63 ルカを見守る太陽と月
【前回のあらすじ】
ソリを飛ばしてルカの元へ向かう太陽とルナ。
しかしルナの魔力が尽きそうになってしまう。
墜落しそうになるソリ。
太陽はルカに言われるがまま、ルナを鞭で鞭打する。
するとドMのルナはその快感で魔力を回復。
再びソリは高度を取り戻したのであった。
太陽「なんだこの酷いあらすじは…………」
「とうちゃーく♪」
「ルカ……俺……汚れちまったよ」
――上空50メートルで繰り広げられるSMプレイを続けて十数分後。
俺達を乗せたソリは、ルカがいる場所へ到着し、ゆっくりと着地したのであった。
「さぁ、早くルカちゃんに会いにいくわよ! たいよう君!」
満たされた表情のルナは、普段からスベスベの肌を更にツヤツヤに輝かせていた。
一方俺は肉体的にも精神的にもクタクタだ。
涙が止まらないのは、久々の地上が恋しかったからだろうか……?
「ここに、ルカが……」
とはいえ、俺の苦労も報われ、無事目的地に到着した。
俺もまた、ルナに続いてソリから降りる。
目の前にあるのは、石造りの巨大な神殿のような建物であった。
入口の近くの壁には、眉の下で一直線に前髪を切りそろえた、ロングヘアーの少女と思われるレリーフが彫られていた。
「(これは……巫女の像、か?)」
つまりここは、この世界の宗教施設のようなものだろうか?
見た目も神殿っぽいし。
「何者だ!?」
「そこを動くな!!」
――カチャカチャカチャ。
「ッ!?」
世界遺産に登録されていそうな、巨大な建築物に圧倒されていると、2つの人影が俺達に向かって走ってきた。
彼らは鎧と武器で武装している。
恐らくはこの施設の守衛をしている兵隊と思われる。
「なっ!? 巫女様!? なぜここに!? 今は交血の義の最中のはず!?」
「いや待て! このお方は先代巫女のルナエルナ様ではないか!?」
「そうよ。息子の華燭の典に参列するの。ここを通してくれるかしら?」
「例え先代巫女様であろうと、神聖な儀式に割り入ることは罷り通りませぬ!」
2人組の兵隊は、手に持った槍をバツ印に重ね、俺達を通せんぼした。
ルナは、そんな2人の手にそっと触れる。
兵隊に緊張感が走るが、先代巫女の身分にあるルナに対し、乱暴な対応は出来ずに、たじろいでいた。
「◆◆◆◆◆」
しどろもどろな兵隊に向かって、ルカは魔法を発動すると――
「なっ!? 急に眠気が……っ!?」
「ぐぅ……zzz」
糸が切れたように、2人は意識は失った。
小さく呼吸をしているのを見るに、強制的に眠らせる魔法を使ったのだろう。
「さ、行くわよたいよう君!」
「これ、不法侵入だよな……?」
「今更そんなこと気にしている場合じゃないわよ! さぁ早く!!」
「くそ……どっちにしろもう後戻りはできないって事かよ……!」
俺は罪の意識を感じながらも、胃に残留するアルコールの力も手伝ってか、先導するルナの背中を追い続けるのであった。
***
「それでは――交血の義を取り計らう。双方、聖杯に御血を」
「その結婚! ちょっと待ったああああああ!!」
――バ~~~~ン!
