57 卒業アルバムって実質黒歴史ノートだよな
【前回のあらすじ】
年末に向けて大掃除をすることになった3人。
そこで夕陽は、押入れの奥から謎の段ボール箱を発見したのだった。
果たしてその中身とは…………?
「で、結局この段ボールの中身なんなの?」
妹を乗せた強制プランクから解放された後。
無事大掃除も終了し、俺達3人はコタツを囲んで冷えた体を温めていた。
コタツテーブルの上を陣取るのは、押入れから出てきた謎の段ボール。
ガムテープで封がされているそれに、心当たりはない。
恐らくこのアパートに引っ越してから、1度も開けていない代物だ。
「ん。開ける」
「そうだね。あれだけ苦労したんだから」
「苦労したのは主に俺なんだけどな……」
「エッチな本出てくるかもだから、そしたらルカちゃんの目を手を隠してあげてねお兄ちゃん」
「生まれてこの方1回も買ったことねぇよ!」
なにせスマホが普及した現代では、その手のコンテンツはDL販売に限るからな。
なお、そのコンテンツもスマホ本体には保存しておらず、販売サイトからストリーミング視聴する形式を取っているので、ルカの目に触れることもない――はず。
あと夕陽も未成年だから、エッチな本が出てきたらお前も目を瞑らないとダメだからな?
と――思ったけど、コイツの中身はもう取り返しがつかないくらい、薔薇の絡み合いで腐りきっているので、今更か。
絶対pixivのR18ページに、年齢詐称してログインしてるタイプだろ。
お兄ちゃんにはお見通しだかんな。
「んじゃ、御開帳~」
「ん。薄い、本?」
「薄い本!? やっぱりエッチなやつじゃん!?」
「だから持ってねぇよ! って、これ……卒業アルバムか」
段ボールの中から出てきたのは、小学校から高校までの卒業アルバムだった。
「(あー。そういえばこんなのもあったな)」
見た目より重かったのも納得だ。
紙が厚いから、3冊分になると結構な重量になるんだよな。
捨てるに捨てられなくて、引っ越しの時持って行ったものの、開けることなく押入れの奥に封印していたのを、今思い出した。
「ヤバ! 激レアアイテムじゃんね!? そういや私、お兄ちゃんの卒アル見たことなかったよ!」
「見んでいい見んでいい。ていうか恥ずかしいから見ないでくれ」
「え~? ルカちゃんもお兄ちゃんの卒アル見たいよね? てかルカちゃん卒アルって知ってる?」
「ん。犯罪とかで全国ニュースに取り上げられると、ネットに速攻で流出するやつ」
「だからなんでいつも偏った情報ばかり知ってるんだよ」
俺は卒アルを取り上げようとするも、夕陽とルカが目をウルウルさせながら、〝見たい〟オーラを放ってくるので、渋々許可を出すのであった。
「まずは高校から……あっ! お兄ちゃんいた! ほらルカちゃん、高校生の時のお兄ちゃんだよ」
「ん。髪の毛、ツンツン」
「ね~。ちょっとイキり気味だよね~」
「高校生なんだから仕方ないだろ」
今はお洒落には無頓着だが、高校生の頃には人並に身だしなみは整えていた。
卒業アルバムの写真を撮る日に、一生残るからと、鏡の前で前髪を微調整し続けていたのを思い出す。
穴が2列になってるごついベルトつけてたり、ポケットからチェーン垂らしたりしてたなあ。
懐かしい。
「次は中学校いってみよー」
「ん。今とあんまり、変わらない」
「お兄ちゃん成長期来るの早かったからねぇ。この時には既に身長172あったよね?」
「そっからは1年で1センチしか伸びなかったけどな」
夕陽は最後に、段ボールの底にしまってある小学校のアルバムに手を伸ばす。
「ええとお兄ちゃんは……これだ!」
「なんか毎回見つけるの早くない?」
夕陽、もしかして俺の歴代のクラス全部把握してたりする?
俺もう中学の時、何組だったか覚えてないよ?
