存在だ。
タンクとヒーラーがいたとしても、それでパーティが成り立つわけじゃない。
圧倒的な攻撃力で敵を薙ぎ払うアタッカーは、このメンバーで冒険をするなら必須と言ってもいい。
それに、アタッカーはストレス解消にもってこいだしな。
「そうですね、お二人の職業を聞いてアタッカーなんていいかなって思いました」
「いいですねーって、表情が優れないように見えますけど、どうかしましたか?」
シエラさんの心配をよそに、俺は装備画面を操作して最後に決定ボタンを押した。
「アタッカー、なりたかったんですけどね……」
決定を押した直後、何もない空間から突如黒い穴が出現し、そこから一匹のモンスターが姿を現す。
出現させたモンスターに視線を送りながら、俺は深い溜め息をついた。
「きゃー、可愛い!なんですか、何なんですかこの子は!?」
シエラさんは目を輝かせながら、先程テイムしたラピードラビットについて問い詰めてくる。
そのあまりの勢いに、俺は木漏れ日の森で起きた出来事をシエラさんに説明した。
「私と合流するまでにそんなことがあったんですね……」
「ラピードラビットは見ての通りですし、とてもアタッカーになれるなんて思えません」
「うーん、そう決めつけるのはまだ早いかもしれませんよ」
シエラさんは少し考える素振りを見せた後、唐突にそう答えた。
「え?もしかしてモンスターテイマーって、アタッカー向けのジョブなんですか?」
「えっと……そういうわけではないんですが――クリスさん」
シエラさんは黙って話を聞いていたクリスさんに声を掛けた。
「なぁに、しぃちゃん?」
「クリスさんの周りに、モンスターテイマーの方っていましたか?」
「そう言われると……いなかったと思うわ」
シエラさんが意図するものが何かわからないのか、クリスさんは少し考え込むように言葉を返した。
「モンスターテイマーについては、実はわたしたちもよくわかってないんです」
よくわかっていない?
それでなぜ、決めつけるのが早いなどと言えるのだろうか。
思ったことが顔に出ていたのか、シエラさんは慌てたように言葉を続ける。
「えっと、このゲームって職業の変更ができないじゃないですか」
俺は無言で頷いた。そのシステムのせいで、俺はモンスターテイマーとしてプレイを続けなければいけなくなってしまったんだ。
「やり直しのきかないこの世界では、ジョブの選択ミスはかなり致命的なものになると思うんです」
それは、そうだろう。
ジョブが完全に平等だなんて、ありえない。
ダンジョン探索でのサーチを得意とするジョブや、トリッキーなモンスターを得意とするジョブなど、状況に応じてジョブの重要性も変わってくる。
それがエンドコンテンツともなれば、選ばれるジョブはごく僅かだろう。
場合によってはパーティの参加を断られるリスクも出てくるかもしれない。
「ですので、多くのプレイヤーは事前にどの職業がいいかAIを使って調べます」
俺はシエラさんの言葉に衝撃を受けていた。
(AI!?今の子はみんなそうやって調べてるのか……)
昔は攻略本を使って調べていたものが、今ではAIが主流になっていると聞き、驚きを隠せなかった。
たしかに俺がゲームをプレイしていた時も攻略本よりネットで検索が主流になっていたが、まさかもう一段階上の進化を遂げているとは……
確かに今の子供はすぐ答えを知りたがる。
「下手なやり方をしたくない」「最短で成果を出したい」――
そんな言葉をどこかで聞いた気がする。
決まった答えに向かって歩くのは、どうにも好きになれない。
たとえ後悔しても、自分で選んだ道を歩いていきたいと思っている。
だがそれは、俺がそう思っているというだけのものだ。
答えを聞きそれに沿ってゲームを進めるのも間違いではないし、それも正しい一つのプレイスタイルと言えるだろう。
「それでですね、わたしもAIを使っていろいろ調べていた時がありまして……その、モンスターテイマーは上位どころかおすすめに一切出てこなかったんです」
……でしょうね。
昔愛読していたネット小説では、モンスターテイマーは決して他のジョブに劣るものではなく、むしろ主人公の職業としてふさわしい強さを持って描かれる事が多かった。
でもそれは、伝説の魔物をテイムできたとか、戦闘力が凄まじい希少種を仲間にできた場合だけだ。
実際に俺がテイムできたのは小石が当たっただけで瀕死になるラピードラビットだけ……
こんな状態の職業がおすすめに出てくるわけがない。
「でも、ほとんどの人が選んでいないってだけで、必ずしも弱いとは限らないと思うんです」
シエラさんが言うには、ヴァルセリア・オンラインの運営会社は過度なネタバレを防ぐため、AIが材料にできる情報を極力制限しているそうだ。
AIでの検索を完全に禁止することはできない。
しかし、AIの言う答えは結局のところ、過去のプレイヤーたちが辿った道の中からでしか選ばれないという欠点がある。
やり直しがきかないこのゲームにおいて、プレイヤーの大半が失敗しない安定したジョブを選ぶことがほとんどらしい。
「なので……なり手の少ない職業だからこそ、まだ見たことのない可能性があるとわたしは思うんです!」
俺は何がしたかったんだ?
このゲームで最強にでもなりたかったんだろうか……
違うだろ!
一面見渡す限りの草原に雲一つない空、遠くに見えた森は恐ろしい森だったけれど、
俺はこのゲームをプレイしてみてすごく綺麗だと思ったんだ。
そしてこのゲームを楽しくプレイしたいとも思った。
それなのに勝手に弱いと思い込んで不安になるなんて――
俺が解体屋やモンスターテイマーになったのも、自分で進んで選んだ結果、後悔なんてすることなかったんだ!
「気を使ってくれてありがとうございます。何ができるかわかりませんが、このまま頑張ってみようと思います」
どうなるかわからない……けど、どうせならとことんやってやろうじゃないか。