神殿の中はかなりの広さがあり、迷路のように入り組んでいたが、ルナは勝手知ったる迷いなき足取りで先導し、一際豪奢な扉を開け放った。
ルナと一緒に乱入したその部屋には窓はなかった。
しかしかなりの広さがあり、煌々と松明が焚かれていることもあって、圧迫感を感じることはなかった。
部屋の中央には、ピラミッドの頂点を平らにしたような、台形型の祭壇らしきものが鎮座している。
結婚の儀式と聞いていたので、ウェディング的な雰囲気をイメージしていたが、なんだかアステカ文明の儀式のような印象を抱いた。
台形型の祭壇の周辺には、神官と思われる者達が大勢おり――被ったフードの奥から覗く双眸が、一斉にこちらへ向けられる。
神聖な儀式を邪魔した部外者に向けられる、冷たい視線。
しかし俺はその視線を、一切気にもとめなかった。
なぜなら――
「ルカっ!?」
「たい……よう……? どうして……?」
――台形ピラミッド型の大きな祭壇。
その上に、ルカの姿を見つけてしまったから。
「あの巫女は偽物。わたしこそが本物の巫女よ!」
「ル、ルナ……っ!?」
ルナは大声を張り上げ、祭壇の上にいる巫女が偽物であると主張する。
その言葉を真に受けた神官達に動揺が走り、オロオロと、ルカとルナを見比べた。
しかし、見た目だけなら2人はクローンのように瓜二つ。
神官たちはどっちら本物か見分けることが出来ず、明らかに狼狽していた。
「狼狽えるでない! あの闖入者こそが偽物じゃ!」
そんな雰囲気に喝を入れる、老婆の声が響き渡る。
それは祭壇の上、ルナのそばにいる一際豪奢なローブを纏った神官が放ったものだった。
「ルナエルナ様! お戯れが過ぎますぞ!」
「げっ。やっぱり……ばあやの目は誤魔化せないか……」
「ばあや?」
「先代の神官長よ。ルカちゃんにとってのマルガレーテちゃんみたいな人なの。怒るとめちゃくちゃ怖いのよ?」
「なるほど……」
「例え先代巫女様であろうとも、神聖なる交血の義を邪魔することは許されませぬ! 者共、あの御転婆姫をひっ捕らえよ!」
ルナからばあやと呼ばれた老婆の一喝で、神官達は冷静さと統率を取り戻した。
そのまま俺達を捕縛するべく、こっちにやってくる。
「ふふふ! こちとら若い男の子に虐められたおかげで、たっぷりと魔力が溜まっているのよ! ◆◆◆◆◆◆◆!!」
「(どちらかというと虐められていたのは俺の方だけどな……)」
ルナは魔法を唱えながら、両腕を前方へ突き出す。
すると――
――ずどおおおおおんっっ!!
――彼女の腕の先端からトルネードのような、可視出来る風の魔法が飛び出し、神官達を纏めて吹き飛ばした!
「ぎゃあっ!?」
「痛いっ!?」
「ぐえぇっ!?」
そのままバタバタと落下していく神官達。
「だ、大丈夫なのかそんなことして!?」
「神官団は巫女の近衛隊も兼任しているのよ。この程度でくたばるような鍛え方はしていないわ! さぁ! 突撃よ! わたしに続きなさい!! うおおおおお!!」
「なんでそんなにノリノリなんだよ……!?」
「一度やって見たかったのよ。結婚式に乱入して花嫁を略奪するやつ」
「それを息子の結婚式でやるなよな!?」
いや、お願いしたのは俺の方だけどさ。
……いや。
……待てよ?
よく考えたら、俺は「もう1度ルカと会話するチャンスが欲しい」とお願いしただけで、「ルカの結婚式に乱入してめちゃくちゃにしたい」とは、一言も言ってないぞ!?
とはいえ、ここまで来て「タイミングが悪そうなので出直してきますね?」なんて言える空気ではない。
神官達なぎ倒しちゃったし。
あの、ルナさん?
なんでこんなことになってるんですかね……?
「ええい! こうなりゃヤケクソだ!」
俺も男だ!
覚悟を決めろ!