お兄ちゃんちょっと怖くなってきちゃったな……。
「ん。今と全然、違う」
「ね~。あのお兄ちゃんにも、こんな可愛い時期があったんだよ」
夕陽が指差す写真には、僅かに俺の面影を残した可愛らしい少年が映っている。
こっから中学で30センチ伸ばしたんだよなぁ。
「流石に小学校の顔見られるの、恥ずかしいんだが……? もう片付けるぞ」
「あっ。こっちは卒業文集だね。え~、なになに? 将来の夢……〝大切な人を照らす太陽みたいな人になる〟だって」
「あっ!? ちょっ!? まっ!?」
いつの間に!?
俺は慌てて10年前の黒歴史を奪い取るが――時既に遅し。
「ん。大切な人を照らす――」
「――太陽になる、だって」
「「太陽だけに……ってコト?」」
「こ、殺してくれ……ッ!!」
顔を真っ赤にしながら、俺は畳の上に頽れる。
やめようよ。
人の若気の至りを笑うの。
畳の上でゴロゴロ暴れる俺に、ルカが「ん。たいようは、ぼくにとって、太陽みたいな人だよ?」とフォローを入れてくるが、残念ながら追撃にしかならないからやめて欲しい。
今その優しさはマジで必要でないから。
***
「ふー、楽しかった!」
「ん。満足」
俺へのとんでもない辱めは良いエンタメになったようで、2人はとても上機嫌だった。
でも、捨てられないんだよな……卒アル。
この青さや痛さもまた、今の俺を形作る大切な思い出の1つなんだよな。
と――恥ずかしさで吹っ切れたのか、これまた恥ずかしいことを言ってしまう俺だった。
「いやぁ、昔のお兄ちゃん可愛かったねぇ」
「ん。たいようにも、こんな時期があったの、意外」
「そりゃあるよ。人間なんだから」
くそ。
こりゃ次は夕陽の卒アル持ってきてもらわないとつり合いとれないぞ。
小学校の頃の天使みたいな夕陽の写真を、これでもかと愛でてやるから覚悟しておけ。
今の夕陽も天使であることに変わりはないけども。
「そう思うと、ルカちゃんもいつかは大人になっちゃうんだよな~」
「っ……!?」
夕陽はコタツテーブルの上で肘をつき、頬を乗せながら、ルカの将来に思いを馳せている。
「ルカちゃんはかなりの美少年だし、顔も小さいから、Kpopアイドルとか似合いそうだよね」
「ケツ丸出しだから無理だろ」
「ん。丸出しでは、ない」
だとしてもルカの場合、ステージの上で激しいステップを踏むたびに、ポンチョが捲れ上がっていたら、そのたびにモザイクをかける手間が増えてテレビ局からは不評だろうな……。
「ふふっ。ルカちゃんがどんなイケメンに成長するのか、楽しみだな~。お兄ちゃんはほら、成長すると残念になるタイプの顔だったから」
「例え家族でも言っちゃいけないタイプの悪口だろ」
悪かったな残念になるタイプの顔でよ……。
「でもルカちゃんは絶対イケメンになるよ。私が保証する! 中顔面も人中も短いし、鼻も綺麗なEラインだしさ!」
「何言ってるのか全然分からん」
なんの呪文だよ。
ルッキズム系の話?
数年前まで無邪気な天使だった夕陽が、「鼻の高さが~」とか「顔の大きさが~」とか「パーソナルカラーが~」みたいな話をするのは、兄として若干複雑な気持ちではあるが……。
夕陽だって息の詰まるような現代に生きるZ世代のJKなのだ。
色々と影響されてしまうのは、仕方ないのだろう。
でも整形したいとか言いだしたら、俺としては止めたい。
そのままでも十二分に……否! 二十分に可愛いのだから!