「どうにでもなれ! うおおおおおおお!!」
アルコールの力も手伝い、俺もダッシュでルカのいる祭壇へ走る。
とはいえ、石床の上で死屍累々と悶えている神官達を踏まないように跨ぐ理性は残っていた。
ルナは容赦なく踏みつけてたけど……。
祭壇は階段で登れるようになっていたが、この年になると階段の全力ダッシュだけで息が切れる。
「ぜぇぜぇ……!」
「たいよう!? どうして……!?」
「お前に説教しに来たんだよ! 何も言わずに去りやがって! この恩知らずが!」
「ん。手紙、残した」
「あんな紙ぺら1枚で別れを済ましていい訳ないだろ!」
「ん……ごめん、なさい……でも……」
ルカはいつものポンチョの裾を、ぎゅっと握り締めながら、申し訳なさそうに、目尻に涙を浮かべていた。
「ああいや、別に本気で怒ってる訳じゃなくてな……だからその、泣くな……」
「感動の再会の所悪いけど、続きはたいよう君のお家まで帰ってからにしましょう! まずはずらかるわよ!」
「あ、ああ。悪いなルカ」
「ひゃっ!?」
俺はルカの脇と膝に腕を差し込むと、お姫様だっこで持ち上げる。
どう見ても、昔のドラマでよくある花嫁を略奪するアレの構図だ。
ルカの場合は花婿だけれども。
そんな光景を、困惑しながら見つめるのは、ルカの隣にいるこれまた綺麗な顔をした少女。
恐らくは、ルカの結婚相手なのだろう。
「って訳で、申し訳ないんですけど、ちょっとお宅の巫女様お借りしますわ。本当に申し訳ないんだけども……」
花嫁の少女は、〝こくこく〟と首を縦を振りながら怯えていた。
ルナの口車に乗せられてこんな結果になってしまったが、この状況はどう見ても俺達が悪者だ。
皇族や王族の結婚式に乱入する一般人とか、中世ファンタジーの世界観ならそのまま死罪になってもおかしくない。
俺の狼藉が辛うじて許されているのは、同じくこの世界の権力者であるルナが後ろ盾になってくれているからに過ぎない。
「流石に度が過ぎますぞ、ルナエルナ様」
祭壇の下にいる神官は全てなぎ倒した。
けれど、ルカと共に祭壇の上で、この儀式を取り計らっていた先代神官長――ばあやと呼ばれる老婆に、退路を塞がれてしまう。
「ごめんねばあや、でも許して? 巫女としての務めを最後まで果たした先代巫女の、最初で最後のワガママだから? ね? お願い♪」
「ルナエルナ様のお戯れは今に始まったことではないでしょうに。どうやら、〝仕置き〟が必要なようじゃな? 腕の一本は覚悟してもらいますぞ」
腕一本って!?
怖いな!?
ばあやはローブの下に佩いていた剣を鞘走らせ、その切っ先をルナに向けた。
「まぁ、わたしなら自動回復魔法でまた生えるし、それに若い頃はそれくらいしないと堪えなかったから……」
「日頃の行いじゃねぇか……」
「ぐぬぬ……でも、流石にばあやを相手にするのは厳しいわ……どうしましょう」
圧倒的な火力で、神官を纏めてなぎ倒したルナだが、1人の老婆に冷や汗をかいている。
まあ、先代のマルガレーテのようなポジションに就いていたというのだから、腕が立つことは想像に難くない。
顔には深いシワが刻まれているが、鋭い眼力や佇まいだけで、思わず怖気づいてしまうオーラがある。
しかし――
「ここはワタシが食い止める! 早く行け!」
「なッ!? 血迷ったかマルガレーテ!?」
――キィン!
颯爽と飛び込んできた1人の神官が剣を携えて、老婆の間に割り込んできた。
2つの刃がギリギリと音を立てながら、鍔迫り合っている。
その神官は、豊かな金髪を後頭部で1つにまとめており、高くて綺麗な鼻は横から見ると、その美しさが顕著に表れる。
あのトレードマークのポニーテールを、見紛うはずがない。
「マルガレーテ!? どうして……!? お前はどう見ても神官側だろうに……!?」
――ルカの近衛騎士である、マルガレーテだった。
きっと近衛隊の中でも頭一つ抜けた身体能力で、ルナの竜巻魔法から難を逃れていたのだろう。
「体が勝手に動いてしまったのだから仕方がないだろう! それに、我が忠義は巫女という〝身分〟ではなく、ルカエルカ様〝個人〟に向けられたもの! ルカ様のためであれば、例え相手が神官団であろうと、剣を抜く覚悟だ!」
キンキンと――2人の神官が、火花を散らしながら剣戟を繰り広げる。
「すまないマルガレーテ!」
「勘違いするな! ルカ様のためを思ってだ!」
どうやらマルガレーテも、ルカと俺の別れが不完全なものであることに、思うところがあったらしい。
思わぬ援軍に感謝しながら、俺達は祭壇の階段を駆け下り、神殿を後にするのであった。