「…………」
「(……ルカ?)」
夕陽が年頃のJKらしく、男性アイドルに思いを馳せている一方。
話題がルカの将来の話になった瞬間、どこか憂いを帯びた悲し気な顔で、顔を伏せてしまった。
その小さな肩は、僅かに震えている。
「(そういえば……ルナが初めて来たときも、こんな顔をしていた気がする)」
あれは確か……。
『ルカちゃんはもう魔王を封印する魔法使っちゃったし、次世代の巫女を作ってもらうためにも、〝精通〟できる年齢まで大きくなってもらわないと』
ルナはルカに、次の巫女を作って貰うのが早急の課題であると言っていた。
そこに、ルカを不安にさせる〝何か〟があるのだろうか?
***
それから数時間後。
日が沈む直前まで夕陽と雑談をしたのち、夕陽はボロアパートを後にする。
ルカはパーティの後の虚しさを紛らわすように、俺の膝の上でYouTubeを見ていた。
俺はルカの頭越しに、その映像を流し見しなが――ルカの絹糸のような銀髪を、指でクルクルと巻き付けたりして、手慰みに弄んでいた。
ルカは時たま頭皮が引っ張られて、こそばゆそうに身を捩ったりするものの、拒絶するような反応は見せてこない。
「…………」
やがてルカは、目を休めるようにスマホの画面を消し、小休止と言わんばかりに、俺の胸に後頭部を預けながら伸びをする。
そうして静けさが戻ったタイミングで、俺は意を決して、ルカに問いただした。
「なぁルカ」
「ん。なに?」
「将来について、何か不安でもあるのか?」
「…………っ」
将来――という単語を聞いて、ルカはビクリと肩をこわばらせた。
俺は、ルカにそんな顔をさせてしまったことに、少しだけ後悔する。
それでも俺は、家族として問いたださずにはいられなかった。
「ん。なんで、そんなこと、聞くの?」
「異世界の巫女の身分上、イロイロ複雑な事情があるんだろうけど、何か悩みがあるなら、聞くぞ?」
ここ最近のルカは、感情に合わせてコロコロと表情を変える子供特有の無邪気さの中に、時たま見ているこっちの胸がキュっと締まるような、切ない表情をする時がある。
特に――話題が〝将来〟の話になる時に。
今日だってそうだった。
「ん。大丈夫。本当に、大丈夫、だから」
「そ、そうか……なら、いいんだ」
ルカは自身の髪を弄んでいる俺の手を掴むと、自身の薄い腹部へと誘導してくる。
俺はルカの意図を察して、シートベルトをするように、背中越しにルカを優しく包み込む。
「…………」
「…………」
2人の間に会話はない。
ルカは俺に対し、秘めている鬱懐を打ち明けてはくれないらしい。
それでも、ルカの胸中には確かに憂いが存在しており、今もルカの心を蝕んでいる。
今の俺はただこうして、ルカのそばにいて、物理的な接触で慰みを与え、その痛みを一時的に和らげてやることしかできない。
「…………今日は寒いな」
「……ん」
ルカの小さな肩は震えていた。
その顔は、とても悲しげで、苦しそうで、俺は見ていられなかった。
ルカのデリケートな部分に、不躾に触れてしまったことを反省してしまった。
だから――俺はそれ以上問い詰めることが出来なかった。
時期が来れば、きっとルカの方から相談してくれるだろう。
なんて、楽観的なことを思ってしまった。
でも俺はこの時――無理やりにでも、強引にでも、ルカに問いただすべきだったのかもしれない。
魔王を封印してから、ルカは頻繁に向こうの世界とこっちの世界を行き来するようになった。
恐らくは、そこに何か、ルカの心にしこりを残す問題があるのかもしれない。
俺には異世界の事情なんか分からない。
それに俺は異世界人からすれば、ただの現地協力者。
つまりは部外者である。
だとしても、俺にとっては、ルカはもう――大切な家族だ。
ルカに何か悩み事があるのなら、例えルカが口を閉ざそうとも、真摯に向き合い続けるべきだった。
そんな後悔をしたのは――全てが手遅れになった後。
ルカが俺の前から姿を消してから、俺はようやくするのであった。




